ウルトラダラー

何かの時に突然テレビにあらわれて、連日でずっぱりで登場し、強く記憶に残る人がいる。一人は、最初のイラク戦争(パパブッシュの戦争)の時に衝撃的デビューを飾った軍事評論家の江畑謙介氏。(追記:その後、お亡くなりになりました。)

こんな人、それまでは誰も知らなかったのに、イラク戦争が始まったらいきなり連日あちこちのニュース番組に登場。髪型が印象的で、目に力があって“いかにも軍事評論家”だった。あの頃は、彼も「何がなんだかわかってなかった」と思います。ちょっと呼び出されて行ってみたら、「この人の解説わかりやすいっ!」ってことで、連日呼び出されて・・・完全に自分のペースをなくしてたっぽい。

でも、二回目の「息子ブッシュ」がイラクに爆弾落とした時には、江畑さんも番組を選んで出演してた。人間、いろいろ学ぶってことです。


もう一人が元NHKワシントン支局の手嶋龍一さん。この人もそれまではほとんど知られてなかった。911が起こった時、NHKのワシントンからの中継でデビュー。こちらも毎日ほぼ出ずっぱり。「NHKのワシントンってこの人しかいないのか?」って感じだった。

しかしこれは、彼にとっては僥倖だったのでしょう。彼はずっとNHKを辞めて本でも書いて暮らしたいと思っていたんだと思う。911がなければ誰も知らなかった彼が、あの事件の報道でいきなり日本全国に名前と顔を売り、その後はNHKを退職、本を書いてベストセラーになった。最近はテレビでもよく見ます。


江畑さんと手嶋さんには共通点がありました。戦争とかテロとか、そういう大事件の時にはたいていキャスターが興奮しまくってる。「おいおい、そんなに興奮してたらニュース伝えられないでしょう」ってくらい興奮してる人もいる。

ところが、この二人は対称的に「感情無し・平静感」があった。超淡々と解説する。やる気のない大学講師のような感じで。教室で学生が寝てようと遊んでようと気にせず授業を続ける。隣のアナウンサーが慌てふためいているのにね。そこがいい。

二人ともすばらしい解説者だったと思います。

★★★

上記の二人目、元NHKワシントン支局の手嶋龍一さんが書かれた本、“ウルトラダラー”を読んだ。


ウルトラ・ダラー (新潮文庫)

ウルトラ・ダラー (新潮文庫)


このを読んでみたのは、雑誌に手嶋氏自身がこの本の紹介をしている記事に、「高沢皓司氏の宿命を読んで、これはやられたと思いました。自分も書かねばと思ったのです。」という文章。

この「宿命」という本こそ、ちきりんが「これはすごい!」と思っている本なのです。「ジャーナリストの仕事ってこういうことなんだよな」と思わせる。ドキュメンタリーとして秀逸、です。それでウルトラダラーも読んでみようと思ったわけです。


宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作 (新潮文庫)

宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作 (新潮文庫)


ふたつの本の違いは、「宿命」の方は、完全なノン・フィクションで、すべて取材に基づき書かれている。ウルトラダラーの方は、「真実と小説」の混合。手嶋氏自身、「どこまでが真実なのか?」という質問が非常に多い、と言っており、そこがこの本の一番のポイントです。

ちきりんは「宿命」の方が好きですが、サスペンス小説好きな人は「ウルトラダラー」の方が読みやすいかもしれません。いずれいせよ長期のお休みの時などに読むのに最適の本です。

そんではね