ちきりんは株式投資をしているので、この季節、何社かから「株主優待品」が送られてくる。伊藤園のお茶飲料セットとか、コーセーの化粧品セットとかはなかなかよい。
これらの多くが「ゆうパック」で届くのだけど、ちきりんは大半不在なのでマンションの宅配ボックスに入れられている場合が多い。つまりちきりんは「受領印」は押さずにこれらを(実質的に)受け取るということになる。
で、今年はそれらの品が届いた数日後に日本郵政から“ご確認のための葉書”というのが届くようになった。昨年はこんな葉書をうけとった記憶はないので今年から始まったように思う。
葉書にはたとえば「先日、伊東園様からの荷物を配達しましたが、受け取りましたか?」と書いてある。受け取った、受け取ってない、のいずれかに○をつけてポストにいれてください、とのこと。
ちなみにゆうパックを自分が送り主で使う時には、「配達記録を受け取りたいか?」という選択肢があり、それに「はい」としておくと「配達日が書かれた葉書」が戻ってくる。でも、今回届く葉書はそれとは違います。文面的には「配達がきちんとなされたかどうか、日本郵政という会社が確認したい」という感じだ。
どういうことかって?
ちきりんは、これは「配達員が、お届け品をネコババしたために、本来の宛先に届かない」という事態を想定して、日本郵政が宛先人に直接「あなたは本当に受け取りましたか?」という確認を始めたのではないか、と考えてる。
実際にそういう「不着事故」が多発したからこういう制度が始まったのか、それとも、そういう事故が起こるかもしれない、という想定に基づき(抑止策として)こういうことを始めたのかそれはわからない。が、何にせよ、そういう「不着事故」が起っていないかどうか探ってる、って感じに見える。
今のところ、普通の(たとえば遠くに住む家族とか、知り合いからの)ゆうぱっくの場合はこういう“確認葉書“は届かない。つまり、「株主優待品」の場合だけそういう葉書が届くんだよね。それがおもしろいな、と。
たしかに親戚や別居の家族になにか品物を送ると、普通は別の手段でそれを知らせるでしょ。電話して「昨日荷物送ったよ!」とか。あと、お中元の品などは普通は「お礼」が来る。だから「ナンのお礼もない」と「あれ?届いたかな?」と当然、送り主側が疑念を持つ。配達記録を求める送り主も多いだろう。ネットでの購入品なら、届かなければ間違いなく問い合わせをする。
でも株主優待品なら万が一届かなくても気がつかない人も多そうだ。たとえば今年伊藤園から何も届かないからといって、伊藤園のホームぺージを確認したり問い合わせをする人は少ないでしょ。「不況だから株主優待品、やめたのかな」くらいに思うし、そもそも今年初めて伊藤園の株を保有しはじめた人で(株主優待が目的ではなかった人は)そういうものが送られてくること自体、知らない場合もあるだろう。
つまり、株主優待品って、普通の“個人から個人へ送られたゆうぱっく”に比べて「届かなくても不審に思う人が少ない」という特徴がある。そして時期が集中的で、かつ、一定のエリアに山ほど同じ商品が届くから、誰が見ても(配達員がみても)「これはお中元ではなく、個人の贈り物でもなく、株主優待品だ」と分かる。送り主の会社名をみれば商品内容も想像が付く。しかも、ちきりんのように「宅配ボックスで受け取る」人も多数いる。
たしかにちきりんが“ネコババ”するならこういうカテゴリーの商品を狙うだろう、という条件が揃ってる。ということで、確認を始めたのかも?と思ったりした。いや、あくまで想像ですけど。
★★★
ここで思い出したのは、昔の共産主義の国の“外貨ショップ”。ゴルバチョフの時代のモスクワとか、15年近く前の北朝鮮とか、外貨ショップでお買い物するとそのプロセスが結構めんどくさい。
(1)品物を売り場で選ぶ。ショーケースや棚にある商品の中から、買うモノを決める。
(2)その売り場の担当者(セールスレディ)が、その品物の名前と価格が書かれた売上伝票みたいなメモを作る。わら半紙をちぎった一片に手書き、みたいなみすぼらしい場合も多い。
(3)そのメモ(売上伝票みたいなもの)をもって、ちきりんは、売り場の端の方にあるレジに向かう。たいていレジは店にひとつしか存在しない。
(4)そのレジでお金を払う。すると、売上伝票に「支払い済み」というハンコが押してもらえる。
(5)そのハンコ付き売上伝票をもって売り場に戻る。すると、その売上伝票と引き替えに品物が受け取れる。
という「行ったり来たり」が必要になる。しかもレジは大抵一カ所しかなく、売り場からやたら遠い場合もある。何のためにこんなややこしいシステムなのか?理由は「売り場のセールスレディに外貨を触らせない」ためだ。
具体的に言えば、販売員がレジからお金(外貨)を抜いたり、商品と引き替えにお客さんから受け取った代金(外貨)を自分のポケットに入れるのを防止するためにってことだ。商品在庫の確認なんて毎日行うわけじゃないから。
なので、「お金」はレジに座る一人(店長とか主任)にしか扱わせない。他の販売員は“決済以外の販売”のみを担当するというシステム。その根底にあるのは、店側は「販売員を信じていない」ということ。
たしか中南米の田舎で(比較的単価の高いモノを売っているお店)にも同じシステムの店があった。こちらは「従業員にキャッシュを扱わせない」という目的の他、「強盗よけ」もあるとのことでした。あちこちにレジがあると押し入ってきた強盗がレジごと持ち出してしまう可能性があるんで。
だからレジは店の奥にひとつだけ作り、(南米の)銀行の窓口みたいにハイエンドカウンターにガラス越しの丸い穴から支払う方式だったりしました。
そういうのを見ると、当時はつくづく「日本は平和でいい国だよね」と思えた。
が、実際には日本でももう長らく「コンビニ」の監視カメラは「従業員の万引き防止」が主な目的だと言われている。コンビニ強盗もなくはないけど、日本ではまだまだ少ない。
それよりは、24時間あけているコンビニで、夜間のバイトも客も少ない時間帯に、バイトの人が「レジからお金を抜く」「お酒のような単価の高い商品をくすねる」という事故の方が実質的には「警戒すべき事」なのだ。だからコンビニってバックヤードも含め「一切死角がないように」カメラを設置してたりする。
というわけで今回の葉書をみて、「ああ、そういう感じになってきたのかな、郵便の配達も」と思った。そもそも配達してる人が100%正規雇用の社員でもないのだろうしね。
★★★
ちきりんはこういう「会社が従業員(販売員)を信じなくなる」、さらに言えば「性悪説に基づいて労務管理を行う」ということに関して、別に感慨はないし、そういう信頼関係が崩れてはいけないのだ、という道徳観もあんまりない。
むしろ「会社は俺を裏切らない」「社員が会社を騙すなんてあり得ない」という過剰な信頼関係が続くことの方が妙だと思ってる。
てか、戦後とか日本もぐちゃぐちゃだった時代には、会社や店だって社員や店員をやたらと信じたりはしていない。「社員による売上の持ち逃げ」だってよくあることだったと思う。
高度成長してからだって、銀行のように現金が商品という業態では「異動は辞令がでてから2日以内」みたいなことを言う(=不正を隠す時間を与えないため)し、実は支店長は行員すべての貯金通帳の明細を監視させられてる。(多分ね。)
なので、本音では日本だって会社が社員を「100%信じている」わけではないし、ある程度の性悪説に基づいて不正防止と不正発見の仕組みを組み込んでいる。
なんだけど、今までは比較的「社員を信じている」という建前を大事にしてきていた気もする。「コンビニの監視カメラはあくまで客の万引きと強盗抑止のためなのだ」ってことになってるとかね。
が、なんとなく、そういう精神論も終わりかなあ、という気がしてきた。会社と社員の間に、心温まる信頼物語が必要だと言い張る時代の終わり、というか。今更「会社と社員、共に苦労しながら共に幸せになろう」とか言っても誰も信じないし。
少し前までは(裏では疑っていても)会社は「社員は会社の宝」とか「株主より社員」とか綺麗な言葉をちりばめて、「会社に人生を捧げる社員を、会社は裏切りません」という虚構を続けようとしてきた気がするのよね。
最近、金融機関から顧客名簿が流出する事件も多いでしょ。内部関係者(社員を含む)がお金のために名簿を外部に売っているようなケースもある。
これからは金融機関は「自社社員によるデータへのアクセスを監視するもっと強固なシステム」をもつことを要請されるだろう。特にネットだけですべてを行う“ネット金融機関”は、「社員を見張るシステム」を導入することが最優先のシステムニーズになるんじゃないかな。
ああいうところって、そもそも「終身雇用」でもないし「異動」もあまりない。長く一人の社員に「あいつはシステムに強いから」とかいって一分野を長く任せていると大変なことが起るケースだってでてきそうだ。
つまりそこには「社員管理は性悪説で行う」という原則が「企業の義務として」課される世界がやってくる。「心の中では疑っているけど、一応“信じてるよ!”と言う、という建前と本音を分ける世界」じゃなくてね。
「会社は社員を信じない。もちろん、バイトや契約の販売員や配送員も信じない。」
「だから、内部者の不正を疑い監視するシステムをきちんと業務フローに取り入れる。」
という中で、
「これって、俺たちを見張るシステムだよな」ということを理解しつつ従業員は働くことになる。
世界ではごく普通の世界が、日本にもやってくる。
そんじゃーね。