ベーシックインカムというアイデアをご存じでしょうか。
簡単に言えば、「すべての成人に無条件に(=働いていなくても、多額の資産をもっていても)最低限の生活費を支給する制度」の提案です。
その代わり、公的な雇用保険、年金制度、生活保護制度、障害者年金制度、などは廃止。
たとえば月 15万円(年収 180万円)くらい、全成人に支給する。世帯ではなく個人単位です。
未成年の子供をもつ親は、子供の分もいくらか貰えるんだと思います。つまり最低限の生活でよければ人は働く必要はなくなる、という制度です。
制度として論じられてますが、どこかの国で実現しているわけではありません。また、具体的な支給額を含め、詳細部分には様々なバリエーションがあります。
この制度を巡っては、思想的な是非や財源面での実現可能性について様々な議論があるのですが、今日は、
社会学的かつ空想的に「ベーシックインカムが実現したら、いったいどういう世の中になるの?」
について考えてみます。
★★★
まずは「ベーシックインカム制度が本当に実現したら、どういうことが起こるか?」、思いついたことを列挙してみると、
(1) 離婚が増える。中高年以上の離婚が特に増えそう。
「離婚したら食べていけない」という理由で、破綻した結婚生活を続けてる人はたくさんいるので。
(2) 子供の親からの自立も早まりそう。
今は一人暮らしをするお金がないから仕方なく親の家に住んでる子が、ベーシックインカムがもらえる年齢になった時点で、家をでるという子は増えそう(あたしとか)。
大学生も仕送り不要で都会の大学に行けるから、家が貧乏でも上京する人が増えそう。地方大学はいよいよ「終わり」じゃない?
(3) 起業や転職をする人も増えるでしょう。
就職しなくても最低限の生活費がでるし、起業で失敗してもセーフティネットが確定してるわけだし。
失業時の仕事探しだって気に入る仕事が見つかるまで延々と探し続ける人がでるだろうな。
若い頃の夢(音楽で生きていく!)とかを本気で追い求める人も増えそう。
(4) もちろん一定数の人は働かなくなるでしょう。
(5) いったん就職したけどすぐ辞めちゃう人ももっと増えると思うし。
(6) 失業しても焦って仕事探そうとかしなくなる。ゆっくり「好きな仕事を探す」人が増えそう。
(7) 過大な貯金をせず消費する人が増えそう。
老後のための蓄えが何千万も必要という話はなくなるでしょう。景気がよくなりそうだね。
(8) 反対に、会社の経営者にとって、社員を解雇することが簡単になると思う。
首を切っても相手が路頭に迷うことはないから、法律もあまり解雇を厳しく言わなくなりそう。
首切られてもホームレスが増えるわけでもないし、失業保険や生活保護の支払い(税負担)が増えるわけでもないし。
などがすぐに思いつくところです。
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上記の具体例をざっくりまとめれば、まずは「金の切れ目が縁の切れ目」ってのがより容易に現実化するだろうってこと。みんなお金のために我慢しなくなる。
夫婦であれ親であれ会社であれ。みないろいろ不満があっても「現実的に食べていけないし」と思うから我慢してる人は少なくない。
それが“切れる”ようになる。親子であれ夫婦であれ会社であれ、今よりは「経済関係を共にしている人と縁を切ってしまうこと」が容易になる。つまり増える。
2番目に、リスクをとることが怖くなくなるってこと。
これはいいよね。皆、失敗を怖がらなくなり、より積極的な生き方をし始めると思う。
そして3番目、すごく「あからさまな欲望が顕在化する」ということ。
上記 (8)のように、会社で役に立たない人を首にするのって、今よりよほど気楽になる。首にしても、その人が生活に困るわけじゃないから。
ちなみに首を切られた方は、今は「首になると経済的に困る」とか言ってるけど、じゃあ「経済的に困らなければ首を切られても平気か?」と言えば、たぶん違うよね。
人は「お前は役に立たない」と言われると、経済的に困るということよりも大きく心を傷つけられる。
つまり首にする方は「気楽に」首を切り始めるけど、解雇される方は「首を切られても、ベーシックインカムがあるから今よりは気楽」ってわけでもない。なので、結構つらい世の中になりそう。
あと、男性に関して言えば「経済力はないけど、イケメンで一緒にいて楽しい人」は今よりモテるようになる。
とりあえず一人 15万、夫婦で 30万もらえるなら、あんまり結婚相手の経済力を問題にする必要がなくなる。
反対に「つきあっててすごく楽しいわけでもないけど、彼と結婚すれば将来安定してるし」みたいな人はベーシックインカム制度には反対した方がいい。
“安定した経済力を提供できる能力の価値”が相対的に下がってしまうのだから。
“まじめないい人”より(相対的に)“ちゃらんぽらんだがおもろい人”が“恋愛市場だけではなく結婚市場でも”モテるような社会になるでしょう。
離婚も「食べていきやすくなる女性側」が言い出すパターンはもちろん増えるけど、一方の男性側だって“糟糠の妻”を捨てやすくなるでしょ?
本音の本音ではもう別れたいけど、ここまでしてくれたこいつを一人で放りだすなんてなあ、そんな身勝手なことはできないよなぁ・・とかいう躊躇は少なくなりそう。
というわけで、ベーシックインカムが実現すれば、より本能的な我が儘が、実際に行動に移されやすくなる。
生きていくのにお金のかかる現在の社会では、収入がない人は独立した人間としての意志が貫けていない場合が多い。
簡単に言えば、「お金のために我慢」してる。
親に我慢し、夫に我慢し、妻に我慢し、会社に我慢し、部下に我慢する。が、ベーシックインカムが導入されれば「生きていくため」の最低収入は保証されているので、そういう我慢は不要になる。
ある種の“人間解放の思想”、“精神の解放”という意味でインパクトが大きそうだよね、
てか、こっちのインパクトの方が「貧困対策」とか「社会福祉」的観点でのインパクトより、より大きい意味をもつんじゃないかな。
こういうのが実現したら、有史上初めて「食べていく」=「生存する」ということを前提としない人間の行動が見られるようになるわけで、他にももっと「えええええっ!」ってな現象が起こるかもしれませんんね。それはそれで楽しみ。
★★★
ベーシックインカム制度に賛成している人の意見を読んでいると、この面に注目して賛成している人も結構いるよね。
堀江さん(ホリエモン)の意見なんて「くだらん奴には金(給与)だけ払って仕事場からは引き離したほうがいい」って感じでしょ。
「お金払ってでも、職場から追い出したい人がいる」ってのがベースにある。*1
なおベーシックインカムに関しては、「みんな働かなくなってしまうのでは?」とか言う人がいますが、そんなわけないじゃん。
そもそも、「働きたく無い人」「最低限の生活費がもらえるなら仕事を止める人」が働かないなんて、なんの問題もありません。
そんな仕事はどんどん機械に置き換えればいいんだし、むしろ今、そういう人達の仕事を守るために残されている様々なウザイ規制を撤廃できるようになって、稼げる人はもっともっと自由に働け、稼げるようになる。
「働きたい人が自由に働ける」社会である限り、「働きたくない人」が働かなくてもなんも問題ないです。
むしろ問題は、国際的な移動の自由がある時代には、一ヵ国だけこれをやると、移民や難民の目的国にされてしまう、とういこと。そっちの解決方法のほうが難しい。
いずれにせよベーシックインカムが実現すれば、上に書いたような「欲望がむき出しになる世界」になりますよってこと。誰も書いてなかったので、まとめときました。
ベーシックインカムに賛成する人の中に、「貧困がなくなる」とか「公正な機会が与えられる」、「社会から不安感が取り除かれる」とか、そういう夢物語みたいなことを言う人がいますが、それはまったく反対だと思う。
こんな制度が導入されたら、私達は貧困などよりよほどオドロオドロシイもの=「人間の生の欲望が顕在化する世界」を見せられることになるでしょう。
超楽しみ!
*1:堀江さんのブログはこちら→http://ameblo.jp/takapon-jp/entry-10178349619.html
堀江さんが引いている山崎元さんのブログはこちら(こっちの方を先に読むと制度についてはわかりやすいかも)→http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/e/df9729ff82024e97dd3447d08d9c5f27