台風や大雨・洪水など大きな災害が起こった時、後から振り返れば「あのとき本当はこうしておくべきだった」とわかりますよね。
でも災害の真っ最中には、専門家でも「今なにをすべきなのか」なかなかわからない。
現在、感染拡大中の新型コロナウイルス対策もまったく同じです。半年後、一年後に振り返れば「あの時いったい何をするのが正解だったのか」わかるはず。
でも今は、それは誰にもわからないんです。
だから今回は数ヶ月ほど時計を巻き戻し、昨年、関東地方に甚大な被害を出した台風15号と19号について振りかえってみたいと思います。
★★★
おさらいのため、まずはどんな被害だったのかまとめておきましょう。
台風15号は、2019年9月9日(月)の未明(夜中の3時)に三浦半島を通過、朝5時に千葉市付近に上陸しているので、
関東地方に関していえば、9月8日の夜から9日の朝方までが台風のピークだったと言えます。
その際の勢力は960hPa、最大風速40m/sの「強い」勢力でしたが、関東に上陸する台風としては過去最強クラスでした。
この「関東に上陸する台風としては」というのがポイントのひとつで、通常、台風は九州や四国、紀伊半島などに上陸し、関東にはあまり上陸しません。
だから関東の人には「台風で大被害」という認識自体が弱かった。
そして実際、この台風での死者数は数名と、その前年、西日本を襲った台風や豪雨ほどの被害ではありませんでした。
ところが想定外だったのが「風」です。
そして場所。
「関東」というからみんな「東京」がヤバイのかと思っていたら、被害は千葉に集中しました。
倒れて住宅にめり込んだゴルフ場のポール映像は衝撃的だったし、90万戸以上もの大規模停電が数週間続き、多数の家で屋根が吹き飛ばされました。
しかも電柱や電信柱が倒れたことで、電気だけでなく電話やネット(スマホ・携帯)が数週間にわたってつながらないエリアが続出。
このように、台風15号に関しては、さまざまな「予想と実体のズレ」が生じました。たとえば、
1.関東直撃と言われ、メディアも人も「東京ヤバイ!」と騒いでいたけど、実際にやられたのは「千葉県」だった。(So, 森田知事もまったく危機感なかった)
2.電柱や電信柱がバタバタ倒れるなんて誰も(東京電力やNTTでさえ)予想できなかった。
3.停電の完全復旧には3週間近くを要したにも関わらず、東電は当初「一両日には停電解消」といった甘い見通しを出し続けた
4.JRは台風が近づいた8日のお昼近くになって「夕方から運休」とか言いだし、すでに電車で出かけていた人は帰りの足がなくなって大問題。
しかもJRは、「明日9日(月)は8時から電車を動かす」と言っていたため、朝の8時には駅に人が殺到。
ところが夜間の台風直撃で線路に多数の問題が起こり、その点検や修復のため、正午くらいまで動かない路線も続出。
山手線が動いてないのに、新宿や渋谷に私鉄が人を運び、ターミナル駅に溢れた人の数は危険なレベルまで膨れあがった。
加えて、成田線など遅くまで動かない路線も発生。
電車が動くはずとみていた成田空港では次々と到着する飛行機から降りた乗客(10時半時点で1万4千人)が空港内に足止めされ大パニック
・千葉県や千葉市など最初に災害対応を担うべき地方行政のトップ
・東京電力やNTT
・JRや私鉄
といった、
「災害対応のプロ」とも言えるインフラ担当企業や行政が、こぞって状況を読み違え、対応を間違えたんです。
この原因はどこにあったのか、そして、もしもう一度やりなおせるなら「どうすべきだったのか?」
今日は当時の台風進路予想図や、気象庁の予報発表文を見つつ、台風15号の予報と実際について振り返ってみたいと思います。
※台風19号については明日のブログで振り返ります。
★★★
最初に「台風が来る」とわかったのは3日前、9月5日の夕方で、当時の予報は下記のようなものでした。
(当エントリの台風進路予想図はすべてウェザーマップ社提供)
2019年9月5日(木)17時半発表
台風第15号が発生しました。7日頃に暴風域を伴って小笠原諸島へ接近する見込みです。強風や高波に注意してください。
その後は、8日から9日にかけて西日本や東日本に接近し、強風や高波、大雨の影響を受けるおそれがあります。
(以上、当エントリの引用ボックス内の予報文はすべて気象庁発表資料より抜粋、引用。ただし赤字にするなどの強調はちきりんが追加)
<私の受け止め方>
上の予想進路図や予報文をみて「今度の台風は九州や関西じゃなくて、関東に来るんだな」とは理解しました。
が、この時点ではそこまで大きな台風だという認識はありませんでした。
★★★
ところが一日たつと下記のように予報が変わり、「東日本」に「上陸するおそれ」となりました。
9月6日(金)17時発表
台風は強い勢力となって8日から9日にかけて東日本にかなり接近し上陸するおそれがあります。
<私の受け止め方>
「関東に上陸」と聞き、私を含め東京の人はみな「やべっ!」と感じたはず。前述したように、関東に台風が上陸すること自体が珍しいので。
★★★
さらに翌朝。
9月7日(土)6時発表
台風は発達して強い勢力となり、8日夜から9日にかけて暴風域を伴って東日本にかなり接近し、上陸するおそれがあります。
暴風やうねりを伴った高波に厳重に警戒し、土砂災害や低い土地の浸水、河川の増水に注意・警戒してください。
関東地方、伊豆諸島 35メートル(50メートル)
その後、9日6時までに予想される24時間降水量は、いずれも多い所で
関東地方、甲信地方、伊豆諸島 200から300ミリ
※9日3時 970hPa
<私の受け止め方>
「やっぱ東京に上陸する可能性があるんだ」とは思いましたが、風速や雨量の予想、中心気圧をみるかぎり、そこまで大きな台風だとは(少なくともこの時点では)思ってなかったかな。
★★★
が、この日(台風が直撃する前日)夕方になると、中心気圧が 955hPaになってて驚きました。
9月7日(土)16時半発表
強い台風第15号は発達しながら北上し、8日夜から9日午前中にかけて暴風域を伴って東日本にかなり接近し、上陸するおそれがあります。
8日にかけて予想される最大風速(最大瞬間風速)は、
伊豆諸島 40メートル(60メートル)
関東地方 35メートル(50メートル)
※8日15時 955hPa
<私の受け止め方>
中心気圧は低いほど台風の勢力が強くなります。この数字、970とか980くらいならともかく、950に近くなると私でさえ「相当ヤバイ」とわかる。
確かこの時点で伊勢湾台風など、過去の大きな台風の中心気圧をググりはじめたという記憶があります。
★★★
そしていよいよ8日(日)の朝の予報がこちら
8日(日)5時発表
強い台風第15号は、今後も強い勢力を維持したまま北上し、暴風域を伴って、8日夜から9日午前中にかけて関東地方にかなり接近し、上陸するおそれがあります。
9日にかけて予想される最大風速(最大瞬間風速)は、伊豆諸島、関東地方 40メートル(60メートル)
9日6時までに予想される24時間降水量は、いずれも多い所で
伊豆諸島 200ミリ 関東地方、甲信地方 300ミリ
※8日21時 960hPa
<私の受け止め方>
「今」読むとたしかに「今回の台風は雨の量より、風の強さのほうがヒドいのかも?」という気もします。
でもこの予報文で、電柱や電信柱が倒れるほどの(ゴルフ場のポールが倒れるほどの)風が吹くとは誰も想像できないよね。
くわえて「関東地方」という言い方で、千葉にあそこまでの被害がでると予想した人はいないでしょう。だから千葉県知事も・・・(以下略)
なお、JRはこの予報がでたあと、この日の夕方からの運休を決めています。「今夜がヤバイ」ということは理解したのでしょう。あと、「明日の始発から動かすのは難しいかも」とも理解した。
だから「始発からではなく、朝8時から動かす」と発表したのです。
彼らとしてはこれでも相当の「バッファー」をもうけたつもりだったのだと思います。
★★★
そして夕方。
8日(日)17時発表
強い台風第15号は、強い勢力を維持し暴風域を伴って8日夜遅くから9日明け方に関東地方または静岡県に上陸し、9日昼前にかけて関東甲信地方を通過する見込みです。
暴風やうねりを伴った高波に厳重に警戒し、土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に警戒してください。
関東地方では8日夜遅くから9日朝にかけて、猛烈な風が吹き、首都圏を含め、記録的な暴風となるおそれがあります。
塩害にも注意が必要です。また、交通機関に影響の出るおそれもあります。
<私の受け止め方>
ここまでくるとさすがに「今回の台風でヤバイのは風なんだ!」とわかります。
んが
それでもまだ、まさか電柱が倒れるほどの風とは思えませんでした。あたしだけじゃなく、東京電力もNTTも同じだったはず(だから対応が遅れた)
もし気象庁や気象予報士、メディアが、「猛烈な風が吹き、首都圏を含め、記録的な暴風となるおそれ」ではなく
「電柱や電信柱が倒れかねない風速です。屋根が飛ばされる可能性もあります」
と言ってたら、東電幹部も「ん? 電柱が倒れかねないほどの暴風??」って思ったかもしれないのに。
そして相変わらず「関東地方では首都圏を含め・・・」という言い方のまま。
これも、「台風は右側の風が強い。だから一番警戒すべきはズバリ千葉だ!」という発信がなされていたら、だいぶ違ったのでは? (少なくとも知事や千葉県職員の行動は違ったはず)
わかってなかったのか、分かっていたけど、そういう発信はできないものなのか。これが、相変わらず千葉県知事がノホホンとしていた理由でしょう。
★★★
そして当日の夜。
8日(日)21時発表
台風第15号は、強い勢力で関東地方南部または静岡県に上陸し、関東地方を通過する見込みです。
関東地方の沿岸部を中心に、これから数時間以内に急に風が強まり、猛烈な風が吹く見込みです。
風による飛来物などにより外出は危険となるでしょう。厳重に警戒し安全確保に努めてください。
<私の受け止め方>
ほんと、今から読み直すと、気象庁は「風」への警戒を繰り返し強調してます。
が、「風による飛来物などにより外出は危険となるでしょう」という文章は、適切なワーディングだったでしょうか?
これではベランダのゴミ箱が飛ぶかもとか、玄関先の自転車が倒されるくらいのイメージしか(素人には)できません。
★★★
さらに数時間後。台風上陸直前です。
9日(月)0時発表
非常に強い台風第15号は、勢力を維持し暴風域を伴って9日未明から明け方に関東地方に上陸し、9日昼前にかけて関東地方を通過する見込みです。
昨年近畿地方に上陸した台風第21号に匹敵する勢力で関東地方南部を通過するおそれがあります。
<私の受け止め方>
予報文も昨年の関西の台風を比較に使うなど、危機感を伝えるための工夫を始めてます。これはグッドジョブ。
1年前の大阪の台風では、民家の駐車場の屋根や、ビルの屋上の建造物などが飛ばされ、メディアは何度もその映像を流していました。
だから気象庁が「あれに匹敵する大きさだよ!」と言った時点で、そのヤバさが関東の人にも伝わったと思います。
ただ、予報文にある「関東地方南部」という言葉を聞いて私が思い浮かぶのは神奈川県であって、千葉県ではありません。千葉県南部の方は、どうなんでしょう?
「関東地方南部」ではなく、具体的な県名を出すことはできなかったのかな??
また、既にものすごい風が吹き始めていたのに、JRは「明日は午前8時から全線を動かす」という予定を変更しませんでした。
「こんだけの風が吹いたら、朝の8時までに線路の点検が終わらないかも?」と気づくのは無理だったのでしょうか?
それとも日曜日だった8日と異なり、月曜日である(ビジネスの始まる)9日の運休を決めることに躊躇があった?
同様に東電の人は、このときの風を見ても「電柱、やばいかも?」とは思わなかったのでしょうか。
★★★
翌朝、台風が過ぎてみれば、千葉県ではゴルフ場のポールが倒れて住宅を直撃し、電柱や電信柱が何本も倒れて停電、断水、ネットや電話の不通が広範囲で発生。
電車も予定時間を大きく過ぎても動かず、成田空港では1万4千人が足止め。新宿駅などターミナル駅では危険なほどの人の波が数時間、立ちっぱで待たされました。
・・・あらためて予報文を振り返ってみると、気象庁は少なくとも一日前からはできる限りの警告をしていたと思います。
でも行政、そしてJRやNTTといったインフラ企業は、それを正しく反映したタイムリーな判断ができていなかったのでは?
民間企業も同じで、「朝8時から電車が動くらしいから、8時には出勤開始な!」と命じる以外の指示はできなかったのでしょうか?
私鉄各社は「8時から動くはずだった山手線が動いてない!」と気づいた段階で「新宿や渋谷に人を運ぶのはやめよう」と判断できなかったのでしょうか?
以上、
「数ヶ月前に起こった災害対応について、後から振り返って考える」ことで、「現在おきている厄災=新型コロナ対策」でも「今、我が社は or 自分はなにをすべきか」考えることができそうに思えたので、あえてこのタイミングで昨年の台風についてまとめてみました。
次のエントリでは、引き続き台風19号についての予報と実際を振り返ります。
というのも19号では、「15号のときに植え付けられたバイアス」がさらに大きな混乱を引き起こしたとも言えるので。