予行演習としての豚インフル

関西でいきなりの大流行。既に世界で4番目に感染の多い国になってるそうです。

で、前にかいた危機管理というエントリを思い出した。今回の豚インフルの流行はその時に書いた“リアルな予行演習”として非常に意味があるんじゃないかと思う。


今まで日本は“万が一の時の対応動作を決めておく”という準備をやっていた。それは「中国やインドネシアなどのアジア諸国から、強毒性の鳥インフルエンザがやってくる」というのを想定した対応マニュアルだった。

今回は、
・中国&アジアからではなく、中米&北米から(=日本から遠い)
・強毒性ではなく弱毒性の
・鳥ではなく豚インフルがやってきた。

こういう「ちょっと弱めの病気が」「遠いところから」入ってくる、というのは、本番への予行演習として非常に役に立つと思う。


今回はまだ感染流行の初期段階だが、それでも既にいろんな学びがある。たとえば・・


(1)ほんとに備蓄が必要なのは何?

前に農水省をちゃかしたエントリを書いたが、まず備蓄すべきは食料よりマスクと消毒薬だよね。

今や東京でさえマスクは品薄状態でなかなか手に入らない。「予防のためにマスクと手洗いを」と言われても肝心のその用具が入手できない。一方で日用品や食料に関しては入手困難な状態になるとは思えない。

家を出られなくてもネット通販でおおよその日用品も手に入るし、食料は出前も可能。都会では歩いて数分のところに24時間営業のコンビニもある。日本は水道の水も十分に飲めるし食料を備蓄する必要性がすごく高いとは思わない。

なんだけど、花粉の季節が終わったらいきなり店頭からマスクが消えるってのはいかがなものよ、と思う。厚生労働省はタミフルを備蓄するのも大事だが、まずはマスクがいつでも大量に流通させられるように準備させておくべきだよね。

というわけで、今回の騒ぎが収まってモノが店頭に戻ってきたら、まず備蓄すべきはマスク、消毒液、うがい薬などだと思う。一人暮らしの人、体温計持ってない人もいるでしょ。今のうちに買っておいた方がいいと思うよ。


(2)社会的な影響をどうする??
今は「机上で作った対応マニュアル」をそのまま発動している国&大阪、兵庫だけど、橋下知事も言ってたように、これ、ものすごい経済活動、社会活動への影響がありますよね。

学校もだが保育園が7日も閉鎖したら、一人親や共働きで子供を預けていた人は仕事に行けなくなってしまう。このご時世、そのせいで仕事を失うくらいの人がいてもおかしくない。

それにもし強毒性の鳥インフルがもっと大規模に、またもっと長期化して流行したらどうするの?冬の通常のインフルエンザだって2ヶ月くらい流行してるじゃん。鳥インフルが同じ状況になったら2ヶ月、学校を休校にするのかしら。

しかもそれが受験の時期だったらどーすんだろ?センター試験の実施日とかずらします??でもそんなの1ヶ月もずらしたら多分新年度に間に合わなくなるよね。年始年末だったら初詣の神社も閉鎖する?卒業式や入学式、マンモス大学の試験期間とかも。

実際、今回は上手く乗り切ってもまた次の冬に再流行する可能性は十分ある。夏の間にもうちょっと現実的な対応策を考えておかないとやばいよね、と多くの人が感じているのではないかと思う。


(3)保険的な考え方が必要でしょう。
これも前述の危機管理というエントリに書いたことだけど、“補償保険”的なものが必要だと思う。

既に関西ではいくつかのイベントが中止になっているようだけど、そのことによって経済的な損失を被った中小、零細企業はいったいその損失をどうするんだろ?誰も補填してくれないよね。

また、旅行会社は「神戸へのツアー中止」を検討しているし、いろんな会社が「関西出張の見合わせ」を決めている。韓国は日本を“危険エリア”に指定したし、他国では「日本への渡航自粛」を呼びかけているかもしれない。

当然、関西のホテル、交通機関への影響がでるだろう。日曜日にデパートにでかけたり映画に出かけたり、という人も減るでしょ。関西の修学旅行が一斉中止になったら?京都や奈良の観光業界も甚大な被害を被るだろう。

USJなどのような遊戯施設だって行政から「閉鎖依頼」がでてもおかしくない。そういう時、失われる収入は誰が補償してくれる?USJはともかく周辺の飲食店とか、潰れる会社とかでても不思議ではない。

特に小さな企業等に関しては、なんらかの補償制度か保険制度がないと、経済的な損失を最小化するために「開催&営業か中止&閉鎖か」という判断にブレがでると思う。今だって、行政が絡むようなイベントは中止されているが、ゲームセンターやスーパー銭湯的な施設など「学校より危ないんじゃないの?」っていう施設は営業を続けている。そりゃー閉められないよね、その損失とか考えたら・・


(4)医療体制は全然整ってないのね・・

神戸では既に“発熱センター”がオーバーキャパになってるらしい。高熱が出ている人が大挙して発熱センター周りでウィルスをまき散らしながら何時間も待ち時間を過ごしたら・・・流行の支援策って感じだよね。

たかだか百人単位の感染数の今でそんなだったら、千人、万人の感染者がでたらどーなるのだ?そもそも「患者は全員入院させる」って方針が無茶なのでは?とか思うよね。通常の季節性インフルエンザには毎年2000万人が罹患し1万人以上が亡くなっている。こんなやり方ではそういう規模の流行には全く対応できないよね。

また、少し前には東京の医療機関でいくつも「診療拒否」があったと報道されてた。これが強毒性だったら病院はいったい本当に患者を診てくれるの??


ん〜、こんな規模の流行で“いっぱいいっぱい”になっちゃう医療体制ってどうよ?本格的にもっと広く流行したらもう全く手に負えなくなることが“目に見えちゃった”という感じですよね。

タミフルや予防接種の開発もいいけど、本当はこういう状態になると一番役に立つのは「簡易検査キット」みたいなものですよね。難しいのでしょうがそういうのが開発されたらすごく効果がありそう。自分で鼻の粘膜をこすって液につけると数時間で、一定の判定ができるようなキット。簡単妊娠判定薬みたいなね。こういうのがあると、病気を疑われる人が外にでずに一定の判断ができるし、医療機関に押し寄せる人数が減らせる。もちろん(それ以外は)健康体の人のみ用となるのでしょうが。


といろいろ考えていると、今回の騒ぎも先日のテポドン騒ぎと同様、日本はちょっと騒ぎすぎな感じもする(=通常のインフルエンザと同じなのに何でこんなに騒いでるの?と思う)一方で、“予行演習”と考えるなら今のうちに騒いでおくのも悪くないかな、と思える。きっと今回の騒ぎから学びがあって、行政も企業も医療団体もいろいろ再検討し、対応マニュアルを更新するんじゃないかな。

そして、国民自身が「何が起るのか」「何をやっておくべきなのか」について事前に知れることも、とても意味がある。そういう意味では、ちきりんは今は東京だが、関西で働いている人、お子さんの学校が休校になって困ってるとかいう人達が、積極的にいろんな状況を発信してくれれば役に立ちそうに思います。


ふむ。とりあえずは弱毒性のが流行ってるうちにいろいろ勉強しましょうぜ。
ってことで。


そんじゃーね。


<関連エントリ一覧>

危機管理=http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20070801
感染症の社会面について=http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090502


以下は“おちゃらけ系”エントリです。あらかじめご了承ください。
豚インフルエンザに備えて=http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090430
インフルエンザにしろ風邪にしろ=http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090208