攻守転換のタイミング

事例1)カーシェアリング
法人が経費削減のためにカーシェアリングを導入、という話。最近は駐車場運営企業とか商社が新規事業として取り組むとも報道されはじめています。

これ、どーですかね?

アイデアとしては合理的だと思います。企業で社用車を抱えているところも多いけど、必ず“使わない時間”が発生する。社用車を同じビルに入居している他の企業と共同利用すれば、大きなコスト削減になる。

どこかの地方都市の団地でもやってるという話を聞きました。ショッピングには軽自動車が不可欠。でも子供のいない家では、二日に一回の買い物のために2台目の自家用車を保有するのは経済的に厳しくなってきた。じゃあ、団地全体で10台を共有して使用できないか、と。

上記は「近隣の知っている人達の間で車を共有する」というパターンで、もうひとつの別のパターンがレンタカー的な共有の方法。借りる人は(事前登録等は必要なのでしょうが)基本的には不特定多数というモデル。この事業を新規にやろうとしている企業のひとつは「山手線の各駅にカーシェアできる車を配備する予定」と言っていた。


さて質問です。自動車メーカーはこの動きを支援すべきでしょうか?


“カーシェアリング”が普及したら、売れる車の台数が減ってしまうから協力すべきでない、と考えるか、それとも“積極的にカーシェアリング・サービス会社に営業をかけろ!”と、考えるべきでしょうか。

この判断が難しいところです。新しい動きにたいして、どこまで守り、どこから攻めるか。その転換点を見極めるのが難しい。



事例2)新聞の折り込み広告

新聞の定期購読市場が縮小する中、専売店にとっては「折り込み広告事業」は重要な収入源となっています。客の方も、“チラシ”が欲しいから新聞購読をやめない、場合さえある。

ところが、最近は新聞をとらない家が多いので、新聞のチラシでは各家庭に情報が届かない、と思う店(=チラシの広告主)が増えてきた。チラシをいれるのは、近隣のスーパー、家電店、パチンコ屋、不動産屋、衣料品店、などだと思いますが、それらの店の顧客層と“新聞をとり続けている顧客”が重ならなくなってきた。

で、リクルート社が「チラシ配布ビジネス」を始めたのは皆様ご存じのとおり。*1「テレビ番組表とチラシ」だけを一週間に一度、個別の家に宅配便で届けるという方法です。申し込み制です。

この“テレビ番組表”と“チラシ”を配布ってのが笑えません?「だって新聞で価値があるのはそのふたつでしょ」っていうリクルートさんの本音がすばらしいです。


ちきりんもこのビジネスへの関心から、申し込んで見ているのですが、まあ、可能性は感じさせます。まだつらいけどね。つらいのは“毎日じゃない”こと。スーパーの特売などは週1のチラシでは足りない。特定の日にオープンのお店も、その日にチラシを打ちたいでしょ。あと細かい話ですが、チラシが袋に入ってメール便として届けられるのも消費者側から見ると面倒です。

なのだが、そのうちこれはメジャーな事業になるだろう、とも思います。新聞の購読者はどんどん減る。特に若い子が読まないので、若い子にモノを売りたい店にとって新聞のチラシは極めて効率が悪くなる。新聞側の将来に明るい予想は何もない。できるのは“守り”だけだ。


では、あなたが新聞社側(もしくは、新聞販売会社側)であれば、この動きにたいして“守りを続ける”か“攻めに転じる”か、どっちでしょう?


“攻める”というのは、このリクルートがやっているのと同じビジネスを自分達も始める、ということです。すなわち、「新聞を購読していない家のポストにも、チラシを入れます!」というビジネスを積極的に、そして大々的に始めるということ。

そもそも新聞配達の人はくまなく街を回ってる。マンションの中で、自社の新聞を購読してくれているのは10軒かもしれないが、住居が30軒あれば、10軒のポストには新聞とチラシをいれ、残りの20軒のポストにはチラシだけを入れてくればいい。

新聞販売会社は極めて低いコストでこのビジネスを始められる。どうせ毎日そのマンションに行ってるんだし、彼らなら毎日チラシを配布できる。つまり、彼らがこのビジネスを始めたら、リクルート社よりも圧倒的に競合優位性がある。


しかし、新聞社自らがそんなことを始めたら「チラシと番組欄のために新聞を購読している」という家が、新聞の購読をやめるきっかけになりかねない。そんなことになったら、自分の首を自分で絞めることになる。


さあ、あなたが新聞販売会社なら、どうします?



事例3)スポーツ、仕事、個人生活・・・

“攻守をいつ転換するかが大事”なのは、新ビジネスの登場の時だけではなく、あらゆる分野で同じことがいえますよね。


スポーツで攻守の切り替が重要なことは多くの人が知っている。でも実は仕事もそうだよね。自分に合わない上司がきたら、どうします?抵抗勢力になる?どこかでその上司の良き部下となる?そのタイミングがすごい大事でしょ。

個人生活でも多分同じ。どんどん攻めるべき時期と、守りに転換すべき時期がある。もしくは、守りを固める時期から、攻めに転じるタイミングの見極めが大事。


“攻守の切り替えタイミング”が巧くつかめるかどうかが超大事!、みたいなことはたくさんあるわけです。


そこを間違わないように。。。


そんじゃーね。



*1:リクルート社の新事業はこちら→http://townmarket.jp/MP/touroku/