今年もあと一週間で終わりですね。
今日は「新しい年を迎えるにあたって、ぜひ読んでおきたい一冊」をご紹介します。
それは、ロバート・アラン・フェルドマンさんによる日本経済についての分析、そして提言本であるコチラ
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日本経済の問題点と可能性を超わかりやすく解説する凄腕エコノミストのフェルドマンさん。彼が書いたこの本のクオリティは、前書き冒頭の一文に凝縮されています。
経済学とは何かと訊ねられれば、「希少資源の最適な利用の学問」と答えます。
さらにその目的は「希少性からくる争いを減らし、世界を平和にすること」と言えるでしょう。
国や人間が争ってきた歴史を振り返り、世界の現状を見れば、争いが希少な物や足りない物が原点になっている場合が多いことが分かります。
水や石油、食べ物や環境など、希少資源や希少商品をどうやって公正配分し、どうやって希少性を解消するか、それを考えるのが経済学です。
奇しくも今年は戦後 70年。資源を獲得するため満州から南洋の島々まで、死と滅亡への道を歩んだ大日本帝国の歴史はもちろん、
争いが絶えない中東だって、石油さえ出なければここまでの状況にはならなかったでしょう。
ロシアは不凍港を求めて常に南下を試みているし、その昔、西欧先進国が世界中を植民地にしようと考えたのも希少性のある資源を獲得するためでした。
自分が専門とする学問といえども、これほど簡潔かつ明確にその意義を表現できる人も多くはありません。
(今回は書店で紙の本を買ったので、あちこち線を引きながら読みました)
16歳の時、アメリカから名古屋の高校に留学し、日本人家庭にホームステイをしたフェルドマン氏は、IMFやウォールストリートで働いた後、バブルがまさに弾けんとしていた 1989年末に日本に赴任します。
それ以来ずっと、日本人以上ともいえる深い愛情をもってこの国を見つめてきた氏の、日本経済への知見の豊かさと洞察の深さは、多くの日本人エコノミストのそれを遙かに凌駕しています。
特に彼がすばらしいのは、モノゴトの本質を極めて簡単な言葉で表現できる点にあります。
私には、野口悠紀雄さんや堺屋太一さん、大前研一さんなど、尊敬する洞察家がたくさんいるけれど、中でもフェルドマンさんの言葉は、最もわかりやすい。
今回ご紹介する本も、社会に興味がある子なら中学生でも読めるはず。私自身、この本を 12歳の時にこそ読みたかったと思います。
内容は日本経済と世界経済の現状分析と提言で、重要な分野はざっと網羅されています。
第一章 世界経済と日本経済
・グローバル化の日本への意味
・日本経済の強みと弱み
・米国、中国、欧州について
・TPPの意味、難民問題の意味
第二章 アベノミクス
・改革と景気
・財政再建と選挙制度
第三章 エネルギー政策
・温暖化
・原発の未来
第四章 労働市場
第五章 少子高齢化の煉獄
(↑煉獄という言葉にギョッとしましたが、少子化はまさにこの言葉にふさわしい 大変な事態 なのです)
第六章 地方再生と教育改革
(以上、私による内容抜粋であり、正確な目次ではありません)
(メモを残したい時は該当ページにポストイットを貼って書き込みます)
たとえば、
日本の農業の作付け面積一平方キロ当たりの輸出額は 1100万円ぐらいです。ところがオランダは、同じ面積でおよそ 10億円の輸出額を誇っているのです。
面積も九州くらいしかないし、人件費だって日本と変わらない先進国のオランダが、農産物輸出で日本の 100倍、稼いでいる。こんな衝撃的な数字を、私達の多くは聞いたことさえありません。
だからこそ政府の「農業輸出額を 2倍にする」という目標について氏は、「あまりに野心がなさすぎる」と嘆きます。
懸案の選挙制度についても、
オーストラリアやシンガポール、ベルギーがやっているように投票を国民の義務にすること。2013年のオーストラリア総選挙の投票率はなんと 93%になりました。
そんなことが! って感じですよね。
私も 先日書きましたが、今後大きな問題になるであろう終末期医療に関しても、
(フランスでは)2015年 3月「深眠法」が、下院で通過しました。死を間近にした患者には延命措置を止め、昏睡状態におくというのです。
安楽死の隠れ蓑になるという危惧もありますが、国民の 96%もが支持しているという点に注目すべきでしょう。
他の先進国では既に法律ができはじめているのですね。
ちなみに日本の人口 1000人あたりの病床(病院のベッド数の合計)は、OECD 諸国平均の 2.8倍も多いのだそうです。
なぜ日本ではそんなに「病院で生きる人」が多いのか、私達はもう一度、よく考えてみるべきでしょう。
それ以外でも、
氏がサウジの高官から聞いたという、
石器時代が終わったのは、石が無くなったからではない
=石油の時代が終わるとしても、それは石油が枯渇するからではない
=資源に関しては、枯渇が最も重要な課題なのではない
といった膝を打つような言葉があちこちに出てくるし、
日本経済が直面する様々な問題、たとえば、
・原発は再稼働すべきなのか、しないべきなのか
・外国人労働者を受け入れることと、移民を受け入れることはどう違うのか、どちらがよいのか
・日本の省エネは何が問題か
・解雇ルールができたら、本当に困るのは誰なのか
などについて、明確な答えを提示
他国の経済や体制に関しても、
・中国の共産党一党支配の体制の何がよくないのか
・大量のシリア移民の受け入れは、ドイツにとってプラスなのかマイナスなのか
と、知りたいことにキレイに答えてくれます。
★★★
ひとこと付け加えておくと、フェルドマン氏はアメリカ出身で、ずっとウォールストリートに席(&籍)を置いてきた人ですが、市場主義万歳の人ではありません。
彼はこの本で、
米国には成長戦略がない。
なぜなら共和党も民主党も「成長とは下から自然に上がってくるものであって、政府が決めるものではない。市場経済だから市場に任せる」という考え方だから
と指摘し、こういう考え方はアメリカ経済の弱みだと指摘します。
だから鉄道も整備されないし、ニューヨークでさえラガーディアのような前近代的な空港が放置されている。
州ごとに教育方針を決められるから、保守的な州では宗教的な影響を受けて進化論を教えないといった無茶が残ってしまう。これでは国際化からも取り残されてしまうと警鐘をならします。
その一方で、日本が抱える弱みとして人材育成を挙げ、
社会保障費の大半が高齢者につぎこまれ、若い人への教育投資が十分でないこと、
貧困下で基本的な教育さえ受けられない子どもが増えていることに深刻な懸念を示します。
世界に通用する人材を育てるためには、お金の投資先を変えなくてはならない。
日本は不要なインフラを整備しすぎだ。
本州と四国の間に橋を 3本かけたが、結果として四国経済はよくなったのか?
と問うこの本に、私達はどう答えるのでしょう?
★★★
半藤一利氏の『昭和史』 が、過去を振り返るために不可欠の教科書だとすれば、この本は、未来を考えるために不可欠な一冊です。
電子書籍なら今すぐ読み始められるし、ダウンロードしておけばお正月の空き時間にでもさくっと読めてしまうでしょう。
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この本を読んで、2015年を締めくくりましょう。
この本を読んで、新しい年、2016年を迎えましょう。
日本にはとても大きな可能性があります。
でもそれを実現するためには、私達ひとりひとりが理解し、考え、選択しなければならないことも、たくさんあります。
それはいったいどんなことなのか。それらについて、本当に簡単な言葉で教えてくれる良書。
ぜひご家族みんなで読んでみてください。