テレビキャスターや舛添親分が怒っています。「正当な理由なき内定取り消しは決して許すまじ。断固として戦うべきだ!」と。で、内定取り消しを受けた学生さんからは下記のような相談が寄せられています。さて皆さんならどう回答されるでしょう。
各質問者はすべて、来年の4月に入社するはずだった会社から内定取り消しの連絡を受けた学生さんです。その他の個別の事情は下記にてそれぞれから直接お聞きください。
質問者1:「会社から内定取り消しの連絡があったのが先月の1日。そして今月の始めにこの会社は民事再生法の適用を申請しました。でも民事再生法って再生計画が認められれば会社は存続するんですよね?解散とは違うでしょう?だったら、僕はその再生企業に入社を認められるべきですよね?これは“正当な理由のない内定取り消し”ですよね?それともまさかこれは“正当な理由のある内定取り消し”なんですか?」
質問者2:「会社から内定取り消しの連絡があったのが先月の1日。そして今月のはじめにこの会社は大規模な早期退職者募集を始めると発表しています。40才以上の社員の2割の人に退職してもらうらしいです。でもだからといって内定取り消しはおかしいですよね?だって早期退職者は40才以上なんでしょ。僕は23才でこれから入社するんだから、その年齢に達してないわけで。
会社側は40才以上の早期退職者を3割に拡大してでも、内定の取り消しをせずに僕たちを入社させるべきですよね?」
質問者3:「会社から内定取り消しの連絡があったのが先月の1日。そして今月のはじめにこの会社は、派遣社員の7割について今の契約終了後は契約更新をしない、と発表しています。5年以上とかもっと長く働いていた契約社員の人もいるそうで、それはそれで問題だとは思うんですけど。
でも、だからといって僕の内定取り消しは変ですよね?だって僕は正社員として内定したんですよ。だから契約社員を3割残す余裕があるなら、その人達を全員契約解除して、代わりに僕たちを入社させるべきですよね?
企業は“内定取り消し”なんかやる際には、その前に打てる手を全部打たないとだめだ、って聞いたことがあるんですけど。だったらまずは派遣の人なんか全部切るべきであって、それもせずに内定取り消しなんてありえないですよね?」
質問者4:「会社から内定取り消しの連絡があったのが先月の1日。そして今月のはじめにこの会社は、経営者のボーナスは全額返還、管理職のボーナスも5割削減と発表しました。たしかにここまで大きな削減をするのには驚きました。
でもだからといって僕たちの内定取り消しは変ですよね?管理職のボーナスも5割じゃなくて全部なくすとか、もしくは一般社員のボーナスも5割削減して、僕たちの給与を払う余地を捻出すべきですよね?これは“正当な理由のない内定取り消し”ですよね。それともまさかこれは“正当な理由のある内定取り消し”なんですか?」
質問者5:「会社から内定取り消しの連絡があったのが先月の1日。そして今月のはじめにこの会社は、別の会社に吸収合併されることになりました。単独では銀行融資が受けられなくて資金繰りが行き詰まったみたいです。
でもだからといって僕たちの内定取り消しは変ですよね?会社は吸収されても、僕たちとの雇用契約は残りますよね!?救済したほうの会社は既存社員だけでなく、僕たち内定者も救済する“義務”がありますよね?
内定先を買収したその企業の方は今年も結構利益がでているらしくて、この冬のボーナスも例年通りだそうなんです。だったらそのボーナスをカットすれば僕たちの給与くらい払えるはず。もちろん救済してくれた会社の社員にボーナスカットしろっていうのは少し申し訳ない気もしますけど・・
これは“不当な内定取り消し”でしょ?それともまさかこれは“正当な理由のある内定取り消し”なんですか?」」
質問者6:「僕は薬学部の博士課程を出た研究者です。研究職として研究所への配属を前提に内定をもらっていました。会社から内定取り消しの連絡があったのが先月の1日。そして今月のはじめにこの会社は、研究所を閉めることを発表しました。今、研究所で働いている人は全員解雇されるそうです。会社はこれからは他社が開発した製品の製造と販売だけを行う会社になるそうです。
でもだからといって僕たちの内定取り消しは変ですよね?研究職といっても、研究所への配属が前提だったと言っても、内定書類には会社名だけが書いてあって、職種も配属先名も特定されてないんです。研究所はなくなるけど会社は残るわけだから、僕たちとの雇用契約は残りますよね!?これは“不当な内定取り消し”でしょ?それともまさかこれは“正当な内定取り消し”なんですか?」」
「正当な理由のない内定取り消しには断固として抗議すべきだ」とか「泣き寝入りするな」とか言うのは簡単なこと。でもみんな「何が正当な内定取り消し事由」で「何が正当でない内定取り消し事由なのか」ちゃんと理解しているのかしらん。というかそもそも、何が正当な理由か、について社会的な合意があるのかしらん。と思った。「どういう場合なら、内定取り消しもやむを得ない」という正当性が与えられるんだろう。
だって、どの会社も大枚はたいて新卒採用をやったわけです。中小企業や新興の不動産会社にとって学生を採用して内定してフォローするのって簡単なことじゃない。手間も経費もそれなりにかかっているはず。何の問題もないのに取り消しなんてしないです。
そういうことするには“それなり”の理由があるはずだよね。問題はその理由が「正当」と言えるか「不当」な範囲か、という点。その判断こそが難しいところなはず。
でも「正当な理由とは具体的になにか」について、テレビも新聞も報道しているのを見ないでしょ。なんでだろ?「報道する価値もないくらい自明、簡単なこと」だからだろうか。みんなわかってるから、なんだろうか。
★★★
実際には内定取り消しになった学生さんの多くが再度就職活動をやりなおし、そうするとおそらく2010年4月の入社で仕事を探すということになるのだと思う。今年の就職戦線は昨年よりは大変で苦労も多いと思う。でもまあ「一度は内定をもらえた」のだから、自信もってもう一度頑張ってほしいよね。
それと、そのことで生じた1年間の追加的な期間を是非有効に使ってほしいと思います。その一年をどう使うかで、今回の経験を奇貨とできるか悪夢として残すことになるか分かれると思う。
「正当な理由のない内定取り消しとは断固として戦え!」とアドバイス?するのもひとつの方法だろうが、「次の一年間、就職までの期間がのびて大学に残ることになるなら、その期間の学費は免除する。国がもつ。」くらいのことを大学とか文部省とかは言ったらどうさ、とも思う。シュプレヒコールより実務的な支援の方がありがたいだよ。
頑張ってほしいっす。
そんじゃーね。