あたしが最近すごく関心をもっているテーマのひとつが、「これからは、誰が人を育てるんだろう」ということです。
育児の話じゃなくて、社会人、ビジネスパーソンとして、人を育てるのは、誰の役目になるんだろうってこと。
人を育てられるものは、ふたつしかありません。「組織と市場」です。
組織とは学校や会社、市場とはコミュニティや仕事です。
前者は座学であったり徒弟制度であったりし、後者は人付き合いや仕事のやりとりなどを含みます。
一番バランスのいい人の育て方は、組織で基礎を学び、市場で実戦経験を積むことです。&それの繰り返し。
新卒で大企業に入れば、まずは研修を受け、その後はOJTで先輩や上司から徒弟制度に基づく仕事の指導を受ける。
そのうち自分で仕事を担当し、顧客と向き合いつつ市場から学びはじめる。
組織を離れて独立すれば、自分自身を市場の中で売っていきながら成長する。
これが「人材育成の黄金のパス」でしょう。
ここんとこ問題になってるのは、組織に余裕がなくなり、人を育てられなくなっていること。
朝日新聞が早期退職を募集する時代、
社内で若手を育て、早めに一人前にしてやろう! という中高年はなかなか奇特な存在になる(若手が早く育つほど、給与の高い中高年は要らなくなるんだから)。
それ以前に、新規の正規採用人数だってどんどん減っていきます。
組織はできる限りの人数を非正規で(=育成のコストもかからない立場で)採用しはじめる。
彼らには正社員に与えられたような、“育てる仕組み”は適用されません。
その一方、伸び盛りのベンチャー企業は(たとえその意思があったとしても)急成長に人材供給が追いつかず、組織的に人を育てる余裕がない。
だから組織の中であるにも関わらず「市場で人を育てる」方式しか提供できません。
今後、人を育てる場である「組織と市場」のうち、組織の人材育成機能が消滅する(もしくは大幅に削減される)と、人は「市場」で育つしかない。
ところが、組織にいれば育つことができるレベルの人が全体の 8割いるとすれば、市場で成長できる人は 2割程度しかいない。
花壇で世話をしてもらえば大半の種子は花を咲かせられるけど、その辺の土地に種子が蒔かれて放置されたなら、花が育つところまで到達できるのはごく少数の種子だけ。
組織の人材育成機能が失われると、その差の 6割の人達は成長できなくなるかもしれない。
トップ 2割にもボトム 2割にも関係ないけど、まんなかの 6割の人には世界が変わってしまいます。
ちきりんはこれを「もうひとつの中間層の崩壊」、と呼んでいます。
私も含め、長く組織で働いてきっちりとした訓練を受け、その後、独立してそれなりに成功している人はたくさんいます。
最初に組織で育てられ、だからこそ後から市場で自分を成長させる基礎力も得られた、というケースです。
でも今後は、最初の最初から市場で育たなければならない人も増えてくる。
だとしたら・・・
「大手企業は組織として人を育てる力に溢れている」と今でも強固に信じられています。だから学生は大企業に殺到する。
でも彼らが抱えられる人材は多くない。
それに、最初から市場で勝負しようという優秀な学生もたくさんでてきてる。
必要なのは、彼らが最大限の速度で育てるような「市場の整備」
そして、全体として市場からのフィードバックで成長できる人を増やすこと。そうしないと、どの分野、どの業界でも人材の質が落ちてしまう。
組織の人材育成機能が低下する中、市場の人材育成機能を強化する必要があるってことです。
「市場で人を育てる」にあたり、今までのような完全なジャングルルールではなく、なんらかの「インキュベーションシステム的なプラットフォーム」が必要になるのかもしれない。