いい人生の探し方 第五話

このエントリは連載モノです。

いい人生の探し方 リアルストーリー 第一話
いい人生の探し方 リアルストーリー 第二話
いい人生の探し方 リアルストーリー 第三話
いい人生の探し方 リアルストーリー 第四話

前回に引き続き、Mさんのインタビューから私が学んだことのまとめです。

「人生を選ぶ機会」の重要さ

Mさんは中学受験をし、13歳から大学までエスカレーター式に進学できる学校に通っていました。

今回、彼女と話していて、こういう学校に行ってしまうと、10代のうちに自分の将来を選ぶ練習機会を逸してしまうリスクがあると感じました。


大学受験をする高校生は、17歳の段階で「どこの大学にいこうか」&「どこの学部を受けようか」と考え、親や友達とも意見を交わします。

この時、大学名や学部だけでなく将来のキャリアについても併せて考えます。

それは、「弁護士になりたいから法学部」とか「エンジニアになりたいから工学部」といったごく単純なレベルではありますが、17歳の段階で将来の職業像を一度は考え、選ぶのです。


ところが受験なしに大学に行ける場合、この10代での「考え&選ぶタイミング」が飛んでしまいます。

内部進学校の学部選択では、多くの場合「高校の成績がこれくらいなら、学部はココかココ。成績がトップ○%に入ってる場合は○学部も選べる」というように、高校の成績と進学できる学部が(ゆるくですが)ヒモ付けされています。

一般受験をする高校生だと、「宇宙について研究したいから理学部に行きたい。でも自分の成績では A大学は無理だから B大学にしよう」と考えますが、

内部進学校の場合は大学名が固定なので、成績によって(大学名ではなく)学部の方が変わるわけです。


しかも自分の成績より低い成績でも進学できる学部を選ぼうとすると、先生や友達から「あなたの成績なら○学部に行けるのに、なぜより低い成績でも行ける△学部を希望するの?」と言われたりもします。

つまりエスカレーター校の学部選択は、なりたい職業イメージではなく成績と結びついたものになりがちで、

それがために「 10代での職業イメージの選択」(←職業の選択ではなく、職業イメージの選択です)が行われないままに大学進学が実現してしまいます。


例外として、一部の「やりたいコトが超明確な子」もしくは「中学受験の失敗をリベンジしたい子」は内部進学を選ばず、外部の大学を受験します。

でも大半を占める内部進学組は、大学生となり就活の時期が来るまで、将来の職業イメージを一度も選択する必要がありません。

大学受験をする子が 17歳で最初に「自分の将来像」と向き合うのと比べ、そのタイミングは 5年近くも遅れてしまうのです。



(青山学院中等部に合格した頃の Mさん)


問題は「職業イメージを選ぶタイミングの遅れ」だけではありません。

大学受験を経験した子は、大学での就活時が 2回目の「将来像の検討タイミング」になるので、最初の思考の間違いが修正できます。

たとえば「弁護士になりたくて法学部に入ったけど、法律家なんて向いてないとわかったからやーめた」とか、

「メーカーのエンジニアになるつもりで工学部に入ったけど、メーカー以外の仕事もおもしろそうだから文系就職するかー」みたいに、

17歳で一度は考えて選んだ職業イメージにたいして、大学時代に振り返ることができ、それを就活の時に修正して 2回目の選択ができるわけです。


一方、「エスカレーターに乗って大学に入りました。学部も高校の成績で決めちゃいました」みたいな内部進学生は、大学で就活が始まってから初めて「さて、何になりたいんだっけ?」と考え始めます。

このため内部進学生の中には、大学を中退して別の大学を受け直すとか、大学の途中で調理師を目指して服部栄養専門学校に転校する、みたいな人まで出てきます。

みんなその時が「自分の将来像に基づいて、何を学ぶかを考える初めてのタイミング」であるため、純粋っちゃ純粋です。

Mさんもまさにそういうタイミングで、司法試験改革の波に遭遇したのです。


私はこの↓対談の中で「自分の人生を選ぶ練習を、中学生くらいから始めるべき」と主張しています。

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17歳どころか、14歳くらいから「自分は将来、何になりたいか」に応じて学ぶ科目を選ぶべきだ。学んでみて違うと思ったら、次の学期にはまた別の科目を選べばいいと。

「それ、特に好きなことがない子、やりたいコトが不明な子には難しいのでは?」という梅原さんの問いに対しても、

「そういう子ほど、自分で選ぶ練習を早めに開始すべき。だって、誰も自分の人生を選んでくれたりはしないんだから」と答えています。


私自身は 17歳で最初の選択をし、22歳でその選択を変更し、さらに 30歳で別の選択をして、そのあと 35歳でようやく「コレだ!」を見つけました。

なんとそこまで 4回の試行錯誤が必要だったんです。

梅原さんは(納得感を得るのには時間がかかってるけど)やりたいコト自体には 14歳で出会っています。

でも、私のように強い志望もなく、やりたいことも特に無かったという子ほど、早めに「自分の人生を選ぶ」練習を始めたほうがいい。

だって早めに始めないと、やり直せる間に「コレだ!」を見つけられなくなる。


そう考えると、最初の職業イメージの選択を 22歳近くまで引き延ばせるエスカレーター式の学校に行くのって、けっこうリスキーだったりもするんだなと、今回の話を聞いて思ったんです。

Mさんだって、高校生の時に「弁護士になりたいから法学部」という明確な意思決定をしていたら、大学 3年生くらいには「やっぱり違うかも」と思ったかも知れない。


就活時期に初めて「さて、何になろう?」と考えさせるなんて、あまりに遅すぎる制度だと思いません?

「人生を選ぶ練習」、その機会はできるだけ早いうちに、できるだけ何度もあった方がいい。私はほんとにそー思っているんです。



そんじゃーね


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