経営者や役者さんなど様々な分野で一流の成果を残した方がご自身のキャリアを振り返って書かれている回想録などを読むと、「鶏口牛後」の大切さを感じることがよくあります。
「若い頃、希望していたキャリアは得られず、全く異なる道を進むことになった。」とか、「当時はお荷物とされていた部門に配属になった。」などと振り返る人が少なくないからです。
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世の中には、いい仕事をしながら成長を続ける20〜30代の人はたくさんいますが、40〜50代に入るとそういった人は大きく減ってしまいます。大企業に入っても、経営者になるのはごく一部だからです。
経営者になれない人も終身雇用下では定年までずっとなんらか仕事を割り当てられますが、必ずしもやりがいを感じられる仕事とは限りません。
じゃあ、それが不満で会社を辞められるかといえば、給与は仕事の対価ではなく「その組織に所属していた期間」に比例しているため、「転職したら、年収は半分」ということもあり、容易には動けません。
このため40代半ばで仕事へのモチベーションを失い、“流す仕事”を始めたり、「仕事より家庭が大事だと気がついた」と言い出す人が現われます。
一方、40〜50代で「お〜、輝いてますね!」という働きをしている人が若い頃からずっと王道を歩いてきたのか、というとそうでもありません。
全然勉強していなくて留年したとか、三流大学生だったなどの理由で、さらには、家庭の事情や何らかの就職差別のために、意に沿わない仕事につかざるをえなかった人もいます。
ところがそういう人の中には、環境の整った大組織に入れず、それがために寧ろ、若い時から歯車のひとつとしてではなく、「リーダー」として仕事をすることになる人もいます。恵まれていなかったからこそ、「鶏口」として仕事をする機会を得るのです。
そして鶏口の立場で必死で働くと、(ライバルの少なさもあって)若くても「お前が一番前を走ってみろ」といわれ、それに努力と能力で応えることができると、どんどんおもしろい世界が拡がっていった。そういうパターンの人も世の中には結構いるのです。
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ところで、大注目のインド市場において、日本のスズキはトップの自動車会社です。
あんな混沌とした国に大企業は早くから進出しません。リスクは大きいし、商習慣もわけわかんない。でもスズキにとっては、トヨタやホンダが注力する日米欧ではトップにはなれないし、中国でさえそれらの一流企業が早くから目を付けています。
「トップになれる市場」を確保するためには、他の一流企業がとらないリスクをとるしかありません。そのため早期にインドに進出し、苦境にもめげず頑張り続けてトップになったというわけです。
このように、企業においても「トップ企業ではないからこそ、リスクをとらざるを得なかった。そして成功した。」という場合があります。
つまり、「一流企業に、他の一流大学生と共に入社」すると、「リスクをとらない企業」×「歯車としての自分」という掛け算の仕事になるのにたいして、
「三番手企業に、少ない人員の一人として入る」と、「リスクをとらざるを得ない企業」×「前に立たざるを得ない自分」という組み合わせになり、この差が、20年たった時にでてくるのです。
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最近オフィス街では、就職活動中と思われる学生とよくすれちがいます。今年は景気回復で売り手市場になりつつあり、多くの学生が「憧れの一流企業」を目指しているとのこと。
でも、景気回復で大量採用を再開する大企業に「何百人かの一人」として入社しても、大半の人は一生「牛後」のままです。しかもその「憧れの大企業」自体、大企業であるが故にリスクをとる必要がなく、チャレンジングな仕事より「書類を右から左に動かす」仕事が多くなりがちです。
ちきりんは時々、「就職活動なんて、ぼーっとしてればいいんじゃないか」と思います。出遅れて、いくところがなくて、「なんとなく、ここに入りました」という感じでもいいと思うのです。どこに入るかより、入ってから頑張れるかどうかの方が重要でしょう。
最近は「就職浪人」までする学生もいると聞きます。親も「納得いくまで就職活動をすればいい。」と、進学や留学の費用を出してくれることもあるとか。
まじ?、と思います。たかだか学生の頭で考えた「この企業に入らねば、将来はない。」などという思いこみのために、20代の1年間を浪費するなんて余りに馬鹿げています。
「周囲から“すげ〜”と言われるような人気企業」に内定をもらっても、その企業の中で自分に「鶏口」のチャンスが回ってくる可能性はほとんどありません。寧ろ、「なんで、そんなとこにいくの?」と言われる企業に入って鶏口のチャンスをつかむ方が、よほどリターンは高いでしょう。
キャリアというのは、「牛後」で始めると一生「牛後」になってしまいます。だから若い時こそ、鶏口を狙える場所を選ぶことがとても大事なのです。
若者よ、鶏口を目指せ!
ではでは〜