ちきお「ねえねえ、ちきりん」
ちきりん「なに?」
ちきお「聞きたいことがあるんだ。ちきりんの書いてることでよくわかんないことがあって、僕ちょっと混乱してて・・」
ちきりん「偉いね。ちきりんの言うこと理解しようだなんて。案外やる気あるじゃん。なに?」
ちきお「ちきりんはさあ、この円高が日本を救う!(かも)っていうエントリの後半で「内需創造が必要」って書いてるでしょ?」
ちきりん「外需頼みの経済体制を転換するチャンスだって書いたよね。」
ちきお「今までの日本は特定産業が輸出にすごく強くて、だから日本は外需に依存してまともに内需を作り出す努力してなかったけど、もう逃げられないよ、いよいよ日本も内需創造に真剣に取り組まざるを得ないよ。で、それっていいことじゃん、っていうエントリだよね。」
ちきりん「そう。よくわかってんじゃん。いったい何がわかんないの?」
ちきお「ん〜、ええっと、あのね、たとえば危機の中にある“日本経済再生への糸口”を読むとね、“国内産業をぶっつぶせ!”くらいに思えちゃって、ええっ、でもそれじゃあ内需なんてなくなっちゃうじゃん、って思えたんだ。」
ちきりん「ああ、なるほど」
ちきお「それって矛盾してない?前のエントリと。つまりさ。ちきりんが今の経済危機に際して“何が必要だ”と言ってるののかってのがわからなくなってきちゃって。」
ちきりん「あ〜ん、なるほど」
ちきお「そこんとこ説明してもらっていい? ・・ダメ?忙しい??」
ちきりん「もちろん説明するよ。まずね。日本経済は“ふたつの問題”を抱えてるってことを理解してね。これが第一歩なの。」
ちきお「ふたつの問題?」
ちきりん「そう。ふたつってなんだと思う?」
ちきお「ええっとひとつはもちろんサブプライムから波及した世界の金融危機、それに伴う世界大不況、世界で需要が半分になるような急激な市場縮小、信用縮小のことだよね」
ちきりん「そのとおり。すごいね、ちきお。じゃあ、もうひとつは?」
ちきお「えっ、もうひとつ?」
ちきりん「そう。もうひとつの日本経済の大問題はなんだと思う?サブプライムの問題が起こる前って日本経済には何の問題もなかったっけ?今回の危機の前から問題だったことがたくさんあるでしょ。思い出してみて。」
ちきお「ああ、確かに今回の危機の前でも問題はいろいろあったよね。ええっと・・、ずっとデフレで成長率も低くて、でも食料やエネルギーは高騰してて、人口は減ってて、年金問題があって、みんな将来が不安でお金使わなくて、でも官は肥大化してて無駄なお金つかってて・・・」
ちきりん「わかったわかった。いろいろあるのはいいけど、大きくまとめれば何が問題だったの?ちょっとは考えてから話しなよ。」
ちきお「あわわわ。はい。ええっと・・・」(ノートに何か書いてみたりする。5分経過)
ちきお「僕の考えでいい?」
ちきりん「当たり前でしょ。他に誰の考えを言うのよ??」
ちきお「あっ、そっ、そーだよね。・・・(汗)・・・ええっと、大きな問題は3つです!」
ちきりん「はっ?あんたコンサル?」
ちきお「えっ、違うけど・・。3つって変?」
ちきりん「いいよ。中身によるから。言ってみな。」
ちきお「ええっと、ひとつめ。ちきりんのいう特定の産業以外の生産性がすごく低くて国際競争力がなかったこと。」
ちきりん「そうだね。それから」
ちきお「少子化の進行と社会福祉にたいする不信感から将来不安が起こって、んで、消費が押さえ込まれ個人金融資産が全然流動化しないこと」
ちきりん「なるほど。最後は?」
ちきお「規制当局と既得権益者がつるんで、新規参入者、新しい産業や市場、そして起業家の成長を阻害していること。この3つが構造問題! どう?・・・どうかな?」
ちきりん「結構上手くまとめたじゃん。」
ちきお「えっ、ほんと? へへへ」
★★★
ちきりん「じゃあ“日本にはふたつの異なる問題がある”ってことがわかったところで次ね。この2つの問題は“それぞれ必要な対策が違う”んだよね。今度はそれを考えてみて。」
ちきお「うんうん、ええっと。」
ちきりん「まず最初の世界同時不況、市場縮小問題にはどんな対策が必要だとちきりんは書いてる?」
ちきお「ん〜、最初はセーフティネットが必要だって書いてたよね。」
ちきりん「そうだね、それから?」
ちきお「今日の一番上に書いた、内需刺激だよね。」
ちきりん「そう。一時的には大規模な公的出動が必要だよね。ニューディール的な。」
ちきお(メモをとりながらつぶやく)「ええっと、世界同時不況への対策としては、まずはセーフティネット、次に公的出動による内需下支え、ニューディール、と。」
ちきりん「で、二番目の問題である、日本の構造的な問題に関してはどういう対策が必要?」
ちきお「ええっと、あっ!それが数日前の“危機の中にある“日本経済再生への糸口” っていうエントリだね!!」
ちきりん「その通り。あの日に書いた問題は二番目の問題なわけ。つまりそれらは矛盾してないの。ふたつの問題にたいするそれぞれの対応策を別々に書いただけってことなの。」
ちきお「はあ〜、なるほどぉ」
ちきりん「でも、実はここで終わりじゃないんだよね。」
ちきお「えっ、まだあるの?それなに?」
ちきりん「二つの問題とそれぞれの対策が、独立して存在せず、絡みを見せるんだよね。まあ当然なんだけど。ひとつの国の話なんだから。」
ちきお「はあ〜」
ちきりん「どう“絡み”はじめてるかわかる?」
ちきお「・・・・・」
ちきりん「ヒントをあげる。コレ読んでみ→“内需特需”を補助金争奪戦に終わらせてはいかんです。」
ちきお「わかった!!第一の危機に対応する振りして、そもそもの構造問題には害があるような政策がとられる可能性がある、ってことだ。ふたつの問題の対応策が矛盾したり、ぶつかり合う場合があり得る、ってことだね。」
ちきりん「そうなの。そもそもの構造問題の方は改革に抵抗する人がたくさんいるわけ。彼らの中には今回の危機を、構造改革を止めるのために利用しようとする動きがあるんだよね。で、構造改革をやらずに公的資金による内需刺激だけやると結局、補助金争奪戦になってしまうわけ。」
ちきお「なるほど。」
ちきりん「もうひとつあるんだよ。二つの問題の絡みあいが。」
ちきお「なに?」
ちきりん「必要な時期とタイムラグの話なの。たとえばね。セーフティネットを整備しようとする。どれくらいタイムラグがある?」
ちきお「すぐできるよ。生活保護の申請を受ければいいだけだもんね。支給は1ヶ月後くらいかな。」
ちきりん「そうだね。じゃあ、公的支援による内需刺激を実施するのに必要な期間は?」
ちきお「予算を国会で通して財政出動するなら数ヶ月くらいかかるよね?法律作るなら半年くらいかかるかも。」
ちきりん「そう。これは数ヶ月から1年かかる。じゃあ、構造改革はどれくらいかかる?」
ちきお「ああそれはすごいかかるよ。最低でも3年くらい?もっとかな。」
ちきりん「そうだよね。ということは今やらないといけないのはどれ?その中のどれからやるべき?」
ちきお「・・・ああ、そおかあ・・・全部今やりはじめても、セーフティネットは次の数ヶ月に実現、公的支援による内需刺激は半年から一年後、構造改革は数年後の実現になるよ、ってこと?」
ちきりん「ちきお、すごいね、成長したね!」
ちきお「そう? へへ。毎日ちきりんブログ読んでるんだよね〜。わからない時は何度も読み返してるんだ。」
ちきりん「この図を見てご覧 →http://f.hatena.ne.jp/Chikirin/20081203224703 これが今、ちきおが言ったことなんだよ。」
ちきお「ああ〜、なるほど。セーフティネット、ニューディール(内需刺激)、マーケットメカニズム(構造改革)、この3つが順番に必要になるんだ!」
ちきりん「そのとおり。どれかひとつでいいってことじゃなくて全部必要なの。しかもそれぞれ実現までのタイムラグが違うから、セーフティネットを整えながら他の二つも同時に始めないといけない。
公的資金による内需刺激ったって、そんなもんを何年も続けたりはできないんだから。それに、内需をまず下支えして、それが終わった後で構造改革、とかいってると、タイムラグの関係で全く間に合わない、わけ。」
ちきお「は〜、なるほどねえ。」
ちきりん「ちゃんと理解した?」
ちきお「うん。でもさ、もうひとつ質問が、」
ちきりんB「ちきお〜、ちきりん〜!!」
ちきお「あっ、ちきりんBが来たよ」
ちきりん「うるさそう。私はもう帰るよ。」
ちきりんB「ちきお!ねえねえ、今、韓流スターのファンクラブのネーミング考えてるんだけどさ。98個も思いついちゃった。今から一つずつ説明するから聞いてくれる?で、意見が欲しいんだ。」
ちきお「きゅっ98個ぉ??」
ちきりん「あんた、もしかして一晩中それやってたの?」
ちきりんB「そーだよ。それがどーしたの?」
ちきりん「別に。じゃね。私は忙しいから」
ちきりんB「うん。じゃあ、ちきお、一つ目から説明するね。まず最初が、」
ちきお「へっ、あの、僕、韓流とかあんまし・・」
ちきりんB (ギロッ)
ちきお「あわわ。はい。はい・・」
「ちきお、頑張ってね」(ちきりん、つぶやきながら左側から舞台の袖に去る。)
(ちきりんBとちきおだけを照らすスポットライト一本を残して舞台の照明が落ちる。)
〜ゆっくりと幕〜