少子化対策 子供は増えるか?

非常に長い間、トレンドとして日本の子供の数は減り続けています。これはどこかで転換点を迎えるのでしょうか?

なかなか難しい問題ですよね。世界には実は日本よりも少子化が進んでいる国もあります。つまり日本の状態は決してそんなに特殊ではないのです。それだけに、思いつきのようなちょっとした努力ではこのトレンドは変わらない、と思えます。


出生率についてちきりんが知っていることを列挙すると・・・

  • 韓国やシンガポール、香港など、日本より出生率の低い国もアジアには多い。
  • イタリア、ドイツ、日本という旧枢軸国は相対的に出生率が低い。
  • アメリカは特殊出生率は2.0以上だが、民族別に状況がかなり異なり、アングロサクソン系白人の出生率は低い。
  • 出生率を上げることに成功したフランスやスウェーデンにおける“子供関連の補助金は半端な額ではない”。

ということです。


まず、漢民族に関して長らく一人っ子政策を続けてきた中国は別として、韓国と日本は非常に似た状況です。いずれも出生率が低く、一人の子供にめちゃくちゃな教育費をかけて育てる、という図式。

またシンガポールはかなりエグイ国で、女性の学歴に応じて出生率を管理していて、高学歴女性の出生率が低いことを問題視したりしています。(こんな議論自体が日本では怖くてできないでしょう・・)


また、元枢軸国の出生率が低いことの説明としては、下記のような意見があるようです。

  1. その昔は「子供=労働力」だったので、皆できるだけ子供を産みたがった。
  2. 子育てにお金がかかるようになり、「子供=消費」になると、子供の数が減った。
  3. 男尊女卑の慣行が強い国(元枢軸国。民主的ではなく家長的独裁者が支配する社会)では、女性は、「子供か仕事かという選択を迫られる」ため、子供の数がより少なくなった。(性差別の少ない社会では、女性はこの二つを選択ととらえず、両方獲得しようとするため、出生率が比較的落ちない、ということらしい。)

なるほど〜


ちなみに、フランスは子供が 3人いるといろいろ積み上げて政府から月額 10万円近い補助金をもらっている家もあるし、母親は子供ひとりにつき 3年程度の“仕事保障期間”が与えられる。

これは子供一人産んで仕事を休職しても、3年後に“同じ仕事に無条件で採用される”ということです。理論的には 3人生むと 9年後まで仕事が確保されてるってことにもなります。

もちろん仕事を休んでいる間の給与はでませんが、所得保障的な補助金もあり、「 3人育てて毎月 10万円もらえて、育児が終われば仕事復帰の保障がある」なら生もうかな、という感じになりそうでしょ。日本みたいにもらえるのは月額 1万円ほど、仕事もキャリアも失ってしまう、という状況とは全然違います。


というわけで、「日本も本当に出生率を上げたいなら」ということで考えますと、下記です。(ホントにそこまでのお金掛けて出生率を上げる努力をすべきかどうかは、ちきりんは懐疑的です。個人的には人口が減ることをそんなに悲観的にも思ってないので。ですが、ここでは、もしそうしたいなら、という話です。)


ポイントは、社会で子供を育てること。子育てのコスト、手間を個別の家庭、個人(特に母親という個人)ではなく、より広い範囲で負担することです。よく言われている話ですね。で、そのためには、“子育てプロセスの分離分解”がまず必要です。分解して、少しずつ皆で引き受ける、ということです。


出産と子育てのプロセスを分解すると

  1. 妊娠して出産する。
  2. 目が離せない時代を育てる。
  3. 教育する。
  4. 上記に必要なお金の負担

となります。


妊娠して出産するのだけは、適齢の女性しかできません。これは、妊娠前後期間の一年くらいに対して補助を出す必要があるでしょう。加えて、出産後速やかに仕事に戻れるようにする、ってのは最低限必要です。パートだろうと正社員だろうとね。


二番目のプロセス。目が離せない時期の子育ては、土日祝日や夜間も含め、ほぼ 100%保育園を完備しないとだめでしょう。

ゼロ才から預かり、病気の時も看護婦、医師が手当てできるように。つまり、母親も父親も仕事を中断して駆けつける必要がないようにするってことです。

上に書いたように“親が子育てをする”という常識を排除するってことです。子育ては社会がやるんです。(保育所を整備して、誰でも毎日一定時間子供を預けられるようになったとしても、親の負担はかなりのものです。)


三番目の教育も同じ。学校と放課後の教育も社会で引き受ける体制が必要。もちろん高校まで教材費や修学旅行費、医療費などすべて国庫負担。

で、18才になったら社会の役割は終わり。だってここから後だけでも個別の親、家庭はそれなりのコストを迫られます。なんだから、せめて 18才までは個別の家庭にはその負担は一切なし、というくらいの覚悟で支援しないと子供なんて(今、生む気のない人が)生んだりしないと思います。


問題は、そこまでして「社会として子どもを増やしたいか」という最初のところに戻るんですけどね。

ちなみに、日本では少子化といっても3人兄弟の家はたくさんあります。少子化の一番の原因は、子どもを全くもたない家庭(結婚していない単身家庭を含む)が増えていることです。

だから、一人っ子の家庭にもう一人産ませる、ではなく、子どもを生まない人に一人でもいいから生ませる、結婚さえしてない人に、結婚させて子供を生ませる、ということが実現できないと少子化は止まりません。


これはすごいことです。「子どもゼロ→子ども一人」というのは、生活を根本的に変える必要があるんです。「子ども一人→子ども二人」とは変化の度合いが違います。上の対策案読んで、「やりすぎだよ〜」と思う方もたくさんあると思います。

が、だったら! 子ども増やそうとするの、そもそも止めましょう。人口少々減ってもいいし、移民入れてもいいよ。と考えを変える必要があります。それくらい少子化対策、子育ては大変だし、覚悟して本腰入れて支援しないかぎり少子化対策が功を奏すことはないと思います。


フランスもスウェーデンも消費税は 20%前後だし、生活者の税負担は非常に重いです。そういう負担をしながら、「少子化対策」にどーんと予算をつぎ込んでいます。

ちまちました少子化対策を打ち出してくるお役所の皆さんと政治家のおじさん。いったい“子どもを増やすために、どの程度の犠牲を払う気がある”のでしょう?どの程度の覚悟があるのでしょう?

ちょこっと補助金だしたら子ども生む人が増えると思っていますか?そんなこと思えるおめでたい人というのは、自分で子育てしたことない人だけでしょう。子育ての大変さを知らないから、そんなにおめでたい議論が毎年続けられるんだと、ちきりんは思います。



今日の結論。
生むこと、育てることは生半可なことではありません。ほんとに大変なことなんです。本気で子どもを増やしたいと思うなら、それだけの覚悟を持ってください。


ではまた明日