「見た目」より「機能」 トイレ編

マンションのリノベ体験を綴った新刊のタイトル前半は「徹底的に考えてリノベをしたら」となっています。

この「徹底的に考えたら」の意味を、トイレを題材に説明してみましょう。

まずはリノベ後のトイレの写真をご覧ください。

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ツイッターで「トイレのドアが無い!」と話題になったとおり、トイレを独立した個室にせず、洗面所内でオープンに配置してます。

日本では珍しいけれど、欧米では一般的なスタイルです。

★★★

私は閉所恐怖症的なところがあり、日本のトイレの狭さ、圧迫感がとてもキライでした。

また、インテリアとして「トイレっぽいトイレ」「水回りっぽい水回り」が好きではなく、「トイレも洗面所もお部屋のようにしたい」と考えていました。

下記はトイレに座った時、目の前にくる壁ですが、お気に入りの絵のジグソーパズルを飾り、お部屋のように落ち着いた空間にしています。

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こう書くと、「自分の好みを突きつめた究極の趣味トイレ」に思えるかもしれませんが、実はそうでもありません。

リノベする際に大事なのは「機能」と「見た目」のバランスです。

機能とは「いかに使いやすいか」であり、「見た目」とは「いかに自分の趣味に合っているか」です。

後者はぶっちゃけ個人の趣味なので、こういうトイレを「素敵!」と思う人も、「まったくピンと来ない」人もいるでしょう。

見た目に関しては個々人が好きに考えればいいんです。

でも、「見た目」を優先しすぎると、往々にして「機能」が犠牲にされてしまいます。

今回、「徹底的に考えた」のは、いかに機能を犠牲にせず、好きな見た目のお部屋(この場合トイレ)にするか、ということでした。

★★★

私はとても実務的な性格なので、なんであれ「見た目」を「機能」より重視することはありません。

ヒールの高い靴なんて(いくら足が長く見え、背が高く見えるとしても)履く気がしないし、お化粧も最低限しかしません。

日焼け防止や保湿は大事だけれど、「目を大きく見せる」みたいなことには価値を感じないからです。

このトイレも、「見た目優先で作ったでしょ?」と思えるかもしれませんが、まったくそうではありません。

実はトイレを個室にせず、オープンな洗面室に配置すると、足や腰をケガした人にはとても使いやすいトイレになります。

このことを実感したのは、足を悪くした母のために実家の水回りをリフォームした時なんですが、本人だけでなく、介護をする側にとっても、トイレを広くするメリットは絶大なんですよね。

新刊でも「親の家のリノベ」に関しては一章をまるまる使って説明していますが、

40代半ば以降にリノベして 20年は住む気だというなら、トイレをバリアフリーかつ、オープン配置にすることは、必須と言えるほど合理的な判断です。

ちなみに、
すでに若くもない私の周りでは、家族にも友人にも「ぎっくり腰になった!」という人がけっこういます。

そういう時も、這ったままの方向転換ができない、体を引いてドアを開ける必要のある開き戸トイレはとても不便です。

さらに言えば、若い人だってスポーツや自転車でケガをして、一時的に松葉杖を使うことはあるでしょう。

そういう時にもオープン配置のトイレはとても使いやすい。

だから介護施設や障害者用のトイレって、どこも広く作ってあるんです。

つまり我が家のトイレがこうなったのは、「広々としたスペースが好きだから」「お部屋のような内装にしたいから」という見た目的な好みのためではなく、まずは「なにかあった時にも使いやすいから」なのです。


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こんなトイレ、ひとり暮らし以外ではムリでは?

と思われるかもしれません。たしかに大人4人の家族では使いにくいと思います。

でも「大人ふたり+小さな子供ひとり」までなら問題ないんじゃないかな。

目安になるのは、「海外旅行に行った時、ホテルで不便を感じたか?」です。

海外では、普通の家もホテルも「バスルーム」という名のスペースに、お風呂、洗面台、トイレなどがオープン配置されていることが大半です。

こういったホテルの一室に家族で泊まった時、「すごく不便だった」か「特になにも感じなかったか」によって、自分たちのスタイルがわかります。

後者であれば、家がそうなっていても「特に不便もなにも感じない」可能性があります。

ちなみに欧米だけでなく、ドラマでみるかぎり韓国の家もトイレは洗面室にオープン配置ということが多く、

「トイレを必ず個室として独立させる」国って、日本を含め、むしろ少数派なのでは? と思うほどです。

★★★

今回のリノベではこの他にも、水回りに関しては「ぎっくり腰になった時」「足をケガして杖が必要になった時」「万が一、車椅子になった時」を想定し、

「まずは機能!」を優先して設計してもらいました。

・ベッドからトイレを近く
・トイレから浴室を近く
・洗面台の下をオープンに(車椅子に座って使える)
・トイレも洗面所もドアを最小限に。かつ引き戸に。(開き戸はゼロ)
・洗い物のしやすい洗面台にする

などは、母の健康状態(特に足)がどんどん悪くなっていくのを見ていて本当に大事だと感じた点です。


床材に関しても「そこまでお部屋みたいな洗面室にしたいなら、床はサイザル麻にしては?」と、自然素材の床材を提案されたのですが、こちらもスパっと断ってしまいました。

実は前の家でDIYをし、自分で洗面室にサイザル麻を敷いてみたことがあるんです。

たしかにしゃりしゃりした足触りはとても気持ちよく、リゾートホテルのようで見た目も素敵でした。

でも、サイザル麻は水に弱く、水回りに使うと、飛びちった水滴で隅のほうから少しずつ黒ずんで(腐って?)しまいます。

数年ごとに張り替える気ならいいですが、格安なフロアタイルのほうが圧倒的に長くキレイに使え、お手入れもラク。

見た目や質感にすぐれた自然素材を選ぶ人もいていいと思いますが、超のつく実務派である私は、掃除しにくさや汚れやすさを我慢してまで、見た目や質感を優先したいとは思えませんでした。


また、トイレにはタンク上や壁際などに「トイレ後の専用手洗いボウル」がついたものも多いのですが、こちらも「ヤです」と断りました。

トイレに附属した手洗いは小さいモノが多く、石けんを使ってしっかり手洗いするのが難しいからです。

きちんと手洗いできないと、家族間での風邪、インフルエンザ感染や食中毒の原因にもなります。

「手に付いたバイ菌をしっかり落とす」という本来の目的(機能)を突き詰めれば、あんな狭い空間に小さな手洗いを作るより、トイレ自体を洗面台と同じスペースに(オープンに)配置し、手はそちらでしっかり洗うほうが、よほど合理的です。

反対にあそこで「しっかり手を洗う」を実践すると、水しぶきが床に飛び散り、掃除も面倒です。

次に使う人にとっても、前の人の手洗いでトイレの床が濡れてるのって、気持ちのいいものではありませんよね。

そういうことを徹底的に考え、「附属の手洗いはつけない」と決めたのです。

★★★

リノベ後のトイレ写真を見て、「おしゃれだけど使いにくいのでは?」と思われた方もいるでしょう。

でも実際には反対です。私は(これに限らず)「見た目のために機能を犠牲にする」ことはしません。

健康な時、元気な時はトイレなんてドアがなくても困りません。譲り合って使えばいいだけです。

でも、足をケガしたとたんに狭いスペースで体を手前に引き、開き戸を開けて入らねばならないトイレはものすごく不便になります。

そういった「いざという時にも使いやすいという機能を最優先に考えた」上で、「好みの内装もあわせて実現」したのが、上記のようなトイレなのです。

また「トイレにここまでのスペースを使ったら、他の場所が狭くなるのでは?」と思われるかもしれませんが、それも誤解です。長くなるので、それら詳しいことに関心のある方は下記の本をお読みください。


というわけで、今日はトイレについて説明しましたが、新刊ではキッチン、間取り、収納などあらゆる面に関して、

「本当に使いやすい収納とは?」「本当に機能的なキッチンとは?」と徹底的に(自分のアタマで!)考えたプロセスをご紹介しています。

リノベに関心がなくても、収納法や家具配置を考える際にもきっとお役にたてることでしょう。

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そんじゃーね