自民党総裁選 候補者の演説まとめ

今日行われた自民党総裁選の立候補者による立ち会い演説会がなかなか面白かったので、内容をまとめておきます。

以下、演説は届け出順で各 20分。

黒字は演説骨子で、赤字はちきりんの解釈&感想です。


<石破茂氏>

1.政治家とは? 自民党とは?
・政治家がやるべきことはただひとつ。勇気と真心をもって真実を語ること
・自民党は、勇気をもって自由闊達に真実を語る政党でなければならない。
・国会を公正に運営し、あらゆる人に公平な政策をつくる政党でなければならない。

→ すべて安倍政権への批判ですね。仲のよい人に便益を図り、国会で質問されても真実を語らず、反対意見を封殺するような政権であった、と言いたいのだと思います。

2.民主主義は変節した
・100年前、戦争に反対した人はみな粛正された。
・権力と癒着したメディアは戦争を煽り、予算を減らされたくない軍部が暴走した。
・いまこそ民主主義を守らなければならない。

→ これも安倍さんへの批判ですね。自衛隊を認めるような憲法改正には反対だってことでしょう。

3.資本主義を正さねばならない
・株価は上がったが、格差が広がり、一部の人に利益が集中した。
・企業は利潤だけを追求せず、公益資本主義、里山資本主義を目指すべき

→ 自民党っぽくない主張ですね。経団連はこういうの、支持しないでしょう。

4.各論
・コロナ対策では、強制力をもって移動や営業を禁止できるようにすべき。もちろん経済保証はセットで行うべき
・東京一極集中を是正すべき
・災害復興庁を作るべき

→ 災害復興庁を作るべきってところだけ、私も同意見です。

5.まとめ
・自分は愚直。もっと上手く立ち回ればいいと言われるが、ひたすら愚直
・「納得と共感」がスローガン
・グレートリセットをしたい

→ 「納得と共感」というスローガンも安倍政権批判でしょう。「グレートリセット」とは、自分が総裁になったら、安倍政権がやってきたコトすべてをひっくり返す、という意味ですね。


<菅義偉氏>

1.安倍政権との継続性を強調
・安倍政権を支えてきたものとして、アベノミクスはじめ、安倍政権が取り組んできたことをさらに前に進めたい。

→ 安倍政権を継承する、という方針を明言。ここが他の候補者との大きな違いかな。

2.生い立ちや原点の強調
これに関しては、下記のツイートにつきますね。

高卒で集団就職で上京し、段ボール工場で働き、そこから奮起して(学費の安い)法政大学の二部(夜学)に通った青年が総理大臣を目指してるっていうんだから。

→ 「政治家になったときも地縁も血縁もまったくなかった」と、世襲議員である岸田氏、石破氏との違いも強調。国民の共感を呼ぶ作戦は大成功してると思います。

3.具体的な実績アピール
・限られた日数しか使われていなかった迎賓館=国民の財産を他目的使用にも開放した。
・農水省と国土交通省の縦割りを排し、洪水防止のために農水省管轄のダムに事前放流をさせた。
・公共電波の割り当てを受けているのに、高すぎる携帯電話料金で利益を上げ続ける3大キャリアの既得権益を廃し、きちんと競争させたい。
・ようやく実現したオンライン診療は続けたい、行政のデジタル化(デジタル庁創設)も進める。
・幼児、保育サービスの支援、不妊治療への保険適用など安心して子供を産み育てられる環境整備に力を尽くす。

→ ずっと官房長官だったので、実績をアピールするのは正当な方針だと思いますが、ものすごく具体的ですね。あと、内容的には自由主義的、資本主義的なものが多いようです。

4.地方を支援したい
・日本のすべての地域を元気にさせたいとずっと思ってきた。
・総務大臣となり、地方から都会にでてきた人たちの、生まれ育ったふるさとに貢献したいという気持ちを支援するため「ふるさと納税」を創設した。
・インバウンド促進、農産品の輸出の促進、最低賃金の全国的な引き上げなども地方の支援に役立った。これらは今後も促進したい。

→ 他の候補者が地方重視を明確にしてるので、自分も地方を支援してると強調してる様子。自分自身が「地方から東京に出てきた人」なので、「若い人を地方にとどめるための政策」では”ない”のが菅さんらしいところ。

5.まとめ
・目指す社会像は、「自助・共助・公助」と絆
・自分でできることはまず自分でやってみる。その次に、家族、地域で助け合う。その上で政府が責任をもって対応する。

・行政の縦割りを廃し、
 既得権益を打破し
 悪しき前例に縛られず、規制改革を全力で進める政府を作りたい。

→ 菅氏は(実は)極めて自由主義的な思想の持ち主だとわかります。最後の部分なんて、小泉氏を彷彿とさせる内容です。


<岸田文雄氏>

1.「聞く力」が大事
・国民の声を聞かなくなったから自民党は政権を追われた。
・野党になって、谷垣総裁の下、国民の声を丁寧に聞くようになったから政権を奪還できた。

→ 政権を失ったときのことを例に出してるけど、実際には安倍政権批判かな。「安倍さんは周りの声に耳を貸さなかった」と言いたいように聞こえました。

2.安倍政権を高く評価
・経済についても外交についても大きく改善された7年半だった。
・安倍政権は数々のすばらしいレガシーを残した。海外からの評価も極めて高い。

→ とはいえ自分も要職にあったので(石破氏みたいに)全面否定はできないってことでしょう。ちなみに、なんで自分が外務大臣のときに実現したオバマ氏の広島訪問について語らないのかな? あれは素晴らしい実績だと思うけど。

3.環境や分配を重視する経済政策
・安倍政権で経済は大きく浮揚した。が、コロナ禍により日本の課題も浮かび上がった。
・儲けや効率を最優先する新自由主義は批判されている。
・ESG、SDGsなど「人に優しい、持続可能な、公益に資する資本主義」を考えていく必要がある。
・分配についてしっかり考えていく必要がある。

→ 安倍政権はすばらしい成果をあげたが、コロナによって格差が明確になった、というスタンス。「安倍政権のせいで格差が大きくなった」と言ってる石破氏、「アベノミクスは上手くいっている」とする菅氏との違いがわかりやすい。

4.デジタル化で地方復興
・最新技術や情報、データなどの分野で新しい成長のエンジンを生み出す必要がある(成長戦略)。
・これらは地方でも可能。コロナにより、地方にいても働ける、学べることがわかった。
・リモート診療、リモート教育、スマート農林水産業など、を地方の成長エンジンに活用する。
・東京一極集中は問題だという意識も広まっており、地方にチャンスがまわってきた。
・今こそ40年前の田園都市構想「田園に都市の便利さを。都市に田園の豊かさを」を実現すべき
・デジタル庁も大事だが、21世紀の石油と言われるデータをそこに乗せるのが大事。なので「データ庁」を考えてもいいのではないか。

→ 「デジタル庁」との違いをだすために「データ庁」とか言い出してるのは(差別化のためとはいえ)重箱の隅感が強いです。あと、地方の経済対策の柱としてデジタル化を掲げるのも少し強引な感じですかね。全体に「ほんまかいな」的な話が多い。

5.各論
・感染症対策とコロナ対策の両立が重要
・そのためには、コロナのためのPCRだけでなく、経済のためのPCRを充実させる必要がある。
・格差をなくすため、税制による分配を考える必要がある。
・中間層の支援のためには、教育、教育分野での支援も効果的
・最低賃金の引き上げも大事
・日米関係、日中関係はどちらも大事だが、資源のない人口減少国にとっては、二国間外交よりマルチ外交が大事
・自由や民主主義という同じ価値観をもつ国と共に環境やエネルギーや平和といった課題に取り組み、国際的な立場を確立するのが日本の生きる道

→ てんこ盛りすぎて何がなんだかわかりません。「経済のためのPCR」ってなに??

6.まとめ
・いま「国民の協力を引き出す政治」が求められている。そのためには、政治の「聞く力」を取り戻す必要がある。
・今、日本は国難にある。こういうときこそ保守。この国難を乗り切れるのは自由民主党だけである。
・自分は大学入試に3回失敗した。野球でも失敗した。失敗により、協力してくれる人のありがたさを理解した。
・自分がすべて抱えるのではなく、オールスター、オール自民党でチームを組み、ひとりひとりを輝かせるリーダーを目指したい。

→ ちょっとスピーチライターが弱いんじゃないですかね。今日の演説で野党との違いを強調する意味はあまりない気がします。「聞く力」ってのも意味不明。「国民の協力を引き出す政治が必要」というけど、コロナの自粛で、国民はみな、めっちゃ協力してると思うんですけど?

あと、最後の「オール自民党で!」という強調は、「菅政権ができても、支持した派閥の人だけを閣僚にする、みたいなことはしないでオールスターで組閣してね」ってことだよね。これはかなり切実なのかも。

★★★

以上、3人とも演説が上手くて聞き応えがありました。

感想としては、
・石破さんは安倍さんの否定に走りすぎてて、あんまり前向きな感じがしませんでした。「自分は愚直」という言い方からは「勝てなくても愚直にやっていきたい」という開き直り(勝つことより、愚直であることを優先してるよう)にも聞こえました。

・菅さんは全体として非常に上手い(マーケット感覚がある)スピーチでしたね。しかも経済思想的に(実は)とても自由主義的である、ということがよくわかりました。

・岸田さんは、菅さんの立候補によっていちばん損してますよね。
石破さんと差別化するには「自分は安倍政権の貢献者である」と言いたいけど、この点では菅氏には勝てない。
菅氏と差別化するには「安倍政権の悪いところは直す」と言いたいけど、それじゃあ石破さんに比べて弱腰に見える。
今回はかなり厳しい立ち位置に押しやられてしまってます。


以上、自民党総裁選・3候補の演説を聴いた感想でした。


そんじゃーね


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