この国の労働者

近年まれに見る戦略的なビジネスジャッジメントだなあと、感服しました。ブックオフの社長にパート社員で入社した女性が就任したというニュースに。

今、全国的なリテールビジネス(特にフランチャイズ)において“最大の経営課題”は、「いかに優秀なパート社員を獲得できるか」になりつつあります。この経営課題に対して、こんな戦略的な手を打った企業がある。すごいです。


ホント景気いいのですよ、最近。なので人手不足。若者の数はどんどん減っている上にニートだ進学だと働かない人も多い。産業構造が「人手勝負」の第三次産業にどんどんシフトしているのに、この国は移民もいれない。というわけで、働く人の頭数が足りない。

加えて、これらのリテールビジネスは、すごいコスト競争にさらされている。商品の単価はぎりぎりまでおさえる必要がある。材料は地球の裏側からグローバル調達、組み立ては中国、そしてできあがった商品は特別開発した低コスト店舗に並べ、時給の安いパートやアルバイトだけで販売する。規模の利益を得るために、多店舗、多地域展開を急ぐ。それが定番。

しかし、時給数百円で働き手を確保するのは至難の業になりつつある。しかもアルバイト先が多いということは、働く方も気楽。スケジュールや気分次第でいつ辞めても次の働き口が見つかる。

雇用主側にしてみれば、優秀な社員はパートではなく社員にしてでも定着してほしい。そういう時勢になってきた。


イオングループ(郊外型スーパーの)が、パートの募集をしても全然人が集まらず困ってた。んで、募集チラシに「パートから、売り場責任者等へ昇進していったパートのおばちゃんたちのストーリー」を書いてみた。そしたら、すごいたくさんの応募があった。しかも、応募してくる人たちのプロファイルが変わった。

もともと一流企業の事務職をやっていて、今は子育てが終わり「次の何か」を探していた人達(経済的に働く必要はない状況)や、他の場所で正社員として働いていたような人が応募してきたらしい。これもおもしろいニュースだ。

というか、上のブックオフのニュースと同じことを報道している。ただ、「偶然」のイオンと、「戦略的判断」のブックオフの違いが、インパクトの差に現れている。

ふーむ。やるもんだ、です。

★★★

第二次産業で起こったことが、第三次産業で再び起こるのかもしれない。日本の第二次産業、簡単に言うと製造業が世界を席巻したのは、現場で働く人のモチベーションの高さ、それゆえのスキルの高さに負うところが大きい。アメリカでは工場で働く人たちが、自分たちで改善点を競い合って見つけ出し、新しい生産方法を確立していくなんて、信じがたいことだ。そんなことができるなんて、思っても見なかった。トヨタをはじめとする多くの企業が、「それが可能である」ことを証明し、世界に出て行った。

当時、アメリカの工場では、ポカ休、つまり無断欠勤の比率をどうさげるか、が最大の工場長の悩みだった。勝手に休んだり一報もせず辞めてしまう労働者をどうコントロールするか、が課題だった。彼らに「生産性を向上する」案を企画して実験して方法論を確立することを期待するなんて、考えられない世界だった。日米の差はとてつもなく大きかった。


今、第三次産業においては、日本でもポカ休は日常茶飯事だ。デパートやスーパーの売り子さんや飲食店のサービスの人がしょっちゅう募集されているのは、無断欠勤、無断で辞めてしまう(こなくなってしまう)人たちが、製造業に比べてとてつもなく多いからだ。

店側にとって、「毎日出社してくれて、1年以上勤めてくれて、辞める前にはちゃんと1ヶ月前くらいに教えてくれる」人を雇うことが課題であって、「自分で考えて、自分で工夫して商売する」売り子さんに遭遇するのは僥倖に近いものがある。

こういう状況に対応するために、第三次産業においても新しい動きがでてくるよね、と、上の二つのニュースを見て思った。あらら、これはおもしろい、と。そして、製造業において、そういう社員を集め、動機付け、維持できた企業だけが世界で戦える企業として残ったように・・・第三次産業でも同じことが起こるかもしれない。

また明日