ロマノフ至宝:エルミタージュ美術館

最近のロシア観光ブームを支えるのがエルミタージュ美術館を中心としたロマノフ系の観光遺産です。4年前に「琥珀の間」が修復されたエカテリーナ宮殿など近郊のお城(宮殿)も大人気。前売りで予約チケットを買っておかないと入場できないという騒ぎになってます。

こういう「昔の王侯貴族の至宝・宮殿」系が好きな人が訪れる観光地の順番といえば、「パリのベルサイユ→オーストリアのハプスブルグ系遺産→モスクワのロマノフ系遺産」かなあと思います。というわけで、いろんな「昔の王侯貴族の至宝・宮殿系」を比較して思ったことなど、つらつらと書いてみます。


(1)「革命が起こる国は無茶やってる」

戦争で没落したハプスブルク家、列強によってつぶされた清朝を除くと、パリのブルボン家とロシアのロマノフ王朝は「革命」によって消滅しました。フランスは住民の蜂起によって共和制へ移行し、ロマノフ朝は共産革命で消滅したのはご存じのとおり。

一方で英国王室は存続しているし、日本の天皇家も存続しています。イギリスと日本では、共和制革命も共産革命も起こりませんでした。

この「なぜ?」に答えるのは非常に難しくあまり単純化したくはないのですが、でもやっぱり遺されたものを見比べると強く思うことがあります。それは、革命が起こった場所の宮殿や遺産を見ると「明らかに無茶苦茶な搾取をしてる」ということ。

明治期でも昭和の戦争前でも、もっとずうっと昔であろうと、日本の天皇家があんなレベルの富を一時期でも所有していたとは全く思えません。京都御所も江戸城(今の御所)も“万世一系”の神の一家の住まいとしては、あまりにリーズナブルです。

これはイギリスのお城も同じ。エリザベス女王よりベッカム夫妻の方がすばらしい宮殿に住んでます。

ちきりん的には、「無茶やってる順」にならべると、

ハプスブルグ家>ロマノフ家>清朝>ブルボン家>>>>>英国王室>>>>>>>>>>>>>>>>日本の天皇家

って感じですね。


(2)宮殿を美術館にするのに反対する会を(一人で)結成します。

たとえばルーブル美術館はもともと宮殿です。このようにもともと宮殿であったところが博物館や美術館として使われるのはよくあります。プラド美術館もそうですね。

もちろんNYのメトロポリタン美術館のように最初からその目的で設計、建設されたものもあります。今の大英博物館の建物も最初からその目的での建物です。

で、最初の例が増えているのです。たとえば昔はベルサイユ宮殿は「ベルサイユ宮殿」として開示されていました。つまりルイ14世とかマリーアントワネットの住まいとして開示されていたのです。が、最近はそこに絵画や美術品が展示され、「ベルサイユ美術館」に作り直されているのです。

あの頃の宮殿は本当に立派な建物が多い。博物館や美術館を作りたい!と思った時に、用地から新たに取得し建物を建てるのはどの国にとっても大変。で、ちょっと横をみればそこにはすばらしいお屋敷が・・・これを使って展示しよう!となるわけです。一石二鳥ですよね。宮殿の維持管理もできるし、観光客からも高い金がとれる。


でもね、想像してみてください。京都御所の各部屋に、水墨画、中国絵画、韓国絵画、インドネシアの民族衣装、そして、縄文土器、とかが展示されてるってな状況を・・・・どれくらい違和感あることか、わかりますよね。

超変だよ。辞めてくれ!って思います。


今回はちきりんはツアーではありませんでしたが、日本からのツアーだとエルミタージュ美術館を2時間程度しか訪問しません。有名な絵を次々とガイドが説明して回ります。こちらがダビンチです、こちらがマチスです。

そんなもん見たいか?わざわざロシアまで行って?? パリやローマでも見られますよね。それよりは、ロシアまで来たのだから、ロマノフの王朝の生活に、時代に、思いを馳せたいと思わない??

って思います。


トルコのドルマバフチェ宮殿(イスタンブールにある宮殿。日本ではトプカプ宮殿の方がやたらと有名ですが、どっちかしか見ないなら圧倒的にドルマバフチェの方がすばらしいです。)は、オスマントルコの王が使った宮殿に、王の一族が持っていたものが飾ってある。その方がいいと思う。なんの関係もない名画を飾るより。

前も書いたけど、台湾と中国が一緒になる日がくるとしたら、最大のメリットは、故宮に台湾国立博物館の所蔵品を展示できる日がくるかもしれないことだ。ウイーン美術史美術館もそう。あの街に、ハプスブルク家の財宝を飾るから意味がある。


頼むから、「奈良の大仏殿にロゼッタストーン」みたいなわけのわからん宮殿美術館を作るのはもうやめてくれ。

の会を作ることにしたよ。

★★★

(3)やっぱここでも「コンテンツよりプレゼン」

上に書いたように、エルミタージュ美術館にはロマノフ時代の貴族が買い集めたピカソやマチスやダビンチの有名絵画が何点もある。

有名な絵の前には観光客が大勢集まっているのだけど、ちきりんはそういう絵を見てもあんまし感動しなかった。だって「ロマノフの王朝」に気持ちを馳せながらダビンチの世界を夢想できるほど、ちきりんの感性は器用でも粗野でもない。

それと、もう一つの理由は「余りにプレゼンが下手なため、コンテンツが殺されてしまっている」ということ。痛感しましたよ。NYやパリやに比べて「美術館のスキルが低すぎる」って。ほんとーまだまだだよね。(下記の過去エントリ参照)


もうひとりの「がっくり」は、絵画の前でガイドさんが説明する内容です。「この美術館はマチスを34点保有しており・・・」この手の「○○の作品を何枚」という説明は、すべての有名画家について繰り返される。ガイドさんのために、そういうマニュアルがあるんでしょう。

でもさ、そんなん、どーでもよくない???

マチスの絵画の保有枚数が意味するのは、それを収集した貴族の財力と目利き力であって、マチスの絵のすばらしさではない。こういうことを聞いていると、エルミタージュ美術館が、そしてロシアの芸術関係者が「何を誇りたいか」ということが非常によくわかる。


長くなったのでもーやめます・・

というわけで、本日はロマノフの遺産のうち、エルミタージュ美術館について書きました。適当、かつ、長文にて申し訳ないです。


そんじゃーね。



★★★

関係過去エントリ:美術館のスキルと成り立ち種別について
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20061101
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20061102