“史上最速で成長しているネットビジネス”と最近よく話題になる「グルーポン」。元々はアメリカで2年前にアンドリュー・メイソン氏が創業して急成長、瞬くまに海外展開し、日本でも先日サービスを開始しました。
仕組み自体はシンプルなため、大企業から既存のIT企業、個人の起業家まで、ものすごい数の人達が追随参入しており、いまや本家グルーポンより「グルーポン的なる仕組み」が大流行しています。
仕組みは、
・クーポン(サイト)企業が、一定期間内に一定数が売れることを条件に、様々な商品やサービスの「格安購入チケット」を売り出す。
・価格は通常価格の半分が目安。成立に必要な販売数もいろいろ(50とか500とか)、売り出し期間も数日から一週間などろいろ。一定期間にその数が売れないと成立しない。
・売上はクーポン企業と商品・サービス提供会社が半々で分けるのが基本らしい(他の比率もありえます)
・売り出すチケットの販売エリアを限定したり、商品カテゴリーを限定したり、1日○社までに限定したり、の多種多様なバリエーションあり。
今やあまりにもクーポン会社が多すぎるので、“クーポンまとめサイト”ができているのですが、そのまとめサイト自体も乱立中・・・そのうち誰かが“まとめサイトのまとめサイト”でも作るんだろうかみたいな感じです。
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さて、このビジネスが成り立つ背景を考えてみましょう。たとえば、1万円の商品が5000円で売り出され、一定期間内に一定数が売れると成立し、売上はグルーポンが2500円、商品、サービス提供会社が2500円と半々で分け合います。
コレ、店の取り分が少ないなあと思いません?元々1万円で売っている商品(やサービス)の変動費はいくらなの?たくさん売れてもこんなんで儲かるのでしょうか。よく飲食店では“原価は3割”と言われますが、店の取り分が売価の25%では原材料費さえカバーできない水準です。
一方でクーポン会社側は「ものすごい儲かる!」とすぐにわかりますよね。これを「濡れ手に粟」と言わずにナンと言う?って感じです。この“あまりにあまりな”利益構造が“史上最速で成長するネットサービス”の背景でしょう。
一方の店側は、なぜこんな「通常売価の25%しか手に入らない格安販売」に参入しようとするのでしょう?
考えられる理由はいくつかあります。
(1)稼働率が上がることによるメリットが大きい
どんな店でも5割しか客が入らないのと満席になるのでは全く利益率が違います。レストランの客が半分でも満席でも、家賃も電気代もシェフの給料も変わりません。せいぜいバイトのウエイターが少し減らせるくらいです。
原材料費だって不良在庫になる可能性を考えると、客が半分でも半額の仕入れで済むわけではありません。加えてレストランの場合、一斉に同じコースを食べてくれる客で店が満杯にできれば(アラカルトで頼む客と比べると)相当いろんなコスト削減が可能になります。
たいていの店は一定の稼働率を想定して損益計算をし、価格を決めていますが、もしも満杯になると分かっているなら、それよりかなり低い価格でも利益が出るのでしょう。
(2)新規顧客獲得コストとして考える
新規客を呼び込むコストはどんなビジネスにとっても、非常に高いです。広告を打ったり、チラシを配ったり、安売りをしてみたり・・・店を客で一杯にしたければ、こういった広告・販促費用はいずれにせよかかります。しかも、広告はコストをかけて出しても客が確実に来るとは限りません。コストだけかかって誰もこないかもしれないのです。
クーポン販売なら広告と違って「確実に客が出る」わけですから、「いつも来ている客ではなく、新規顧客が来てくれる」と思うなら、他の広告をやめてその原資で値引きをすることができます。これが二番目の理由ですね。
(3)“つられ消費”に期待している
とりあえず店まで来てくれれば、他の商品が売れて、そちらの利益である程度埋め合わせられると期待するというものです。
マクドナルドがコーヒーをタダや100円にするのと同じですが、これは理屈的には一応ありえますが、実際にはあまり起ってないような気がします。
今のところ日本でクーポンが売られているモノって単価が高いんですよね。2万円を1万円にするとか、1万円を5千円にするとか。そういうクーポンを買って、更に現地であれこれ買ったりしますかね。しかもクーポンを買っていくような節約志向の人が?
100円ショップやマクドナルドにはいい方法ですが、クーポン系ではどうなのかな、ってのは、よくわかりません。ただレストランならコースは無料でも(料理より利益率の高い)お酒はオーダーしてもらえるでしょうから、その分は利益を確保できそうです。これが3つめ。
というわけで、この(1)(2)(3)で期待できるコスト削減効果&売上アップ効果分だけは値引きしても(安くクーポンを売っても)儲かる、というのが店側の参加動機なわけです。
そういう動機をもつ店って、どんな店でしょう?
まず(1)稼働率が上がることにより、利益率の大改善が期待できる店とは?→「今の稼働率が低い店」=「客が少ない店」です。連日満杯の店がこんな安売りに参加する意義はありません。
ふーん
次に、(2)新規顧客獲得のための広告コストが高い店ほど、また、リピートさせる力が強い店ほど、参加意義があります。それは
・内容はすばらしいが、知名度の低い店
・よく知られていない商品やサービスを扱っている店
・“営業力”に自信があり、一度来てもらえれば、リピートさせる自信があるお店ですね。
そういえばクーポンの出品企業って「脱毛、美顔、痩身エステ」みたいなのが、めっちゃ多いんですよね。
ふーん
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さてこの仕組み、まだまだこれからの展開がとても楽しみなのですが、特に関心があるのは・・
サイトへの集客力が既にあるお店なら「自分で、同じシステムを利用して」安売りしたらどうなの?ってことです。たとえば有名で集客力もあるけど、オフシーズンや空いている日、曜日、時間帯などが偏っている店、宿泊施設、エンタメ施設(映画館など)など。「平日昼間、稼働率が7割を超えたら8割引!」とかどうですかね。
出版社なんかも「とりあえず初版を刷ってみて増刷」じゃなくて、版だけできた段階で「1万冊の注文があれば800円!」など販売数を確定してから印刷すればいいんじゃないかと思いました。
最初から売れる冊数が一定以上で確定できるなら定価をさげてもいい、というケースもありそうでしょ。そういう意味ではサービス業だけではなくメーカーが同じシステムを導入できる可能性もある。
他に興味があるのは、クーポンを大々的に使い始めると、通常価格で利用するお客さんの不興を買うのでは?という点。
記念日に1万円のディナーを食べに行ったら、隣のお客さんも同じようなコースを食べていたのに、5千円のクーポンを店に渡していた。ということは、自分は1万円払っているのに、その客が店に払う金額は2500円。でほぼ同じメニューを食べたのだとわかった。
ここで、あなたの行動を以下から選んで下さい。
・特に何も感じない。おいしければまたその店に行く。
・次からは自分もクーポンを探してからいく。クーポンが手に入らないと行かなくなる。
・その他(具体的に)
うーむ
特定の店が格安クーポンを頻繁に発行しはじめたら、その店に元々行こうと思っていた客が次のクーポン発売を待ち始めるのは必至でしょ。そうなると全体として売上抑制効果さえあるんじゃないかな。それでもこの仕組みを使い続けたいと思う(リピートする)お店なんてでてくるんでしょうか?
また、このシステムが普及してこのスタイルが通常のネット販売の一形態になっていくのであれば・・それって結局、単に「さらなるデフレへの途だよね」って気がするのは考えすぎ?
あとクーポンを買って使わない客がいた場合、代金がクーポンサイトと店のどちらに入るのか、や、キャッシュフローのタイミング(そもそもカードで買う人が多ければ、クーポンサイトへの入金さえ1ヶ月以上後になるはず)など、いろいろ興味深い。
クーポンサイトの乱立が淘汰期に入れば、当然こういう点を「他のクーポンサイトとうちはここが違います!」と有名店開拓に使うサイトだってでてくるでしょう。
別にケチをつけているわけではないんです。これだけの人達が追随するってことはすごく画期的な仕組みであることの証左だし、これだけの勢いで拡がりつつあるそのエネルギーにもわくわくします。
今はまだ相当に荒削りなサービスなんで、これがいつまでもこのまま続くかは疑問だけど、いろんな人がよってたかって仕組みをどんどん洗練させ、応用し、変えていくことによって、今後もっとおもしろいことも始まりそう。
たとえばこの会社(→“バザリング”)は、同じ仕組みを利用してNPOやスポーツ団体への寄付や支援に利用しようとしてる。おもしろい試みだと思うし、他にもいろんな分野に応用できそうでしょ。
個人で寄付を募る人がでてきてもいいじゃん。漫画が趣味だけど、就職活動の時期になった。漫画家を目指すべきか、まずは就職するべきか・・って迷う高校生が、「1年間の生活費と材料費として寄付が300万円集まったら、ボクは就職を辞めて漫画家を目指します!」みたいな“自分の将来を出品”したり。もちろんその時点での自分の作品をアップして、寄付する人はそれをみて判断するという仕組みで。
まあ、もっとむちゃくちゃな感じになってきたら楽しみ。あちこち混乱しそうでよいかと思う。
そんじゃーね!