二大政党政治とは

たった数日の間に状況が二転三転してて追いつくのも大変ですが、時間ができたので小沢さんの件、ちきりん的考察を書いておくです。

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まず最初にはっきりさせておかないといけないことがこれ。

彼のやりたいのは、「自民党を二つに割る形での二大政党」であり、「自民党と民主党の二大政党ではない」ということ。

ご存じの通り、二大政党論は彼の持論、そのために不可欠な小選挙区制の導入を多くの自民党議員の反対を押し切って実現させたし、自ら袂を割って自民党を離党した。

この「日本にも政権交代可能な二大政党が必要」という言葉は、選挙目的において極めて耳障りがよいので、最近はここだけが連呼されていたり、また、アメリカかぶれした自称知識層の中には、この理由で民主党を支持する方も多いのですが、この言葉からは、小沢さんが目標としていることを隠すために、「敢えて」必要な単語が抜いてある。

もう一度書いておきます。彼が実現したい「新しい日本の政治体制」とは「小沢自民党」と「その他自民党」の二大政党制です。最初からずうっと。今ももちろん。

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というわけで、まさに自民党をふたつに割るつもりで自民党をでてきたのに、「自分の方の自民党」は長く政権から離れ、今や非常に小さな集団にすぎない。しかたないので最近は様々な他の政党と一緒になって、形だけ大きくしている。実際、それの集合体として参議院では第一党となった。しかし、そんな「水ぶくれ部分」は小沢さんにとって、最初から全く仲間でも政党でもなかった。小沢さんにとって彼らは「議席」にすぎない。

だから、今回、自民党に連立を提案したのは、そもそもの目標を達成するためだ。彼は大政翼賛的な、国会の8割を占める大政党を作りたいわけではない。その8割を2で割って2大政党にする。これが、彼が自民党を飛び出した時からの政治的悲願だ。 (実は福田さんの方も、この「自民党ふたつの二大政党制」を「検討価値のあるオプション」として支持している可能性があるでしょう。)

繰り返しになるけど、「二大政党制」は彼の政治的悲願だが、「自民党と民主党の二大政党」なんか彼は「ちゃんちゃらおかしい」と思っていると思う。彼に言わせれば、職業的政治政党は、日本には小沢派を含む“自民党”しか存在していない。

その他の「未熟な」「政権担当能力の疑わしい」「辻立ちのやり方さえ知らない」馬鹿なおこちゃまどもは、自分に「連立案を自民党に提案・交渉するための土台=参院での野党第一党という議席数、を与えてくれる手段」にすぎない。

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自民党と袂を分かったとき、彼は“新自由経済”というのを主張していた。これ、中身は小泉改革、竹中経済路線に極めて近い。そして彼はこの考え方を、小泉さんや竹中さんよりずっと早く提唱していた。

ところが、二大政党を目指して自民党を出た後、誤算があった。残してきた方の自民党が小泉さんを先頭にしてこの思想を採用してしまった。この思想が国民の熱烈な支持をうけたことを振り返れば、実は小沢さんの先進性が浮かび上がる。

まあとにかく、その昔、小沢さんが歯牙にも掛けてなかったひ弱な都会っ子の後輩である小泉さんの登場により、自民党と小沢さんの主張する経済体制が同じになってしまった。

当時民主党の党首は(小沢さんではなく)岡田・前川さんだったと思うけど、彼らの国会答弁はまるで小泉さんの応援団みたいだった。共通の敵は抵抗勢力ですから、一緒に頑張りましょう!みたいなアホなコメントを小泉さんからもらってて苦笑せざるを得なかった。

で、小沢さんは決断した。選挙のためにこの思想は捨てる、と。「二大政党制を実現する」という大義のためにこの思想は自民党にくれてやる、と。そして先日書いたとおり、自民党の主張と最も対極に聞こえる、すなわち、自民党との選挙に最も有利となる、経済体制を持論として採用した。農家に、老人に、田舎に投資しろと。格差解消経済体制だ!と。


こんな話がわけがわからない論であることは、皆が知っている。自民党も、小沢さんも、民主党も。なんだけど、「すべては選挙に勝つため」だ。そのためなら、元全共闘運動家にも、労組幹部にも、右翼団体にも、農協や医師会の親分にも、オレは頭を下げられる。目的のためならなんでもする、それが男だっ!

って感じ。



そして選挙に勝つ目的は?

日本に二大政党を成立させなければならない。既存自民党だけではなく、“新生・小沢自民党”の方だって政権担当能力があると、国民に示さなくてはならない。

それが、小沢さんが、残りの人生をかけてなんとかやりとげたいと苦悩する、文字通りの悲願だ。

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最初から彼の作戦は「参院で野党過半を実現して、自民党を揺さぶり連立政権に持ち込む」ことだったと思う。

ちきりんが思うに、彼はたったの一度も「次の衆院選で勝って政権をとろう」と本心で考えたことはないんじゃないかな。つーか、んなこと目標にもしてなかったと思う。

最初から小沢さんは“自民党に連立を組んでもらうための交渉カード”「としての」“参院選での勝利”が欲しかっただけなんだろう。

そしてそれが揃ったんだから、大人の福田さんがカウンターパートになったんだから、今がそのタイミングだろ?と。

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今日は慰留されて復党、とか言ってますが(午後に記者会見があるらしい。楽しみ!)、民主党から「自民党との交渉一任権限」がもらえるなら、どんなにみっともなくてもここはいったん戻って、悲願に向けて最後の努力をしたいと考えているようだ。

今回の件を、「こんな騒ぎを起こすと、次の衆院選で民主党が国民から信任されることはあり得ない。なんて馬鹿なことをしたんだ」と言っている人がいる。こういう発言する人ってホントわかってないよね。衆院選なんて関係ないんだってば。そんなとこで勝とうなんて全然考えてないってば。交渉のためなら参院第一党だけで十分。それで審議はストップさせられるんだから。

まあこれだけの騒ぎになったのだから、さすがに即連立には持ち込まないだろう。しかし政策協力だけでもとりあえずOK。まずは自民党の“インナーサークル”に戻らないとね。一緒になって「8割」になり、次に彼についてくる人を再度集めて「4割」×2グループを目指すのだ。それが政党の枠でなくてもそれはそれでいい。

きっとまた彼はしゃあしゃあと言うだろう。「次の衆院選で政権を取る」「そのためには民主党の政権担当能力を証明することが必要だ」「だから政策協議をする」って。まだまだ一波乱二波乱ありそうだ。超おもぴろい。


ところで民主党の若手には小沢さんへの不信感が生まれているようだが、彼らの嗅覚は正しい。彼らの存在意義は、連立(なり政策協定なり)が成立すれば終わりだ。

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小沢さんは今65才。狭心症の発作と、動脈硬化からくる脳梗塞の病歴がある。根強い健康不安説の消えない所以だ。

衆院選選挙が早くても来年の夏、しかも自民党はこの時期を2009年まで引き延ばすことも可能だ。民主党には衆院を解散する権限はない。

「次の選挙で勝って政権を奪取する」と息巻く40代、50代の若手民主党代議士を、彼はどのような目で眺めているのだろう。

自民党を離党したのは14年前。彼もまた50才だった。政治家として脂ののりきった、まさにこれから、という年齢だった。

自分の人生のコアとなる思想をはぐくんだ組織を、これからという年齢で離れるということ。それはかくも大きな覚悟を伴う決断だ。

小沢氏が後悔しているとは思わないけど。


んじゃ。