法治国家。なのか。

公権力、国家権力って怖いんだな、と思ったニュースがいくつか続いたので、書いときます。


最初は「自衛隊宿舎で反戦ビラをまいた市民団体活動家が住居侵入罪で有罪になった」というニュース。

「住居侵入罪」と聞くと忍び込んだとか、鍵を壊して押し入ったと思うかもしれませんが、そーではありません。団地ポストにビラを投函した、もしくは各戸の郵便受け、新聞受けにビラを入れたという話です。

東京のマンションにも山ほどチラシが入りますよね。新聞の折り込みチラシや郵送ダイレクトメールではなく、投げ込み屋というアルバイトの人が配ってるもの、厳密にはあれも「住居侵入罪」です。

マンションの敷地に、多くの場合「居住者等以外入るな」という表示があるのに、入って配る。本当は同じ罪です。だけど普通、そういうことで逮捕されたり起訴されたりはしません。

ところが行為としては同じでも、ビラの内容がピンクチラシなら捕まらないけど、反戦ビラなら逮捕されます。配っている人がアルバイトなら捕まらないけど“市民団体の人”なら捕まる。一般マンションなら捕まらないけど、自衛隊の官舎なら警察の動き方は全く違う。

ひどい場合、目を付けられている左系団体の人は、ずっと尾行されていてどこかのマンションの玄関ホールに入ったところで、いきなり「住居侵入の現行犯で逮捕する!」とやられるわけです。


これ・・・「法治国家?」って感じがしますよね。本当はこういう「恣意的な国権発動」はあってはいけないのです。でも実際には、この国の国家権力は極めて恣意的に、独善的にその力を振るいます。

いったん警察に目を付けられたら最後、どこかのマンションの敷地に一歩はいると「住居侵入罪」、何かを予約したり応募する時に友達の住所や名前を使うと「私文書偽造罪」、どこかの壁に「反戦!」のポスターを貼ったりすると「器物損壊罪」となります。

不倫旅行で偽名で泊まる人や、フリーメールアドレスを仮名で取得する人、何かの応募用紙に適当な電話番号を書く人は、少なくないでしょう。こういう場合、警察はその人が“逮捕したい人”であれば逮捕するわけです。これは、法治国家ではありません。


★★★


別のニュース。

六本木のロシア人経営のバーが風営法違反で摘発されたというニュースがありました。その理由が笑えます。

「ダンスホールとしての許可を取っていないのに、客を店内で踊らせた」ということで風営法違反です。バーとして飲食店の許可はあるけど、客を踊らせてはいかん、ということです。

そんな店、やまほどあるだろ?って思いません?外人客の多いバーで、酔った客がフロアで踊るバー。そんなのここだけではないし、普通そんなもん摘発します??

ところが、このバーだけが摘発されます。

なんで?


このバーでは、一年前に、女子メダリストS選手が“店内でセックスした”公然猥褻の疑義、と、それをとがめた店員を蹴りつけたという暴行罪で、逮捕されています。

この事件で、本来すごい「金になる」ひとりのスポーツ選手の金銭価値、社会価値が大きく損なわれました。ゴルフや卓球、スケートやマラソン選手など女子スポーツ選手は、社会的・経済的価値が非常に大きいんです。でもこの選手をCMに使いたい会社はもうないし、当時のスポンサー企業(超大企業)も怒り心頭でしょう。

その現場となったこのバーが一年後、「酒場なんだから踊ったらダメ」という取るに足りない罪で摘発されたのです。なんだか「臭う」かんじだと思いませんか?


もうひとつ、大阪の中小のリフォーム屋が摘発されました。理由は、悪徳リフォーム屋であった、ということです。

おそらく、そのこと自体は事実なんでしょう。では、これは警察が私たち市民のために、日本に星の数ほどある悪徳リフォーム屋を片端から調べて摘発してくれた結果なのでしょうか?

ちきりんには、認知症の顧客が数千万円を取られるなど相当の被害がマスコミで報道されない限り、警察は多くの悪質リフォーム業者を野放しにしているように思えます。が、なぜこの会社は特に大きな被害報道もなかったのに突然摘発されたのでしょう?


この摘発の1年前、中国のホテルで、日本から社員旅行に行っていた団体が、集団でホテルに中国人女性を呼び売春しようとした、というニュースがありました。中国は最近これ系の犯罪にとても厳しく(おとり捜査もやってますから、皆さんご注意を)、ホテルも女性も斡旋業者も、みんな中国当局に一網打尽で逮捕されました。

しかし、客であった日本からの団体旅行客にはお咎めなしです。政治的にも法律的にも、中国当局が「日本からの観光客」をいきなり逮捕はできない。そんなことしたら、日本からの観光客がこなくなります。なので客であった日本人だけは無罪放免。


しかし、その裏には「それは日本の警察側でちゃんとやってね」という暗黙の了解があったと思われます。

とはいっても、日本側も「社員旅行で中国に行き、宴会にコンパニオンを呼んで、自分の部屋に誘った」件で、いきなり彼らを逮捕するわけにもいきません。罪の軽重ではなくテクニカルに「この事件での逮捕は難しい」のです。ただ、中国との暗黙の了解において、もしくは、国家のメンツにおいて?、なんらか、この会社を摘発する必要がある。


そうです。一年前に中国に団体旅行に行っていたのは、今回悪徳リフォーム業者として「詐欺罪」「訪問販売規制法」で摘発されたこの会社(の社員旅行)だったのです。


どう思います?


★★★


悪い奴はどんどん逮捕すればいい、とも思うけど、あまりに恣意的な臭いのする公権力の発動には、やっぱりちょっと疑問をもっているちきりんです。

反戦ビラだと逮捕される、同じ行為をしても「戦争大賛成!」のビラだったら逮捕されない。そういうことってあっていいのかしら?これじゃあ、戦前の「特高」そのものですよね。法律の恣意的な運用は、「いつ自分に矛先が向けられるかわからない」ものです。何かのきっかけで、一個人が公権力に目を付けられたら、逮捕も拘束も意のままだとしたら・・・


ちょっと怖いよな。

と思えるニュースでした。



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・追記で参考図書をご紹介。どの本も衝撃的です。


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