上野でやっていたポンペイ展を観てきました。
公的な美術展のチケットとしては強気の 2100円という価格でしたが、十分それに見合うすばらしい展示でした。
いくつか感じたことをまとめておきましょう。
ポンペイは紀元前数世紀あたりから紀元後の 79年まで、現在のイタリア南部に存在した古代都市です。
つまり、紀元前後の文明なわけですが、そこで使われた水道管がこちら ↓
明治時代あたりの水道管かと思いましたよ・・・2000年前にこんな水道管を作ってた(&使ってた)なんてびっくりです。
こちらは調理器具
もしかしてポンペイ人て、たこ焼き食ってたのか? (それともエスカルゴとかマフィン??)
↓
さらには下記、なんだと思います?
これは膣鏡。医療器具です。
えーーーー 紀元前の医療って、どんだけ進んでたの?? ってかんじでしょ。
これで何を調べてたんでしょうね? 妊娠してるかどうか? それとも婦人病? 子宮頸がんとか??
ほんと、技術レベルの高さには驚愕です。
ふたつめに感じたのがコレです。
こんな高度な文明を誇っていたポンペイなのに、実は近くの火山の噴火により、突然に消滅してしまいます。
下記が現在の写真で、向こうに見えるのが噴火したヴェスヴィオ山
今は写真のように遺跡の街並みも掘り出されていますが、79年の噴火時には火砕流と灰で埋め尽くされ、それ以来ずっと地中に埋まっていました。
発見され、発掘が始まったのは 1750年あたりからで、現在でも発掘調査が続いています。
★★★
さて、先ほど示した水道管と膣鏡を思い出してください。
どう考えてもポンペイって「当時の最先端都市」ですよね。
もちろん当時のイタリアには古代ローマという、さらに進んだ都市もありました。
が、ポンペイだって大きく劣っていたわけではありません。
それが、火山の噴火で一夜にして消滅するんです・・・
こちらはポンペイが火砕流に襲われたときの様子を再現したCG。展覧会では動画で観ることができます。
↓
自然ってすごいよね・・・
「そんなこと、現在の先進国には起こらないよ!」って思います?
ほんとに?
南海トラフ地震とか、首都直下型地震とか、富士山や浅間山の噴火とか、日本だって、一夜にして消滅しちゃうかもしれない。
そんなことを思わされた展示でした。
古代都市ポンペイは技術的に先進国であっただけではなく、社会的、文化的にも優れて先進的だったのだとわかりました。
たとえばこちら。ローマ帝国含めイタリアの古代都市では「市民」と「奴隷」が存在したとはよく聞く話ですが、両者の関係がなんだかとっても先進的なんです。
↓
奴隷はお金を払ったり、主人の許可があると解放され、「解放奴隷」になります。
とはいえ解放奴隷は、高い地位に就いたりすることはできない。
ところが、その「解放奴隷の子供」には、市民と同じ権利が与えられ、実際、成功してお金持ちになった「元奴隷の子」とかもいたみたい。
身分制ではあるけれど、逆転のチャンスも与えられてたわけです。
また、当時は男性が圧倒的に優位な社会だったと言われていますが、ポンペイでは、起業家として成功した女性もいたとのことで、
実力があれば、奴隷の子でも女性でも成功できる、比較的民主的な社会だったように思えます。
さらに!
こちらはモザイクによる細密画で、その技巧もすばらしいのですが、なにより描かれているテーマが深い!
真ん中のドクロは「死」の象徴。
ドクロの右側の藁でできたような洋服が「貧乏人」を、左側のドレスが「お金持ち」を表しています。
ふたつの洋服を吊している秤には傾きがなく、両者は「同じ重さ」であることもわかります。
つまり、この絵は「富める者にも、そして貧しき者にも、死は平等に訪れる」というメッセージを表しているんです。
どんだけ深いねん!
ちなみにこのモザイク画、テーブルの天板だったらしいです。
毎日このテーブルにワインを置くたびに、お金持ちたちも「自分たちもいつかは死ぬ。それはお金をいくら持っていても同じだ」と感じていたのでしょう。
実は私、イタリアでポンペイの遺跡を訪れたことがあり、そこでの発掘品が展示されているナポリの考古学博物館にも行ったことがあるんです。
が、当時はそこまで感動したわけではありません。
マチュピチュやティカル、エフェソスやアンコールワット、そしてもちろんローマなど、世界中の遺跡を観てきた私の眼には、ポンペイの遺跡も、「すばらしいけど特別なものではない」感じでした。
なんだけど、今回あらためて「日本での企画展」を鑑賞し、強く「現地訪問に加え、自国での企画展を鑑賞する意義」を実感しました。
もちろん現地には「現地でしか得られないモノ」があります。
空間の拡がり、街の大きさ、空や風も含めた空気感
とはいえ、現地ガイドさんの説明を聞いても「ここはパン屋さんでした」「ここはお金持ちの邸宅でした」みたいな感じで、「これは何か?」がわかるレベルです。
また、遺跡近くにある考古学博物館は、「発掘物が多すぎて展示物過多」になっている場合が多いんです。
このため、2時間くらいかけて鑑賞しても「山ほどある」発掘物を「ふむふむ なるほど こういうモノが使われてたのね」という感じで流し観する形になります。
が、今回のように海外で行われる企画展では、現地から借りてくる品数が限定されるため、「今回の展示に絶対に必要な作品」が絞り込まれています。
しかもそうして厳選された品々は、キュレーターが練りに練って作り上げたストーリーにそって展示され、その説明も母語で丁寧になされています。
このため現地の遺跡や博物館の鑑賞だけではわからなかった深い部分が、よりよく理解できました。
今回の展覧会に限ったことはないのですが、こうした古代遺跡や巨大な建造物などの鑑賞には、ドローンからの映像が極めて効果的です。
マチュピチュにせよ姫路城にせよ、これまでは一般の人が、巨大な遺跡や建造物を「上から全体像として鑑賞する」ことは、できませんでした。
それが、ドローンの出現により可能になった。
今回も、上部から街を一望する圧倒的に迫力のある映像に加え、ドローンが人間の目の高さで富裕層の邸宅遺跡の中を飛び、まるで自分がその邸宅の中を歩いているような気分になれる動画展示もありました。
こんなのは現地でもなかなか得られない視点です。
また、税金が入っているからでもありますが、「予算が潤沢だなー」とも思いました。
イタリアから借りてきた出土品だけでなく、ポンペイにあった邸宅の前庭をほぼ実物大で再現したり、巨大なモザイク画のレプリカを実際に床に再現し、その上を歩かせてくれたり、映像作品を日本側で用意したり、
民間の美術展ではちょっとここまでできないんじゃないかなと思えるレベルでよく準備されていたと思います。
★★★
最近は海外旅行もなかなかできませんが、今回の展覧会を観て、ポンペイに行ってみたいと思った人はけっこういたんじゃないかな。
一度いったことのある私でさえ、もう一度、観てみたいなと思ったくらいです。
このように、「現地訪問と母国での展覧会の組み合わせ」はなんとも贅沢な鑑賞方法だなあと、あらためて感じた1日となりました。