三洋電機

“ガバナンス”という言葉、数年前からよく使われるようになりましたが、意味がよくわからないのだよな〜という人もいると思う。

そういう人のために、もしも教科書を書いてくれと言われたら、この会社を例にとって書くのがベストと思えるのが、三洋電機でしょう。

まさに「ガバナンスとは何か」を教えてくれる、お手本のような会社でしたね。


って過去形にする必要も無いけど。


いくつかステージがあったと思います。(ってか、昔のことはそんなに知らないのですが。)


第一期:創業期〜松下の衛星企業としての成長期
第二期:創業家と住友銀行の上昇期
第三期:創業家と住友銀行の下降期
第四期:リストラとんでも期
第五期:金融による解体期


って感じかしら。

★★★

第一期は、創業間もない松下電産で職工として働きはじめた井植歳男氏が、戦後のGHQの松下解体時期に幸之助氏をかばって退職。その庇護の元に三洋電機を創業する。

ここからしばらくは、ごく普通の電器メーカーだったと思う。創業家が経営の実権を握っている会社は特に珍しくもない。松下もソニーもトヨタも本田も、この時期は創業者が経営をしていた。

銀行もまさに「日本の産業を支える」という立ち位置で設備投資を可能にする融資をし、企業は成長を続けて銀行に配当と利子という二重の恩返しをする。企業と銀行が「二人三脚」で成長した「日本経済高度成長 夢の時代」だ。



第二期は、日本が高度成長の波に乗り、三洋も住友銀行も含め、全日本企業がバカ踊りをし始めた時期。

普通の企業と普通の銀行の間でも問題は多々あったと思うけど、「創業家が経営をしている企業」と、「独裁的な経営者がでた金融機関」という組み合わせの場合、よりひどいメチャクチャが行われた、ってことだろう。

井植一族が困った時には、銀行が様々な法律やルールを破ってでも融通をきかせ、銀行が困れば井植家が株主を騙してでも銀行を助けた。

「トップ同士の信頼感」が、契約や法律や社会ルールを超えて優先された。それが「有るべき姿」だと思っている人たちがずっといた。



第三期 企業も銀行も「遊んでいても成長できる時代」の終焉を迎える。

銀行側に先にガバナンスの適正化が起こる。当然だ。独裁的な頭取、中興の祖とか天皇とか呼ばれても、住友銀行の頭取は既にサラリーマンだ。住友一族の経営ではない。だから、そちらに先に適切なガバナンスが持ち込まれる。

企業側も、三洋電機やダイエーのように「創業者が一生経営し続ける」というモデルの他に、「創業者の子孫は優遇はするけど、実権は持たせない」という松下・トヨタモデル、そして、「もう関係ありません」というソニー、本田モデルの3パターンくらいに分かれていく。

三洋は残念ながら、もっとも遅れたモデルを選んでしまう。



第四期 ここがね〜、さすがにこれは避けられたんじゃないかと思うのだが、なんでこんなことになったのでしょう。リストラと称して野中氏を呼んできたりしたところです。

「創業家が実権を握り続けたい」が、「リストラをする6,7年の間だけ、それらしく見えない方法が必要だ」ということで、「お飾りのトップ」が必要になった。んで、野中ともよ氏。

これをのぞんだのは井植家だと思うが、「それではもたない」と言えない住友銀行は、経営者の懐不足か、それとも、それくらい過去の膿が汚かったか、ということだ。

井植氏に「話して(ばらして)欲しくないこと」が住友側には「ありすぎ」た。



第五期 その住友銀行が「覚悟」し、ゴールドマンなど「異なるガバナンス」の企業を意思決定グループに迎えた。井植氏、野中氏のふたつは追い出される。

ガバナンスもゲームのルールも、ここで「初めて」大きく変わるのだ。

ここもやはり住友銀行の意思の変化がキーポイントではないかと思う。なんだかんだいっても、銀行は経営者が変わる。「前の経営者のやったこと」を否定できる。創業者一族がずっと経営をやってるのとは違う。

ゴールドマンは「電池事業を売却しろ」と言っている。これがどれくらい残酷な案か、この世界を知っている人ならわかるだろう。“プロジェクトX”好きなちきりんなんて、涙がでそうになっちゃうよ。

三洋電機は解体されるのだ。






現在のガバナンスは資本の論理に掌握されている。それ以外の解決案を私たちは持っていないのだ。



悲しいことだよ。



ちなみに三洋とは、三つの海を渡ってビジネスを展開するような企業になると、まさにグローバル企業を目指すぜ!っていう期待を込めての命名だった。

松下電器産業は社名に創業家の名字を掲げたままで、まさにそういうグローバル企業になった。

社名に「井植」を入れずに、わざわざ「三洋」と掲げた三洋電機が、創業家から自立できずに消えていこうとしているってのは、ちょっと皮肉な感じよね。ふむ。


んじゃね。