急がば回れ!

突然ですが、私はこれから “政治家の世襲に賛成する”ことにしました。

え〜 こんなエントリ→ 「麻生内閣メンバーの出自がスゴイ!!」書いといて、それはないだろって?

大丈夫、あなたもこのエントリを読み終わった頃にはきっと政治家の世襲に賛成してますよ!


有権者には世襲政治家の多さに苦言を呈する人、批判する人、反対する人、がたくさんいる。ってか、過半の人が「政治家の世襲反対」でしょ。

それは理解できる。当然ですよね。

選挙で選ぶから民主主義なのに、実際には地盤看板鞄(順不同)が揃ってる二世しか当選できない。

これじゃあ民主主義じゃないよね。普通の人が政治家を志しても当選はとても難しい。親が政治家ではなかった、という理由だけで。


おかしーじゃん!


と言いたくなるのはよくわかります。私もそう思ってました。



ところが最近、政治家の中からも「政治家の世襲はよくない」って言う人がでてきた。

民主党とか、自分が世襲じゃないとか、新人議員とかが言うならわかるんだけど、「あんたも世襲でしょ?」とか「あんたがそれ言う?」みたいな人が「政治家の世襲が多すぎるのはよろしくない」って言いだしてる。

たとえば森元首相とかが最近しょっちゅうこぼすわけ。「よくないよ、二世、三世ばっかりになっちゃって」と。特にお酒の席ではよく言うのよね。


なんであんたが言うさ?


って思うじゃん。森派改め町村派はいったいここまで何代続けて世襲の総理大臣を担いできたんよ? あんたが世襲反対なんて、ちゃんちゃら可笑しいって思うっしょ。


で、考えてみた。なんで森元首相みたいな政治家まで「世襲はいかん」と言い出したのか。


理由は明確だった。

森さん始め、最近の自民党の大物政治家は皆、ある危機感を覚え始めてる。

それは「世襲の政治家が増えると、田舎を地盤とする正当な保守政党である自民党の屋台骨が崩される」という、とても本質的で、深刻な危機感なんです。


どういうことか。


自民党という「もう終わったでしょ」と思われて久しい政党が、何で未だに政権与党なのかというと、一番の理由は「選挙に強い」からです。特に地方の小選挙区において、彼らはめっぽう強い。

それは農水省という役所が、「もう終わったっしょ」と思われてから久しいのに、未だに他省庁と統合されず単独で生き残っているのと同じ。

なんだかんだいって都会の若者なんて選挙に行ってない。行っても、毎回「風にのった」候補者に投票する浮動票にすぎない。


でも田舎には「祖父母の代から3代、自民党の先生にしか入れたことがない」っていう家がいっぱいある。そして彼らは、雨の日も風の日も嵐の日でも投票所に行く。

「前の日飲み過ぎた」とかいうふざけた理由で「めんどくせ」とか言って投票に行かないとか、絶対にナイ。しかも彼らの票は、一票の価値が都会の倍ですからね。すんごい価値ある票が“確実に”自民党に流れ込む。


つまり、この「地方での圧倒的な強さ」が自民党を支えてきたんです。
では「地方」はなぜそこまでして自民党を支えてきたか?


理由は明確。“自民党は地方を必死で守ってくれる”からです。

世界の潮流に背を向けることも全く厭わず、ただひたすらに地方を守ってくれる政党。それが自民党なんです。

意味不明なロジックで一切の農産物輸入を拒む農水省を支え、たとえ我が身が除名されても郵便局の民営化に反対し、どんだけ批判されようとも地方にダムやら道路やら干拓農地やらを作って工事従事者を雇ってくれる。


自民党の政治家は文字通り「地方に心血を注いできた」のです。

それが、小沢さんが「民主党の若手が全くわかってない」という“票の集め方”なわけです。


ところが、ある時、森さんら旧世代の政治家は気がつき始める。「田舎が地盤のくせして、都会型の政治政策を支持する政治家が出てきた」ということに。


・・・それって・・・


そう、二世、三世の議員達のことです。

彼らの多くは父親が議員だから小さな頃から議員宿舎や(大物の場合)東京の高級住宅地で成長してる。

選挙の時に一時的に田舎に戻ることはあっても、人生の大半を東京で過ごしている。しかも親が金持ちだから多くが私立の一流一貫校に通ってる。

自分の周りの友人で農家になる人なんて誰もいない。慶応大学や成蹊大学ですごす彼らの友人の多くは「外資系」や「IT系」に就職していく。もしくは起業する。世襲組の多くはそういう友人の中で育って「二世議員」になっていく。


こうした環境は、知らず知らずのうちに彼らの支持する政策に滲み出てくる。

地方で苦労してきた一世議員とは違う。農業も知らない。公共事業しかない現状も知らない。いや、「知識としては知っている」のでしょう。だけど「切実には」全然わからない。地方における郵便局の意味も。公共事業の意味も。


大学時代からの友人達と話せば、“日本の国際競争力のためには・・”などという話が飛び交う。

加えて世襲議員の多くはご丁寧に、箔付けのためにアメリカに留学していたりする。そこで彼らがどんな思想に感化されてくるか、想像に難くない。

世襲議員の多くは、カリフォルニアやボストンを、自分の日本の選挙区である田舎より「懐かしく」感じてさえいるかもしれない。



「やばっ!」


と森さん達は気がついた。世襲議員は田舎を知らない!

世襲議員に“田舎の利益のために理不尽なまでの心血と情熱を注ぎこむという気概と魂”が失われつつある!

それこそが長年我が党を支えてきた自民党の基盤そのものであるというのに!



森さんらはこのことになぜ気がついたか。

「何代も続けて世襲議員を首相にしてみて初めて気がついた」んです。

たとえば小泉さん。


小泉さんはなぜあんなにラディカルだったか。ひとつは圧倒的に都会化が進んだ地域を地盤としていたことでしょう。小泉氏の選挙区は神奈川県。だから郵便局の民営化は、彼にとって全く自然な施策だった。

でも、森元首相らが本当に驚いたのは「安倍さん」だったと思う。

あの人の政策に「田舎的なるもの」が全然感じられなかったんでしょう。思想的にはやたらと右な人だけれど、たとえば「再チャレンジ」なんて完全に「都会型の起業希望です的な学生&若者」層を想定した言葉なんです。


森さんは思った。(と、ちきりんは思った)

「お前の地盤は山口県やろ?」と。


そうです。彼は山口の政治家です。でも安倍さんは、東京生まれの東京育ちでもある。成蹊大学出身のおぼっちゃまです。

知らないよね、山口県のリアルな姿なんて・・もちろん彼も政治家だから陳情があれば地元の要請に添った政策を後押しするし、頭の中では理解しているでしょう。

だけどだんだん“浸食”されてくるわけ。「自民 & 田舎の DNA」が「都会の強者の理論」に。

だって、彼ら二世はまさに「都会の強者」なんだもん。


「やべ〜」


と森元首相は思ったわけ。(多分ね)


で、彼は考えた。「伝統の自民党を守るには、都会育ちの二世より、田舎からでてくる新人を支援して増やしていった方がええんとちゃうか?」と。これが森さんのような政治家までが政治家の世襲を困る、と言い出した理由です。


ってことは、ちきりんのように「田舎のことしか考えない政治家が国を率いるのはもうごめんだ!」と考えてる人にとっては、もしかして「どんどん世襲が増えた方がいい」んじゃないか?と最近思い始めた。


だって彼らは“都会の勝ち組”そのものですよ。アメリカ留学の経験率だって、一般有権者より圧倒的に高い。

中途半端に立身出世の意欲に燃えた田舎出身の優等生みたいな人に“初代”の政治家になってもらうより、二世、三世の方がよほど都会の利益に敏感なはず!

いくら頭で「大事なのは田舎の選挙区だ!」と考えようとしても、人生の長い期間をかけて形成された思想は間違いなく彼らの政策選択や政治行動に影響を与える。


彼らにとって、公共工事や農業へのバラマキ補助金を通して、「何があっても永久に田舎に金と利権をばらまき続けなければ!!」という切実な気持ちを持ち続けるのは、決して容易いことではない。

彼らの奥さんも彼ら自身も、彼らの周りの友人も、誰もそんな環境の中で育ってきてはいないのだから。



なので。


ちきりんは「政治家の世襲に賛成します!!」


さて、ここで問題です。(今日の本題はここからです!)


問1:上記の文章の内容を最も的確に表していることわざを以下の3つの中から選べ。
a) 犬も歩けば棒に当たる
b) 急がば回れ
c) 転ばぬ先の杖



回答は本日のエントリのタイトルをご覧ください。



そんじゃーね。


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