多極性 & ローカル性

東京が国際的な都市間競争に勝ち抜いていくためには何が必要か、に関する連載エントリ、五回目です。

<これまでのあらすじ>
第一回 国際都市としての競争力強化という争点
第二回 伝統都市と戦略都市の違い
第三回 輸出黒字ではなく、聖地を目指せ!
第四回 夜へ! そして 空へ!


ロンドン、ニューヨークなど、伝統都市として世界のトップに君臨するメガシティには、
1)多極モデルであること
2)ローカルの繁殖力が強いこと
というふたつの特徴があります。


「多極モデル」とは、ひとつの都市の中に、複数の異なる個性を持つエリアが存在するモデルです。東京なら、新宿、渋谷、池袋、六本木&赤坂、表参道、丸の内、秋葉原、お台場など、10にも近い多極スポットが集まっています。

ニューヨークのマンハッタンにも個性の違う複数のエリアがあるし、ロンドンやパリでも同じです。


これ、“その次”の大都市になると一気に違ってきます。大阪でさえ“キタとミナミ”みたいになっちゃうし、仙台や神戸あたりになると“一極”しか存在しません。

また、シンガポールなど戦略都市の場合も、多極モデル化させるのはとても難しい。面積も足りないし、戦略都市って一貫したイメージで都市計画を進めるので、異なる個性の多極エリアが併存しづらいのです。


この「さまざまに異なる個性をもつエリアが、公共交通機関ですぐに行ける範囲に点在している」というモデルを、もっともっと充実させていくこと、

たとえば、多極エリアになり得るポテンシャルはあるが、まだ、現状では力不足=近隣の人しか来ないエリアを開発すること。日本橋とか新橋、吉祥寺、神楽坂とかね。

また、現在の多極エリアの代表である新宿や渋谷、池袋などのエリアを、さらに先鋭化させていくことも大事。

初めて東京を訪れた外国人であっても、それぞれの都市の違いがスグに体感できるくらい差異を際立たせていくこと。それが、東京の伝統都市としての競争力をさらに高めてくれるのです。


★★★


多極化に加えてもうひとつ大事なのが、「繁殖力の強い“ローカル”の存在」です。私は 2年前に 「街はやっぱりローカルが勝ち!」 というエントリで、このことを説明しています。

銀座には、エルメスやルイ・ヴィトンやアップルストアだけじゃなくて、山野楽器や木村屋や博品館や伊東屋があり、新宿には、H&M や ZARA やユニクロだけでなく、新宿伊勢丹や新宿紀伊国屋と、原色煌めく怪しい限りの飲み屋街があります。

もちろん秋葉原にも池袋にも、丸の内にも日本橋にも、「他国にはないよね!」というシンボリックなスポットがたくさんある。世界中に展開する国際資本のチェーン店やブランド店(=どこにでもある店)だけでは、伝統都市としての国際競争力は持ちえないんです。


これも、シンガポールなどの戦略都市とは全く違います。戦略都市の場合、お店自体は「世界のどこにでもある一ブランド店」ばかりでもOKです。それでも「税金が一番安い」とかで競争できるから。

一方、伝統都市の競争力の源泉は、この偉大なローカル性です。東京ではさらなるローカルな個性が、秋葉原や下北沢、銀座の裏通りなどでも発揮されています。


「こんなエリアは、他では見られない!」世界中を訪問する人たちを、そう驚愕させる高いレベルのローカル性を、維持・発展させること。

さらにそれらのローカル性を、“生き物”として維持すること。常に変化(進化)し、異なるタイプのお客さんのフローを生み出し続けるエコシステムとして受け入れること。それが大事です。

そのためには、街のローカル性を壊さない規制の柔軟性や、この点に十分に配慮した再開発計画も重要になるでしょう。


★★★


さて、東京は上記の二点「多極性とローカル性」という2点において、現時点でも非常に高いレベルにあります。個人的には、これらの点では、ロンドンやニューヨークを超えているとさえ感じます。

シンガポールなどの戦略都市は、「やる気と能力のある若者」か、「グローバルな視点を持ってる富裕層」の二種類の人しか要らないと思っています。(あとは、彼らが雇うお手伝いさんをフィリピンから入国させるだけです。)


でも、伝統型の都市は、そういった限られた人たちだけの街ではありません。

そこには、先祖代々のお金持ちもいれば、数年前の起業で大金持ちになった人もいる。一生うだつの上がらない会社員もいれば、将来大金持ちになろうと夢見る若者もいる。さらに、そんなことなどどーでもいい、都市を浮遊し、消費し続ける大量の“普通の人たち”が存在しています。

彼らは「選ばれて、東京に住んでいる」のではありません。彼らが集まっていることで、東京は選ばれているのです。


最後に、この多極モデルとローカル性の維持・発展は、昨日書いた、「夜へ! そして 空へ!」と矛盾する概念ではありません。

ニューヨークのマンハッタンを見ればわかるでしょう。林立する超高層ビルの足元には、世界中から集まった多様な人たちが持ち込んだ異質なモノが混じり合い、豊かな文化と人間くさい営みが息づいています。しかも昼夜問わずにね。

昼と夜、地上100メートルとゼロメートル地帯の両方に、驚くほど異なる文化と生活が存在している。それこそが、伝統型・国際都市に求められるダイナミズムなのです。

<過去関連エントリ>
東京と地方の違い=バラつき(前半)
東京と地方の違い=バラつき(後半)
大都市のターミナルエリアは消費のブラックホール
街はやっぱりローカルが勝ち!


そんじゃーね