おふたりのご見識に感動

ご結婚 50周年ということで天皇&皇后関係の報道が増えています。皇室ミーハーとして、ちきりんもこういった報道を興味深く見ています。

その中でも一番感動したのは、女性誌でアグネスチャンさんが紹介していたエピソードです。


彼女がまだ学生だった頃、留学生会館に今の天皇と皇后(当時は皇太子夫妻)がいらっしゃったそうです。

その時、現場で係の人が留学生を部屋の壁に沿ってぐるっと並ばせたそうなのですが、

その並ばせ方が「右から白人、次がアジア人、その次が・・」というように“肌の色の薄い人から濃い人に順に並ばせた”らしい。

白人から始まり、最後がアフリカ系の留学生、という感じかな。


この係員が宮内庁関係の人なのか留学生会館側の人なのか、わかりません。

アグネスはもちろん「これはちょっとな〜」と思ったそうですが、皇室の人と会うなんてすごく特別な機会で、現場もぴりぴりしていたため、みんな黙って指示に従ったらしい。

その場にいた留学生たちは(白人の人も含め)みんな同じような気持ちだったでしょう。


そして彼等がその微妙な気持ちを心に秘め直立して待っていると、そこにお二人が入ってこられた。

そして、入ってきてすぐにお部屋で待っている皆を見ると、顔色一つ変えずに「肌の色の濃い学生」の側から順に回り始められた。ひとりひとりにお言葉を交わしながら。

当時学生のアグネスはびっくりし、そして次の瞬間に大感激し、もうなんの言葉もなくてもその行動をもって一瞬にしてお二人を尊敬するようになったと書いていました。


これ、私にはこの係員の方を責める気はありません。おそらく 40年も前のことです。

係員の人は一度も海外に行ったことがなかったかもしれないし、自分が有色人種として差別される体験も一度ももってなかったかもしれない。

欧米追随とアジア軽視の教育をずっと受けてきた時代の人だろうし。いずれにせよ、そういう並ばせ方をすることの意味を理解できなかったのでしょう。

初めて黒人をみた子供が「おかあさん、この人の肌黒いよ!!」と叫ぶのと同じです。それを責めてもしかたない。


が、あまりに立派なのがお二人の行動だと思うのです。こういうことが自然に、しかも瞬時に判断できるのはすごいなあと。

おふたりは、自分達のその場での行動が=右から回るか左から回るかと言うことが、単に人種差別云々だけではなく、

日本にとって長期間にわたり、ものすごく深く大きな意味を持つであろうことを瞬時に理解されたのでしょう。


おふたりは当然、自分達が日本の元首、象徴と見られていることを理解されていた。

そういう人が「やっぱり白人尊重、アジア人や黒人を軽視」する感覚を持っていると思われたら、

様々な国からきている留学生達がこれからの長い人生の中で日本についてどういう印象を持ち続けるか。

国に戻ればエリートであろう彼等の話を聞いたそれらの国の他の人達が、日本をどういう目で見ることになるか。


並んでいた留学生の中にはアグネス始めアジアの国の人も多かったでしょう。

日本が占領したり攻め込んだりした国の人もいたはずです。これらの人にとって皇室の人は必ずしも尊敬できる対象ではありません。

「日本人は今でも自分達を劣った民族だと考えているのではないか? 自分達だけが白人と同様で、それ以外を見下しているのではないか?」と思っているアジアの人がいても不思議ではありません。


しかも、アジア、中東、アフリカからの留学生の中には、当時の日本での日常生活においても、差別的な扱いを受けていた留学生がたくさんいたでしょう。

お二人はそれを十分に理解されていたと思います。

そして、そんな人達の前に出た時に日本の象徴となる人達がとったとっさの行動の重みは、想像を絶するインパクトがあったことでしょう。


この時のおふたりの行動は、どんな言葉でそれを説明するよりも強力に「日本がこれから海外に向き合う時の基本姿勢」を示された、と思うのです。

お二人は特別な教育を受けた方ではあるけれど、当時はまだ 20代かせいぜい 30代です。

そういう若さでこれだけの見識をもつ方を国のトップ(当時はセカンドトップ)の象徴としてもてたことは、日本にとって大きな意義があると思います。


そしておそらくこの時だけではありません。似たような話が何度もあちこちであったのではないか、とちきりんは思います。

この二人が海外訪問等を通して残したすべての印象が海外の人にとって「日本が世界をどうみているか」を象徴してしまうのですから。

アグネスだって「お二人の思い出」として書いていますが、もしも悪い印象が残れば、それは間違いなく「お二人の行動」ではなく「日本人の行動」として記憶されたはずです。


今、日本の政治家は世界中で恥をさらしているでしょ。日本の大臣の酩酊会見をみた海外の人は、それをその個人の問題だとは思わないです。

「日本の政治家ってのは・・」「日本人ってのは・・」と思っているはずです。

ああいう立場の人は海外にでれば「日本人は、」と言われる立場にいるのです。

また、今は当時と違ってインターネット時代です。ひとりの人の行動が短期間で世界中に報道されてしまいます。

それなのに、人生の後半の年齢を迎えて政府の要職にあってさえそれを全然理解してない人が多い中で、

20代、30代の頃にそのことを体で理解し、とっさにこういう判断ができる人が日本の象徴として海外と接し続けてきたことにより、私たちの国が得たメリットはとてつもなく大きい。


むしろ残念なのは今がネット時代で、このエピソードの当時がネット社会でなかったことですよね。

当時既にすべての留学生がネットとつながっている時代であったなら、おふたりの行動は(いずれの行動であったとしても)数日中に世界中に伝わり、大きな反響を生んだのではないかとも思います。


この記事を読んだだけで感涙した涙腺の弱いわたくし。

もし自分がこの現場にいたら、その場で感動して泣いちゃってたかもと思います。


人が新しいことを学び、見聞を深めさまざまに体験することの意義があるとすれば、それはこういうとっさの時に

「自分の発する言葉ひとつ、小さな行動ひとつが他者からみてどういう意味をもつのか」

ということを、事前に、かつ深く理解できるようになることなんだな、と思いました。



ではでは


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