初の被爆国からの事務局長 おいくら?

国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長に日本人の天野之弥さんが選ばれた件です。62歳だって。すごいねえ。その年齢よりずっと早く働くことから引退しようと考えているちきりんとしては、そんな年齢からこんな大変そうな仕事をやろうと思うこと自体に感心しますよ。ほんとに高齢者って元気だよね。

おっと、そんなことはどーでもいいのだが。


今回の新しい事務局長選び、もめにもめてました。3月に一度選挙があったんだけど決着が付かず、今回も何度も選挙してようやく決まったみたいです。

一応さらっとおさらいしておくと、この国際機関は加盟国はいっぱいあるんですが、その中で事務局長の選出選挙に投票権があるのは35カ国の理事国、なんですね。

んで、その「有効投票数の3分の2」を獲得しないと事務局長に当選できない、というルールになっている。35カ国の3分の2以上となると、つまりは24票が集まれば確定ってこと。

当初、事務局長の候補者は3人いて、今回選ばれた天野氏以外には、スペインの候補(ルイス・エチャバリ氏)と南アフリカの候補(アブドゥル・ミンティ氏)がいました。

3月には誰も規定に足りる票が集められず、今回がやり直し選挙でした。もちろんその間にすさまじい勢いでの「国際選挙活動」が行われたであろう事は想像に難くありません。


なぜなら、このIAEAってのは、国際機関の中でも最も政治的な意味のある団体だからです。なんといっても「核の番人」ですからね。各国の国防にそのまま関係してくる。

核を持つ超大国と、もたない国々との対立、アメリカとロシアや中国との対立、新たに核を持とうとしている国の思惑などなど、いろんな魑魅魍魎が渦巻いて、ものすごいことになっている。

天野氏は当選後のインタビューで「日本は核兵器を持たず、核軍縮と核不拡散に最大の努力を払ってきた。原子力の平和利用でも実績があり、日本の経験をモデルとして世界と共有できることに大きな意味がある」と言ったらしいけど・・・核の世界において「日本モデル」なんてのは超の付く辺境モデルであって、誰もそんなもん追随しないってば、って感じです。


で、選挙の話ね。最初の投票で、天野氏20票、ミンティ氏10票。エチャバリ氏は5票。ここでエチャバリ氏が脱落。その後は、天野氏とミンティ氏の対決で投票が3回繰り返されたんだけど、3回とも天野氏23票、ミンティ氏12票。で、どちらも当選できず。

これは、投票をしている理事国が全く「ぶれず」に自国が決めた候補を支持しているってことですよね。だから3回やっても一票も動かない。で、選挙規定により、候補者各自への信任投票に移行。ここでも「3分の2以上」が必要。


ところが、最後に決着が付く。“ある国”が棄権したからです。その国はそれまではミンティ氏に票を投じていた。ところが、天野氏の信任投票では“棄権”した。すると、投票総数は34票。その3分の2と言うことは23票だから・・・天野氏は票を増やさずに当選確定!となったわけです。

結構「裏技」ちっくですよね。票を奪うのではなく、有効投票数を変化させて規定数のバーを下げるという策。ふうううううん、って感じ。なお投票は無記名なので「どの国が日本に日和ったのか」は不明です。


さて、決着の付かなかった3月の選挙以来、日本はこれを外務省の最優先事項くらいの扱いにして取り組み、必死の選挙活動を行ってきました。こういう場合、たとえばどういう交渉をするかというと、


天野さんに票をいれてくれたら、
(1)円借款をあげますよ。ODAをあげますよ。
(2)○○国際機関の選挙の時にはあなたの国の候補者に投票しますよ。
(3)あなたの国の人が日本に入国する際の観光ビザの取得を簡単にしてあげますよ。もしくは、先日来もめてる輸入規制の件で日本が譲歩しますよ。
(4)あなた個人のポケットに秘密のプレゼントを入れてあげますよ。
などなどと約束して、


(5)麻生さん、歴代総理、世界中の在外公館(大使館等)が全力をあげて各国関係者を接待、説得。
するわけですね。

あともちろんアメリカなどの「この機関のトップには、アメリカの言うとおりに動く国の人をつけたい」と思っている国に、理事国にプレッシャーをかけてもらったりもします。(欧州の国は必ずしも日本支持だったかどうかは不明でしょう。彼らはアメリカとも一枚岩ではないので。)

日本は国際的に「アメリカの犬」と見られているので、今回、天野氏の選出につよく反対していたのは、中国やロシアなどの反アメリカ系の国。あとは発展途上国だと思われます。そして発展途上国の多くは反対派の首謀者である(?)中国などからODAを受けたりしています。どろどろですね・・。


で、最終的にようやく「信任23、不信任11、棄権1」と、天野氏の票数は一切かわらないけど、基準値が変わったおかげで決着がついた。というわけで、「唯一の被爆国・日本」からの選出となったわけでございます。

対立候補への支持に寝返ることに抵抗がある途上国も、棄権ならやってくれるかも?という日本の作戦があたったわけですが・・・多分、中国は「誰だよ、裏切り者は?」と怒っていると思う。

中国がここから1年くらい、何を見張ってるか、わかりますか?「日本から急にODAが増えた国」がどこかってのを、じーっと見張るんですよ。そうすれば誰が裏切ったかわかるからね。
怖っ。



で、ちきりんが一番関心があるのが「最後の一カ国って、いくらくらいのお金で“棄権”にひっくり返せたのかなあ」ということ。

お金はこの一国だけではなく、最初に23票を集める段階でも相当かかります。が、最後の一国には相当のインセンティブが与えられたと思います。それが、どれくらいの額なのか興味があるのですが、こういう分野に関しては全く想像もつかないですね。

ちきりんは別にお金出すのが悪いとはいわないです。国際機関のトップ選挙なんてどこもそんなもんですからね。特に軍事力も政治力もない日本に出せるのはお金だけ。相手国の財政規模にもよりますが、相当ださないと票なんて集められない。なのだが、いったいどれくらいもらえたら(中国ににらまれるリスクを冒してまで)“棄権しよう”と思えるのかなあと。

おそらく円借款系の援助と、本人やその国の権力者(大統領や政権与党)への非公式な寄付の2本立てなんじゃないかと思います。後者の方は例の「機密費」から支出されるんだと思う。

円借款は、一応ローンだけど、なんやかんやでチャラにされて帰ってこない場合もよくあります。それも含めての円借款。


ふむ。円借款って数百億円くらい?数十億ではさすがにどんな小国でも動かない感じがするんだけど、どーだろ?数千億は大きすぎる気がするけど、そんな額だったりする?いずれにせよ、海賊などに日本人を解放させるのに渡す身代金(おそらく数億円からせいぜい20億円程度)とはかなり違う額なんだと思うんだけどね。

たいていのことって「桁」くらいは想像付くのだけど、こういうのってほんとわかんない。どこかで誰かが暴いてくれるとうれしいな。

というのが、今回の件でちきりんが一番関心のある点です。


ちなみにこの方「カリスマ性がない。リーダーシップがイマイチ」というのが人物評らしいです。たしかにインタビューを見ていても、言葉にインパクトがないですよね。国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長も同じですが、アジアの外交官とか大使とかって、こんな感じの人が多いのかしら?力も毒も魅力もないというか。

やっぱり「国自体の外交力」が貧弱だからですかね。たいした人物がでてこない理由は。アメリカ、中国、フランスなんかだと「外交力」って国にとってすごい大事だし戦略的な分野だけど、日本の大使なんて「ODA配布係」みたいな仕事だからかな。


天野氏は当選後、「日本に感謝している」とおっしゃってましたが、そうですね。納税者にせいぜい感謝してほしいもんだす。


そんじゃーね。