ほんとに(企業を中抜きして)国に直接、助けてほしい?

今回、新型コロナ禍対策がもっとも「届いてない」のが、企業に非正規として雇われていた人ではないでしょうか。

ざっくり言えば、働いている人は、以下の 4形態に分れます。
1)正社員
2)非正規雇用(パート、アルバイト、派遣など)
3)自営業の事業家
4)自営業のフリーランス

大きく分けると、1と2は「会社に雇われている人」で、3と4は「雇われていない人」(雇われずに働いている人)です。


経済危機のとき、1の人はもっとも痛手が少ない。せいぜいボーナスが減る程度でしょう。

3,4の人も(もちろん)大変なんですが、今回、政府はフリーランス向けや小規模事業者へのかなり大胆な救済策を打ち出しています。

3の人は 200万円の持続化給付金に加えて休業補償や家賃補助もあり、無利子無担保の融資も受けられます。4の人にも100万円の給付金が既に支払われはじめてる。

でも雇い止めに遭った2の人にはほとんど支援がありません。

ようやく決まった「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金」は非正規雇用も対象のようですが、給付はまだ当面先です。

突然、派遣契約を打ち切られ、収入だけでなく家まで失った人も多いのに、とりあえず 100万円もらえるフリーランスより支援されてない。

★★★

なぜ、2の人への支援がもっとも遅いのか。

これには理由があります。

日本では、3,4の人は政府が直接に助ける方式だけど、1,2の人に関しては「企業を通して助ける方式」だからです。

具体的には、政府が企業に対して「雇用を維持するなら助成金を出すよ!」と伝えることで、1と2の人を助けようとするわけです。


ちなみにアメリカでは、すべての人を「国が直接、助ける方式」です。

というのも、アメリカでは 2の人はもちろん、1の人もすぐに首になるからです。

業績が悪くなったら、1の正社員もすぐ解雇されます。だから「企業を通して1と2の人を助ける」といった方法は採れません。

このため経済危機のときには、あらゆる失業者を「国が直接」助けます。


実際、今回の新型コロナショックでも、アメリカでは失業者数が記録的な増加となり、ものすごい数の人が失業手当の給付を受けはじめました。

でも
日本はそういう方式ではありません。

あくまで政府が助けるのは企業で、「国が企業を助けるから、企業は社員の首を切らないようにね!」と頼む方式です。


問題は、今やこの方式で守られるのは「大企業など余裕のある会社の正社員だけ」ってことです。

大半の企業は、いくら政府が助けてくれると言っても、非正規雇用の人を維持できません。

中には正社員さえ(いくら政府が企業に補助をすると言っても)維持できない会社もある。

それなのに日本では「国が直接、個人に福祉を届ける」仕組みが発達していません。

理由はここまで書いてきたとおり、「国は企業を助ける → 企業が個人を助ける」という二段階方式が、日本社会の基本的な仕組みだったからです。

★★★

なんで日本はそんな方式なのか?

いくつか理由があります。

高度成長期以降の日本は、「雇われている人」が非常に多い社会となりました。

昔は大半が正社員、今は非正規雇用の人も増えてきましたが、いずれにせよ「被雇用者」。つまり 1と2が非常に多い社会でした。

このため日本の社会は、国が労働者を直接支援するのではなく、国は会社を支援し、会社が社員を支援する、という二段階方式で様々な制度を作ってきました。

失業対策だけでなく、年金制度や医療制度も同じです。「雇われている人」は企業を通して厚生年金や共済年金に加入し、医療保険に入ります。

企業は住宅手当や扶養手当まで出して、家から子育てまで(国が直接ではなく)会社を通して支援したりします。

さらには税金も、1と2の人は企業に(自分に代わって)収めてもらっています。(=会社員は自分で確定申告することもなく、会社が源泉徴収と年末調整をやってくれます)

このように、国は企業を「出先機関」のように利用して、福祉を「国の隅々まで届ける」仕組みを構築してきたわけです。


だから国は「雇われている人」の銀行口座さえ把握していません。

これではすぐに失業手当や給付金を払い込むなんて不可能です。

しかもさきほど書いたように「あらゆる福祉制度が企業経由」となっているため、いったん「雇用関係」が途切れると、被雇用者は収入だけでなく年金から医療保険から社宅まで、すべてを失ってしまいます。

だから国としては「直接、個人を助けるより、とにかく雇用を維持して欲しい。そのために企業を助けるから」という方式を採用するのです。

★★★

これ、そもそもはどっちの方法がいいんでしょう?

今回のコロナ危機では「このやり方では、救われない個人がたくさんいる!」「国が個人を直接、助けるべきだ!」という意見が増えています。

ベーシックインカムを推す意見はその典型です。

BIとは「政府が個人に直接、お金を配る」方式であって、そこには企業は介在していません。

また、実際リーマンショックのときと比べても、今回は「国が直接支援する制度」がかなり増えています。

ひとり10万円の給付金に、持続化給付金(自営業や中小企業に100万円から200万円)、休業補償も行政から直接だし、困窮学生への支援金も国から直接です。


でもね。

本当にみんな、その方式のほうがいいの? ってのが今日のお題です。

今、「会社に雇われている人」はよく考えてください。

不況になったとき、「企業が国からの補助を受けることで、自分の雇用が守られる」のと、「企業からはそっこーで首を切られる。ただし失業者になっても、国が直接、お金を給付してくれる」のと、どちらがより安心ですか?


あたしの感覚では、日本人の多くは「今月の生活費」や「来月の生活費」を国からもらえることより、

「○○会社で働いている」という状態=雇用が維持できるほうが「安心」だと思ってるように感じたりもするんですけど。

違う?

つまりみんな、「国に直接、助けて欲しい」のではなく

「やっぱり自分は企業に助けて欲しい。企業が自分を助けられるよう、国は個人ではなく、企業をしっかり助けて欲しい」

と思ってるんじゃないの?

★★★

私自身は今は自営業なので、もはや「企業の社員であること」に価値を感じているわけではないです。

でも日本人の過半数が、(ベーシックインカムでも生活保護でも失業保険でもいいけど)「国が最低限の生活費を払ってくれる」なら

自分は「○○会社の社員である」「○○会社で働いてる」って言えなくなっても全く問題ないわー!と感じてるとも思えません。

ほんとにアメリカ方式(企業は正社員も非正規社員もすぐ首にする。が、国がすぐにBIや失業手当を振り込んでくれる方式)のほうが望ましい! と考えてる人のほうが多かったりするわけ?

そこんとこ、今いちど 自分のアタマで・・・



そんじゃーね!

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