自営業、会社員、そして芸術家

ちきりんの周囲には自営業として成功している人が何人かいる。起業とか経営者というよりは、独立してフリーで働いている、一人か、アシスタント数人使ってるレベルの自営業。

彼ら彼女らを見ていると、自分とは全然ちゃうなあ、と思う。実は彼らの多くが「ちきりんも自分で商売したら儲かると思うよ!」と言ってくれるのだが、ちきりんは実際には会社員向きな性格で、独立には全然向いてない。

で、何が違うのか、まとめてみるです。


違いその1 「圧倒的に社交的」

独立して成功している人は圧倒的に社交的だ。ちきりんは全く社交的ではない。イヤな人はできるだけ避けるし、新しい人と関わりたいか、という点でも非積極的だ。

自営業で成功する人は、誰にでも自分をオープンにして、あっという間に“近しい関係”を初対面の人と作ってしまう。それが人為的でも意識的でもない。とても自然にそうなる。人とつきあうことが“面倒”ではないのだ。


違いその2 「圧倒的に楽観的」

「まあ、どうにかなる。やってみるべ」とか「巧くいくかも!!」とか、とりあえず前向きに考える。もちろん成功する人の多くは綿密に計画し、慎重に決断しているのだが、それにしても大前提として「リスクをとる」わけだから、最後は「なんとかなる」という気持ちが必要だ。

会社員は「これやって本当にホントにほんとうに大丈夫か?」ってのを、考えて、検討して、会議やって、ハンコもらって上司に責任が転嫁して、から、やっと「やってみる価値があるかもしれない。」と思う人であり、楽観的な人なんて「詰めが甘い」とか「世の中を知らない」と言われて評価されないだろう。

ちなみに、自営業と会社員のまだ先に「公務員」という仕事があり、彼らは基本的に「前例」がないとなんもやらない。


違いその3 「公私が同じでもかまわない」

自営業って公私の区別が全然ありません。土日でも夜中でも携帯に仕事の電話がかかってくるし、長い休みも連絡がとれないところには行けない。一方、会社員は有休とか祝日、休日ってのは「オフィシャルに」仕事から離れていい。

ちきりんはこの点だけでも自営業には関心がない。というか、無理だ。ちきりんは仕事とは全く異質な「ちきりんワールド」が自分の中にある。「精神世界」とか「感覚の世界」として「完全に仕事から切り離された時間やスペース」がない人生は耐えられない。

というわけで、「ちきりんには無理です、自営業」って感じだ。


違いその4 「神がかり的である」

これはなかなか説明が難しいのだが、自営業の人ってその思考にしばしば「神がかり」的なところがある。

たとえば「UFOを信じるか」とか「宇宙に別の地球があると思うか」「死後の世界は存在するか」とか、こういう質問をしてみたら違いが浮き出ると思う。自営業の人ってこういうのに「Yes」という人が多く、会社員はたいてい「あるわけないじゃん」って感じだ。

自営業の人って必ず“えべっさん”にお参りにいくし、事務所開くにしても方角にこだわり、お日柄をきちんと選ぶ。なにかあるとお祓いをしてもらったりもする。一方で、仏滅を避けて転勤するサラリーマンなんていないし、いくつか悪いことが重なっても「○○神社さんにでもお参りしてくるか」なんて思う会社員はあんまいません。

やっぱり、自分の資産の何倍もの借金をしたり、儲かる時と損する時の幅の非常に大きな仕事なので、「自分を守ってくれるはずの大きな力」が必要なのかな、とも思う。

★★★

という4点が、自営業に向いている人の特徴だと思う。


ところで「自営業か会社員か」は網羅的ではない。世の中には「自営業も会社員も向いてない人」がいる。「仕事が向いてない人」だ。「金を稼ぐことに向いてない」と言ってもいい。

だから会社員をやってみて巧くいかなくても「俺は会社員が向いてないから独立しよう!」と簡単に思わない方がいい。もしもあなたが金を稼ぐこと自体に向いてない場合、それでも金を稼ぐ必要があるなら“よりたやすい”のは会社員の方だからだ。

会社員は向いてなくてもとりあえず給与がもらえる。一方で、自営業は向いてないとすぐに収入が途絶える。「サラリーマンが向いてない=自営業が向いているはず」というのはとても危険な発想なので気をつけた方がいい。


この「仕事が向いていない人」というのは、タイプとしては「芸術家」だ。このタイプにはふたつの特徴がある。

(1)やりたいことしかやりたくない。
(2)好きなことさえやれれば満足である。


(1)を言う人は(2)のほうもきちんと理解しておくべきだ。(2)は「経済的にも」「非経済的にも」報われなくても「好きなことさえやれればよい」ということだ。

経済的に報われない方は自分が覚悟すればいいわけだし、ラッキーにも遺産があって「一生売れない作家・画家でいい」という人もいるだろう。

しかし、「経済的に報われなくても、好きなことさえやれればよい」と思えるためには強靱な精神力が必要だ。

人間には「誰かに認められたい」という非常に強い気持ちがある。この気持ちを甘くみない方がいい。
一生(死ぬまで)売れない絵を描き続ける芸術家は、たとえ親の遺産で生活していても、非常に心が強い人たちだ。彼らは「自分は表現するために生まれてきたのだ」と確信している。他人の評価などどうでもいい、というのが天才的な芸術家だ。

でも凡人は、たとえお金に困っていなくても「誰にも評価されず一生を送る」のはとてもつらいと感じるだろう。凡人は「一生好きなことさえできればいい」などと簡単に思わない方がいい。それがどれだけ大変なことか。会社のヤな奴を我慢するくらいこれに比較したら相当たやすく思えるちきりんは、100%会社員向き、ということだ。


★★★

最後にもうひとつ。

今日の文脈においては「主婦」もひとつの職業だ。会社とちがって(舅姑などが)「ヤな奴」であった場合、それは一生ついてまわるし、離婚と再婚は転職よりは大変だ。(会社は自分の意志だけで辞められるが、結婚は相手が合意しないと停止できないというすごい仕組みだ。)

こちらにもきちんと適性がある。「会社員が向いてないから独立する」のも無茶だと思うのと同様に、「働くのが向いてないから主婦になる」のも無茶な発想だと思う。

ただし、適性のある人には芸術家と同じくらいインパクトのある成果が期待できる選択肢でもある。

ちきりんが一生の間に仕事を通して成し遂げられることなど、専業主婦であったちきりんの母が“三分の一の手間”で成し遂げた「ちきりんという人格を一人前にして世にだす」という偉業に比べたら、あまりにもささやかなものだ。



自惚れ屋?

そーね。かなりの自惚れ屋です。



じゃね!