災害を後から振り返るシリーズ:2019年台風19号

昨日は去年秋の台風15号について振り返りました。

今日は、その一ヶ月後にやってきた台風19号について振り返ります。

まずは概要から。

19号が関東地方を直撃したのは2019年10月12日(土)、午後から夜中にかけてです。

そして15号と同様、19号についても様々な「予想と実際のくい違い」がありました。

1.電柱やゴルフ場のポールが倒れた前回の記憶が強烈だったため、多くの人は今回も暴風を警戒。窓に養生テープを貼って対策する人が続出しました。


けれど終わってみれば、19号の最大の被害は「川の氾濫、決壊による洪水や浸水被害」でした。

2.15号で大被害を受けた千葉はもちろん、東京も「ちょっと進路がズレたら我が身!」と大警戒していました。


でも、もっとも被害が大きかったのは阿武隈川の氾濫で30名以上が命を落とした福島県や、丸森町を中心に19名もの死者を出した宮城県など東北地方でした。

また、長野県では千曲川が氾濫。新幹線の車両が大量に浸水し、廃棄を余儀なくされました。

3.東京では海抜ゼロメートル地帯と呼ばれる荒川周辺地域(江戸川区、江東区など)の緊張感がもっとも高まっていました。


ですが、実際に氾濫したのは川崎市や狛江市、世田谷区を流れる多摩川でした。

4.15号のとき「当日になってから運休を決めた」と批判されたJRは、前日から翌12日の運休を決めました。今回は新幹線も運休する徹底ぶりでした。


また、15号のとき「JR(山手線)が止まってるのに新宿や渋谷に客を運び続け混乱を助長した」と非難された私鉄も12日の運休を決定。


しかしこれにより、多摩川や荒川流域の住民は(東京では自家用車を持たない人が多いため)電車が止まった時点で広域避難が不可能になりました。


実は12日の午前中から午後の早い時間は、風雨もそこまで酷くなかったんです。電車さえ動いていれば明るいうちに親戚や知人の家に避難できた人も、昼間から電車が止まってしまったため、避難が不可能になったまま台風直撃の夜を迎えることになったのです。


このように、台風19号の際にも様々な見込み違いが発生しました。でもよく見ると、見込み違いが起こった理由は、15号とはまったく違います。

15号の見込み違いの多くは「被害を深刻に捉えなかった」「台風を甘く見ていた」ことから来ています。

それにたいし19号時の見込み違いは、「15号のときと同じことが起こるに違いないという思い込み」によるものでした。


・15号が暴風被害だったから、今回も風に備えよう。窓にテープ貼るぞ!

・15号の被害は千葉だったから、今回、備えるべきは千葉か(せいぜい)その隣の東京だ!

・15号のときに混乱したから、今回は早めに電車をぜんぶ止めてしまおう! (結果として避難まで不可能に!)


わかります?

19号の見込み違いは、「15号の被害によって刷り込まれたバイアスが原因だった」といっても過言ではないのです。

★★★

以下は当時の予報と一般の人(代表=わたし)の受け止め方です。

2019年10月8日(火)17時
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(当エントリの台風進路予想図はすべてウェザーマップ社提供)


関東甲信地方では12日から13日頃にかけて大荒れとなって、警報級の大雨となる可能性があります。


(以上、当エントリの引用ボックス内の予報文はすべて気象庁発表資料より抜粋、引用。ただし赤字にするなどの強調はちきりんが追加)

<私の受け止め方>
これ、台風が直撃する12日夜の4日前なんです。4日も前なのに、相当つよい言葉での警告です。

しかも気象庁はちゃんと「大雨が警報級」だと言ってます。風じゃなくて。

9日(水)17時
関東甲信地方では、12日から13日にかけて暴風、警報級の大雨や高波となるおそれがあります。

台風は、日本の南で次第に北のち北東に進路を変えて、非常に強い勢力を保ったまま、12日から13日にかけて西日本から東日本に接近し、上陸するおそれがあります。

関東甲信地方(小笠原諸島を除く)では、風や雨も強まって、12日から13日にかけて暴風や警報級の大雨となるおそれがあります。

<私の受け止め方>
引き続き、ものすごく強い言葉での警告だと思いました。

ただしエリアとしては関東や関東甲信越という言葉だけなので、これで東北地方の人が警戒感をもったとは思えません。東北の人も「東京、大変だな」くらいに思っていたのでは?

10日(木)17時半
台風は、日本の南を北北西に進み、次第に進路を北東に変えて、非常に強い勢力を保ったまま、12日午後から13日にかけて、紀伊半島から東日本の太平洋側に接近・上陸し、東日本を進むおそれがあります。


その後、12日18時までの24時間雨量は、いずれも多い所で 関東地方  300から500ミリ  その後も、台風の接近に伴い、総雨量が更に増えるでしょう。

<私の受け止め方>
警戒感は高まり続けます。なお上記の予報文、よく読めば、やはり今回は「風」ではなく「大雨」だとわかります。

でもテレビもネットも、雨より「風」を怖がっていました。

なぜか?

理由は明確。1ヶ月前に千葉を襲った「暴風」の被害を、この日あたりまで連日メディアがセンセーショナルに伝え続けていたからです。

「2週間もたったのに、まだ停電してます!」「まだスマホがつながりません!」「まだポールが倒れたまま・・・」

だから(気象庁が、今度は雨だ!と言ってるにも拘わらず)窓が風で割れないようテープを貼ろうとする人がホームセンターに殺到。養生テープが売り切れる騒ぎになってたんです。

11日(金)6時
関東地方の太平洋側に前線が停滞しており、海上を中心に激しい雨が降っています。前線は次第に北上し、11日夜から12日にかけて北陸地方から東北地方に停滞する見込みです。


12日にかけて予想される最大風速(最大瞬間風速)
関東地方の陸上 40メートル(60メートル)
13日06時までに予想される24時間雨量は、多い所で関東地方400から600ミリ

<私の受け止め方>
この日、東京、神奈川や千葉のスーパーは長蛇の列となりました。一ヶ月前の15号で千葉が受けた被害を思い出し、多くの人が飲料や食料の買い出しに走ったからです。

スーパーは激混み。水のペットボトルと、ガスや電気が止まっても食べられるパンは売り切れ。カップラーメンの棚もスカスカに。

みんな「前回の千葉みたいに、電柱が倒れて2週間停電するかも!」と怖れていました。


反対にいえば、「大雨で浸水する」なんて誰も思ってなかったんです。

そう思ってたら土嚢を用意するでしょ? もしくは、地下駐車場の車を移動したり、二階に荷物を運ぶよね? 川の近くの家の人は、高台の知人の家に身を寄せるとか。

でもそうではなく私たちはみな「風で電柱が倒れて停電する」のを怖れ、食料を買い込んでいたのです。

だって!

前回がそうだったから・・・

11日(金)17時半
台風第19号は、非常に強い勢力を保ったまま、12日夕方から夜にかけて、東海地方または関東地方にかなり接近、上陸するおそれがあり、記録的な暴風や昭和33年の狩野川台風に匹敵する記録的な大雨となるおそれがありますので厳重に警戒してください。


高波や高潮にも厳重な警戒が必要です。大雨の状況によっては、大雨特別警報を発表する可能性もあります。


また、台風の勢力によっては記録的な暴風となるおそれもあります。 
暴風やうねりを伴った高波、高潮、高潮と重なり合った波による、交通障害や停電、浸水、沿岸施設の損壊、塩害、農作物の管理などに厳重に警戒してください。

<私の受け止め方>
気象庁は大雨と暴風を両方警戒しています。でも、一般の人の頭には「風がヤバイ!」印象が残ったままでした。

テレビでは「窓に養生テープをはる場合、どういう貼り方がよいか」を、専門家まで招いて解説しつづけていました。

12日(土)6時
台風第19号は、非常に強い勢力を保ったまま、12日夕方から夜にかけて、東海地方または関東地方に上陸し、関東甲信地方を進む見込みです。


記録的な暴風や昭和33年の狩野川台風に匹敵する記録的な大雨となるおそれがありますので厳重に警戒してください。

<私の受け止め方>
過去の大台風を例に出すのはいいのですが、「昭和33年の狩野川台風」なんて覚えてる人、何歳以上の人なんですかね? 

15号のときみたいに「昨年の関西を襲った台風」など、もっと近い例を出して警告することはできなかったのかな?

このときに「数年前に岡山の倉敷で起こったような河川決壊被害があちこちで起こるかも」と言ってくれていたら、大きな河川の近くに住む人は、「風だけじゃなく、川の決壊に気をつけねば!」と思ったはず。

12日(土)11時半
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関東地方は、暴風域に入り始めました。関東甲信地方は、今後、13日明け方にかけて暴風域に入る見込みです。台風の勢力によっては記録的な暴風となるおそれもあります。


降り始めからの総降水量が関東甲信地方で300ミリを超えた所があり、土砂災害や洪水の危険度が非常に高まっている地域があります。また、関東地方では竜巻などの激しい突風により被害が発生している模様です。

と、台風直撃の当日、朝の段階では「暴風」への警戒が呼びかけられていたのですが、

12日(土)15時半
群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県に大雨特別警報を発表しました。


これらの地域では、これまでに経験したことのないような大雨となっています。

何らかの災害がすでに発生している可能性が高く、警戒レベル5に相当する状況です。最大級の警戒をしてください。

<私の受け止め方>

多くの人が「今回の台風で警戒すべきは(もしかして!)風ではなく雨だ!」と気づいたのは、ここにきてようやくじゃないでしょうか?

でもこれ、台風直撃の当日の午後なんです。しかも、すでにすべての公共交通機関が止まってる。

今頃「雨だ! 川だ! 洪水に注意だ!」と分かっても、逃げられるのは「徒歩で避難できる近くの避難所」だけです。

だから、みんな避難所に押し寄せ、あちこち満員で「避難所に入るのを断られる」人がでたのです。

12日(土)19時
台風第19号の中心は、12日19時前に伊豆半島に上陸しました。

12日(土)20時
茨城県と栃木県にも大雨特別警報を発表し、関東甲信地方の8都県に大雨特別警報を発表しています。


これまでに経験したことのないような記録的な大雨となっており、何らかの災害がすでに発生している可能性が高く、警戒レベル5に相当する状況です。


土砂災害、低い土地や地下施設の浸水、大きな河川を含む河川の増水や氾濫に最大級の警戒をしてください。・

<私の受け止め方>
この時点では予報文も明確に「記録的大雨」にフォーカスしているし、東京では一般の人も、川の決壊を気にしはじめていました。

んが、時間はすでに夜の8時。外は真っ暗です。

多摩川沿いの地域では、大雨の中、びちょぬれで避難所に辿り着いても「満杯」と断られ、スマホ片手に別の避難所に向かう人が続出するカオス状態に。

12日(土)23時
関東甲信地方の8都県に大雨特別警報を発表しています。
これまでに経験したことのないような記録的な大雨で災害がすでに発生しており、警戒レベル5に相当する状況です。


土砂災害、低い土地や地下施設の浸水、大きな河川を含む河川の増水や氾濫に最大級の警戒をし、暴風やうねりを伴った高波に厳重に警戒してください。


土砂災害や浸水、洪水の危険度が極めて高くなっている地域があり、既に土砂災害が発生している所や、千曲川や入間川が氾濫しているなどの災害が発生しており、土砂災害、低い土地や地下施設の浸水、大きな河川を含む河川の増水や氾濫に最大級の警戒をしてください。


関東甲信地方では、降り始めからの総降水量が広い範囲で400ミリを超えており、神奈川県箱根では降り始めからの総降水量が1000ミリを超える、記録的な大雨となっています。

<私の受け止め方>
警告は、雨、そして川の氾濫や土砂災害に関するモノばかり。具体的に氾濫している川の名前も出されています。

そう、今回の台風は「風じゃなかった!」のですよ。。。

★★★

でも私たちには、この時点でさえ、まだわかっていないことがありました。

このとき(少なくとも東京でテレビやネットを見ていた人の)多くは「今回の最大の被災地は多摩川沿いの住宅地」だと感じていました。

なぜならテレビが、川崎で腰までの濁流の中から救出される人の様子や、武蔵小杉のマンションの駐車場が水没したり、世田谷のアンダーパスにプカプカ浮かぶ車の様子を、繰り返し流していたから。

私も「多摩川沿い、めっちゃ大変やん!」と固唾を呑んでテレビを観ていました。


んが、このとき私たちはまったくわかっていませんでした。

本当のメイン被災地がどこなのかを。

★★★

翌朝、13日の朝6時過ぎ、テレビに映されている映像は、衝撃的なものでした。

それは、長野県や福島県などで次々に決壊し、氾濫する一級河川の映像でした。

大量の濁流が田んぼや家を呑み込み、大量の新幹線が水没。

「なにこれ?」って思いました。


「なんで長野で被害がでてるの?」
「東北でこんな被害がでるなんて、予報されてたっけ?」
って感じでした。

★★★

振り返れば、19号の雨の量は尋常じゃありませんでした。関東甲信地方、静岡県、新潟県、東北地方では、各地で3時間、6時間、12時間、24時間の降水量が観測史上1位を更新。

なんと箱根町では、降り始めからの降水量が1,000ミリ超え!

大雨特別警報は、静岡、神奈川、東京、埼玉、群馬、山梨、長野、茨城、栃木、新潟、福島、宮城、岩手と、13都県で発表。これは特別警報の運用開始以来で最多。

阿武隈川や千曲川、信濃川、多摩川など140箇所で堤防が決壊し、浸水家屋は6万戸以上、死者も100名近い惨状です。

★★★

でもさ。。。もう一回、上の予報文を読みなおしてください。

こんな広い範囲で被害がでるという予報、どこで気づくことができてました??

あの予報では、警戒が高まったのは「関東の人」だけだったのでは?


それとも!

福島や長野のテレビ(特に現地に支社もあるNHK)は、現地では(川崎市の洪水の様子ではなく)阿武隈川や千曲川の水位情報を流していたんでしょうか?


「関東にまた台風がやってくる!」と緊張し、カーテンを閉めて窓が割れる事態にまで警戒していた私には、

翌朝のテレビが「なぜ」福島や長野県の河川氾濫、そして洪水を伝えているのか、よくわかりませんでした。


後から聞く説明は「上流域に降った雨が川に流れるから、雨の降った場所と氾濫する場所は異なる」という説明。

でもさ。

福島県の人も長野県の人も「関東の大雨で阿武隈川や千曲川、信濃川が溢れる」とは思わないよね。

彼らの川の上流に、それだけの雨が降るという予報は「十分に」なされていたのでしょうか?

★★★

ため息がでてくるので、振り返りは以上です。

昨年の台風15号と19号は甚大な被害をだしましたが、台風は今年も、そして来年もやってきます。

私たちは過去から何を学ぶべきなのか。

昨日と今日のブログは、その一助になるんじゃないかと思って書きました。

特に、15号と19号で起こったコトをふたつのエントリで対比することにより、

「過去から学ぶべきこと」と

「過去の経験によってバイアスがかかって失敗すること」

の両方を伝えたかった。

★★★

そしてもうひとつ。

熊本地震だったり倉敷の洪水だったり、私には(体験していないから)書けない、多くの大災害が日本では次々と起こっています。

そういった災害の記録を留め、振り返ることができるのは、現地でそれを経験した人だけです。

昔なら「津波はここまで来ました」といった石碑を建てたり、「洪水を記録する資料館」を行政が作ったりするしか、過去の災害を留めておく方法はありませんでした。

でも今は、誰でも自分が経験した災害を、こうやって記録に残しておくことができます。


繰り返します。

私に書けるのは、関東を襲った災害についてだけです。

あなたの街の「忘れてはならない災害」と「そこから得られた貴重な学び」が、どれほど広く共有されるかは、その地にいる「書き手」の方にかかっているのです。


そんじゃーね


15号についての振り返りは下記のエントリをご覧ください。
chikirin.hatenablog.com


もちろん気象庁も、常にこういった振り返りをやっています。
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kentoukai/tsutaekata/part5/tsutaekata5_shiryou_2.pdf


最後に、今回のふたつのエントリを書くにあたっては、ウェザーマップ社の気象予報士、河津さんに(取材、資料提供など)多大なご協力をいただいています。
どうもありがとうございました!
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