新刊『自分の意見で生きていこう』出版秘話

来週、「これからの世の中を生き抜くために必要な根幹の力」を解説したシリーズの 4巻目が発売されます。


累計 38万部にもなるこのシリーズは、2011年の『自分のアタマで考えよう』から、2015年の『マーケット感覚を身につけよう』、そして『自分の時間を取り戻そう』と、これまで 3冊でていました。

その最終巻が本作!

私がこのシリーズで取り上げてきたのは、
・人生の長期化(このままでは定年は 70歳か 75歳!)
・雇用の不安定化や産業構造の変革
・あらゆる分野における市場化の進展

といった変化の時代を、どう乗り越えていけばいいのか、そのためにはどんなスキルが必要なのか、ということについてでした。


これからの時代に必要なスキルはなにかという話になると、よく挙げられるのは英語力や、財務、もしくはITの知識などです。

もちろん私も、それらが重要でないとは言いません。

でも私には、それらよりさらに根本的なスキルがいくつか存在している、と思えていました。

なのに、それらをきちんと解説した書籍が(私の考える形では)見つからない・・・

だから本にしようと考えたのです。

★★★

実は10年ちょっと前、勤めていた会社を退職し、さて本を書こうという話になったとき、最初に私が伝えたいと思ったスキルは「マーケット感覚」でした。


ところが最初に出たのは、ロジカルシンキングについての下記の本・・・


なぜ順番が変わってしまったのか?

それは「私が書籍の編集者の方に、マーケット感覚の重要性を説明できなかった=納得させられなかったから」です。

★★★

当時の私のプロフィールは、ネット上もふくめ、ほとんど知られていませんでした。

唯一、おぼろげに伝わっていたのは「金融業界で働いていたらしい」というぼんやりとした情報だけです。

このため、「マーケット感覚について書きたい」という私の言葉は、「投資に関する本を書きたい」という意味に解されてしまいました。


編集者の方は熱心な「Chikirinの日記」の読者でした。

ちきりんブログの価値、そこに展開される「ちきりん」の洞察や視線のもちかたを非常に高く評価してくださっていたんです。

しかし「Chikirinの日記」には、投資に関する記事はほとんどありません。

だから編集者の方はこう言われました。

「マーケットの本では、ちきりんさんの本当の価値が伝わらない。

そうではなく、ブログに展開されている洞察を生み出す根幹の力となっている「ちきりんさんの思考方法」についての本を書くべきです」と。

★★★

私から見ると、「Chikirinの日記」の価値を生み出しているのは、書き手の私がもつ「論理思考」と「マーケット感覚」のバランスでした。

論理思考に長けた学者はたくさんいる。

マーケット感覚に優れた企業家もたくさんいる

でも、その両方をバランス良く持っている人が少ない。

だから(そのふたつをバランス良くもつ私のブログが)ウケているんだと、考えていたのです。

そして、こうも考えました。

論理思考の本はたくさん出ている。でも、マーケット感覚の本はほとんど存在しない。

だからマーケット感覚の本を書きたい!

★★★

でも、この感覚は編集者の方に伝わりませんでした。

彼の理解力が低いせいではありません。

私自身、マーケット感覚とは何なのか、しっかり伝わるように説明することができなかったんです。

こうして最初の本は、思考法を解説した『自分のアタマで考えよう』となりました。


でも!

今から振り返れば、最初にこっちを出したのは大成功だったと思います。

なぜならこの本は出版して数ヶ月で、10万部の売上を記録したからです。


当時ほとんど無名の著者であった「ちきりん」などという妙な名前の著者の本が 10万部も売れた!

そのことによって、書籍出版マーケットにおける「ちきりん」と担当編集者の方の目利き力に対する評価は一気に高まりました。

こうして私は「自分が書きたい本を書く」という権利を手に入れたのです。

★★★

その後、シリーズ 2冊目の企画について話すとき、「マーケットについて書きたい!」と再び伝えた私のリクエストは、(前回とは異なり!)そのまま通ることになりました。

この著者とこの編集者のコンビなら、なんであれ売れるだろう、だったら好きなトピックで書けばいい。

出版社の企画部門も営業部門も、そう考えてくれるようになっていたから。


とはいえ、この段階でもまだ編集者の方は「マーケットの本っていうのは、おそらく投資の本なんだろうな」と考えてらしたんじゃないかな。

それでも「ちきりん」の本なら、それなりに売れるはずだから問題ない、という判断だったんだろうと思います。

彼が「なるほど、これがマーケット感覚か!」と理解したのは、多くの読者が本を読む数ヶ月ほど前、あらかたできあがった原稿を読まれたときだと思います。


何はともあれ、こうして『マーケット感覚を身につけよう』はようやく世に出ました。


しかしこの本は(今は 10万部以上売れていますが)、出版してすぐのタイミングでは 6万部ほどにとどまっていました。

これはけっこうショックでした。

「みんな、なんでマーケット感覚の重要性がわからないんだ!??」

と悲しくなったんです。論理的な思考方法とまったく同じ重要さなのに、なんで売上がこんなに違うの?と。


『マーケット感覚を身につけよう』が 10万部を超えたのは、発売から 5年もたった 2020年の 12月でした。

なぜ 5年もたってから再び売れ始めたのか?

それはこの本に書かれていた「ANAなど飛行機会社のライバルはLCCなど他の飛行機会社だけではない。感染症が流行ったり技術が進めば、オンライン会議システムも飛行機会社の強力なライバルになる」という文章が、

新型コロナの感染拡大に伴い飛行機会社が大打撃を受けるなか、ZOOMをはじめとしたオンライン会議システムが急速に普及した2020年の12月という時期に、衝撃を与えたからです。

「5年前に書かれた本にこんなことが書いてある!」

そう驚かれた方の感想がSNSでシェアされ、2冊目の『マーケット感覚を身につけよう』も、無事 10万部を達成しました。


2015年でさえ早すぎたマーケット感覚の本。

もしこれを2011年、『自分のアタマで考えよう』の代わりに出していたら、あまりに早すぎて、まったく売れなかったかもしれない。

だとすれば私は、今のような「自由に好きな本を出せる書き手」という立場を手に入れることが、できなかったかもしれないのです。

★★★

そして 3冊目。

最初の 2冊で実績を上げ、「自由に本を出せる立場」を獲得した私はその立場をフル活用しました。

このとき私がしかけた”悪戯”については、下記のVOICYで詳しく話しています。(有料配信のため、お聴きになるには 2020年10月分のプレミアムリスナー権利が必要です。ブラウザからの購入であれば10月分をすべて聴く権利が1100円となります)

voicy.jp

出版社はもちろん、多くの大型書店さんを巻き込んだこのイタズラは大成功を収めます。

これは、ほんとーーーーに楽しかったですね。

私の個人情報を暴こうと必死になる人が多ければ多いほど、売上が上がるのですから。

いまでも、快くご協力いただいた編集者さん 2名、そして、ダイヤモンド社の営業担当の方、さらには書店の方には大感謝をしています。

★★★

そして!

いよいよ私は編集者の方に「意見」に関する本を出したいと伝えました。

いまから 4年も前のことになります。

その時点では編集者の方も、いったいどんな本なのか、まったくイメージが湧いてなかったと思います。

「人生には正解のない問題がある!」とスタバで力説する私の説明を聴いた編集者の方は、当初、「哲学の本かな?」と思われていたそうです。


つまり企画の段階でこれがどんな本になるのか、そのイメージが存在しているのは、私の頭の中だけでした。

これは「マーケット感覚に関する本を書きたい!」と伝えた 2010年とまったく同じです。

類書のない新しいテーマについて書きたい! と思ったとき、その具体的な内容を(原稿を書き始める前に)伝えるのは容易ではありません。


でも初めて編集者の方と話した時と今回では、大きな違いもありました。

すでに「ちきりん」は、「実績のないブロガー」ではなく、「きちんと売れる本を書ける著者」となっており、

担当者の方も「新人編集者」ではなく、「連続して大きなヒット作を生み出せる敏腕編集者」になっていたからです。


私が書きたいと言ったテーマなら、なんであれおもしろいはず、と編集者の方は信頼してくださっていたし、

この著者とこの編集者なら、出して間違いという本には絶対ならない、と出版社の営業部門も書店の皆さんも考えてくださいました。

こうして、4巻目が出来上がったのです。


この 10年で私が理解したこと。

それは、会社員としての仕事も、著者としての仕事も同じだということです。

「やりたいことをやれる自由度を手に入れたいなら、まずは実績を示さねばならない」


『自分のアタマで考えよう』で実績を作ったから、当時は誰も理解できなかった『マーケット感覚についての本』を出すことができました。

そして、それらの本で実績を作ってきたから、今回の本も世に出せたのです。

★★★

マーケット感覚の本も今回の本も、編集者の方が私の言いたいコトを理解してくださったのは、原稿の骨格の大半ができあがった後だと思います。

なぜならこの2冊は、世の中でまだ広く言語化されていない、新しいコンセプトに関する本だからです。

長年一緒に仕事をしている編集者の方にでさえ、何度も会って、何時間も話したけれど、私が何を伝えたいと思っているのか、それは、原稿(ゲラ)という文字を通してしか伝えることができなかったのです。

そしてこれが、私がこのテーマについて(ブログや音声配信で説明するだけでなく)、書籍を書こうと決めた理由でもあります。


いうまでもなくこの編集者の方の理解力は、平均よりは間違いなく高いと思います。

私という人間やその考え方についての理解も、とても深いはず。

それでも口頭の説明だけでは「ちきりんは一体、何を書きたいのか?」が伝わらない。

ところが、そんな複雑な(というか新規な)概念でも、書籍という 10万字を超える文章にすれば伝えられる。


これは、今回の本だけではありません。

このシリーズの 4部作で取り上げたテーマはどれも、数千字のブログや、10分の VOICY (音声配信)で伝えられるレベルのことではありません。

しっかり読み込んでいただくことはもちろん、おそらく何度も読み返していただき、手元において、日常のさまざまな場面でそれらを適用できないか実践していただく。

そういう使い方をしていただかないと、身につかない、伝えられないくらい重要かつ深いコンセプトについて書かれています。

だからこそ「これからの世の中を生き抜くための、根幹の力を解説した」と銘打てているのです。

      

※上記画像はすべてアマゾンへのリンク。楽天派の方は「楽天ブックス:ちきりん本の一覧ページ」からどうぞ!


4冊目の本も、『マーケット感覚を身につけよう』と同様、その価値を理解されるまでに時間がかかるかもしれません。

でも私にはなんの不安もありません。

時代はかならず追いついてくるから。


新型コロナ感染の拡大で出版予定が 1年遅れたときも、なにも心配しませんでした。

出版タイミングが 1年くらい遅れても、この内容が時代遅れになるなんてありえない。

そう確信できていたから。


「過去の 3冊に、まだ読んでない本がある」という方、新刊の発売日までまだ 10日ほどありますので、よろしければぜひ、他の本も読んでみてください。

そこにはブログや音声配信とはまったく異なるクオリティで、「ちきりんのアタマの中」が開示されているはずです。

★★★

最後に!

これらの本を世に出せて、私は本当に幸せです。

すべての読者の方に、心からの感謝を込めて叫びたい。

ほんとーーーーにありがとう!!!



そんじゃーね

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/