ロシア旅行、最後に。

さて、ロシア旅行記。最後に旅行中に感じた点をまとめときます。


(1) 日本食ブーム

ボルシチ、ピロシキ、サワークリームにクレープ(パンケーキかな?)、ロシア料理はどれも、まあねえ、、って感じです。

ロシアに限らず寒いところのご飯は(基本が保存食なので)美味しくないよね。

ところでロシアは今、ものすごい日本食ブームで、日本食レストランがあちこちにあります。

ファーストフードのお寿司も多い。テレビでは女優が美しさの理由を聞かれて「日本食を食べるようにしてるから」などと回答しており、ロシア人の憧れの食事になっているみたいです。

日本食を食べてみたら案外普通の日本の味で、「へえ、これを美味しいと思うんだ」とちょっと意外でした。もっとローカライズされているのかと思っていましたよ。

しかし最近こういうことが余り喜べないちきりんです。彼らが寿司をガンガン食べるようになったらホントに生で食べられる魚が高騰するよね。


(2) ロシア・ブラジルのチャレンジは「正当な分配システム」の構築と運用。

今年はBRICSのうちブラジルとロシアを旅行したわけですが、両方とも「どーだかな〜」って感じです。

昔、中国やタイランド、ベトナムなどを訪れた際は「この国はこれからどんどん豊かになるな」と思えました。

でも、ロシアとかブラジルは違うんだよね。

というのも、前者は日本と同じパターンの成長可能性なんだけど、後者は違うパターンだからわかりにくい。

日本と同じパターンってのは、教育に投資して勤勉で安価な労働力で外貨を稼ぎ、規範性の高い社会を作り上げて、社会安定化コストを下げる、で、投資を誘発するっていう方法です。

ロシアやブラジルはちょっと違う。

まず第一に経済の成長誘因は資源です。石油、天然ガス、森林そのもの。高品質・低価格の労働力ではなく、価格が高騰している世界市況商品の保有量で勝負する。

それと人間の数。ひとつの言葉を話す人が2億人規模で存在する。

ポイントは彼ら一般国民に「正しい分配機構」ができるかどうか、でしょう。


だいたい天然資源系の豊かな国は、国全体としては発展しない。石油のでる中東の国や中南米、南米の国の多くがそのパターンです。

資源は国家独占になりやすい。石油採掘権とか、「巨額の投資が必要な権益ビジネス」なんで、国家とそれに癒着した一部の資本家(外国資本を含む)だけが儲けて、下の人にお金が回らない。

全然人手もかからないし、人手が掛かっても「炭坑で掘り出す」みたいな人手しかかからないから、労働付加価値の上昇が起こりえない。つまり一般の人の所得が伸びない。

なので、国全体としてはそこそこお金が入るのだが、国民はずっとまずしい、というのが、こういう「天然資源がある国」の今までの典型的なパターンだった。

でも「正しい分配機構」が働くと、違う結論がありえる。

すなわち、天然資源で手に入れた国家資金をもってインフラを整え、教育水準を向上させ、別の高付加価値産業を育成することができれば、国民全体に富を生み出す力を養成できる。

でも資源のある国でこれに成功してる国ってないんだよね。

いままでは、資源のない国は、「資源がないから、仕方なく国民(労働者)に投資し、それによって国が発展する」という道、

一方で資源がある国は「資源があるから、それに頼って、他のところに投資せず、ずっと資源しかないまま」という道ばっかりだ。

さて、どーなるやら。


(3) 視座の違い。

54才のガイドさんが言っていた。「僕は共産主義時代の人間。だから歴史はよくわからない。世界のことも知らない。宣伝教育で育ったから」と。

「それがいいのだと思って共産党にも入っていた。そしたら兵役にも行かされてひどい目にあった。」って。

「共産党時代はモノは一応あったけど、どこもかしこもスゴイ長い行列で買うのが大変だった。

ゴルビーは共産党を倒したのはすばらしいが、経済のことは全く考えてなかったからモノがなくなっちゃった。

エリツィンなんて、何をやりたいのかわからないくらい混乱していて、あの頃は本当に食べ物が足りなくて大変だった。」と。

こういうビビッドな話を聞けるのは本当におもしろかった。


彼はそこそこの日本語が話せるのに、好景気に沸くロシアとはちょっと一線を引くようなみすぼらしい出で立ちをしていた。

日本でも、武士の世界から明治時代、戦前から前後などの、価値観大転換期には、こういう「ついていけない人達」が沢山存在しただろう。

このガイドさんは他にも、非常にクリアな視点も示してくれて感謝している。

北方領土について聞くと、「ロシアは大きい国。あんな寒いところにある小さな島はどうでもいい。でも、日本に返したら翌年にはアメリカの基地になってるでしょ。だから返さないだけ」

そうね、その通りだ。

こんなに簡単なことを今まで理解していなかった。


「日本がなぜ北方領土にこだわっているのか?」余り突き詰めて考えてこなかった。単なるウヨッキーな理由だけだと思っていたよ。でも今回、上記の意見を聞いて、そりゃそーだ、と思った。

そう考えると、北方領土が返ってくる可能性があったのは、エリツィン時代だけだとわかる。

東西冷戦が終わり、ロシアがお金的にすごい困っていた時期。あの時期に交渉していたら(実際、交渉は結構進んでいた)返ってきたかもしれない。

でも日本国内の中国派、ロシア派、アメリカ派の官僚=外交官と政治家がお互いの足を引っ張ったため、交渉が決裂してしまった。

東西冷戦が再発し、お金に全く困らなくなったロシアから北方領土を取り返すのはもう不可能でしょう。

同時にイラク戦争以来の米軍再編の方針から言うと、あそこに基地もしくはミサイルを置きたいというアメリカ側のニーズの方も、大きく下がっている。

結論!

北方領土はまず返ってこない。


それ以外にもこのガイドさんと話していると、すごく「異なる視点」を感じられて勉強になった。

全く異なる教育、全く異なる制度の中で生きてきた人と話をするのは、かくも意義深いことだと再認識。似たような人の中にいてはあかん。

彼の年齢 54才というのは、ソビエト崩壊の 1991年に 38才。

きついよねえ、38才で国の体制が 180度変わってしまったら・・・・ついてくの、本当に大変だと思います。頑張ってください。


というわけで、今回の旅行はほんとにおもしろかった。


んじゃね!