“何が”問題なのか

名古屋の河村たかし市長が、市議会議員の数と給与を半分にするといいだして、議会と真っ向から対立している。

名古屋市議の平均通算在職期数は3.4期(1期は4年)に上り、「多くの議席が指定席化し、新しい人が出られない」(河村市長)。
 こうした実態を突き崩すため、河村市長が提出した今回の条例改正案では、
(1)議員年収を約1600万円から約800万円に半減
(2)議員定数を75から38にほぼ半減
(3)議員1人当たり年600万円の政務調査費の完全廃止
−を打ち出した。市長自らは就任直後に年収を800万円に減額している。

元ニュース)http://www.jiji.com/jc/zc?k=201003/2010032700263&rel=j&g=pol

なお、名古屋市の人口は225万人。比較するため書いておくと、世田谷区の人口が86万人、練馬区が71万人、もしくは、大阪市が266万人、京都市が146万人、神戸市が153万人だ。


議員年収 1600万円に、活動費が600万円・・
“平均”の在職年数が13.6年・・・これ、親から子供に引き継いでいる家もあるだろうから、“家族での独占年数”を計算したらもっと長いはずだ。

みなさん、このすこぶる高給取りの市議の皆さんが何を議論されてるか、ご存じですか?市民のために何を議論し、どんな条例を決めているの?住民税を払っている人達は、この総額に納得できる?市民の中に、一生の間に一度でも“年収1600万円”になれる人は何%いるのか?


この条例案を否決した議会にたいして、河村市長は議会リコールを求めて活動を始めるらしい。彼の主張(議員数半減、報酬半減等)が実現するかどうかはわからないし、できたらすごいとは思うけど、“できなくても、すごい”ともちきりんは思ってる。

問題を解決するためには、最初に「何が問題なのか」を明確にするステップが不可欠であり、問題の明確化自体に大きな価値がある。最初に必要なのは、“問題の定義”なのだ。
Step1) Issue definition


一昨日の「事件は会議室で起きている」というエントリで、ちきりんは名前の長い業界団体が地方公共団体の議員に働きかけ、自分達に有利な条例を作らせている、という話を書いた。あのエントリを読めば、

・既得権益者=業界団体
・それに利用される人=地方議会の議員

という構図を頭に浮かべる人が多いだろう。

しかし、その認識は誤っている。あのエントリではちきりんが「問題はどこにあるのか」を明確に書けていないため、そういう誤解をよんでしまった。多くの人が“名前の長い団体”が悪の親玉であり、地方議会の議員は“悪に利用される人達”と理解し、業界団体に悪態と溜息をついたと思う。でも、悪態をつくべき対象は、“そっち”じゃない。今日のエントリはそれを訂正しておくために書いている。


本当は、次のような構図なのだ。

・既得権益者=地方議会の議員
・それに利用される人=様々な業界団体


市や県や区の議員には、事実上たいした存在意義がない。なのに1000万円を大きくこえる年収をもらい続けるためには、自分達を「役に立つ」と理解してくれる人達が必要だ。地方議員を頼ってくれて、何かを依頼してくれる人達が必要なのだ。それが、業界団体などの圧力団体だ。

彼ら(議員の方)がこうささやくのだ。「有権者の皆様、何かお困りですか。おーなるほど、そうですか、それは大変ですね。それではこういう解決方法がありますよ。私におまかせ下されば条例を作って・・・ええ、もちろん、これで問題は解決できますよ。はいはい、すべて私“○○××”におまかせ下さい!」

と。


★★★


河村市長には、とりあえず市長としていくつかの実績をあげるために、議会と妥協し、自分の顔を立ててくれる目玉政策(で、かつ議員に直接的な危害が及ばない政策)を“議会に通してもらう”、という現実路線を歩むこともできたはずだ。

しかし、今回彼がとった行動は全然違う。


それが実現するかしないかを、ちきりんは問わない。(問えない)

「何が問題なのか」を明確に示した、彼の行動の価値は非常に大きい。


こんな本気の戦いを始めたら、相手も本気になる。自分が指をさされた方にいれば、すぐに市長の私生活を洗いまくるだろう。女の問題、お金の問題、若い頃の言動の中に、なにかないか。本人だけではなく、その家族の誰かに“市民の支持を失わせることができるような何かおもしろい話はないか?”と、血眼になって彼とその大事な人の身辺を洗うだろう。

世の中には「何が大事なのか」がよく理解できない人もたくさんいる。すべてが潔癖でなければ政治家であるべきではないと思う人は山ほどいるのだ。楽しいスキャンダルを見つければ、そういう人達の潔癖さを利用して議員達は勝利を得られる。しかも、少々作り話でもかまわない。マスコミが騒いでくれさえすればよいのだ。選挙は、どちらが善良なる市民の信頼を多く得られるか、という勝負だから。


私生活を含め自分の全部をさらす覚悟がないとこういう言動はとれない。
こういう人がいて初めて、社会は変わる。


先日書いた既存理容店の業界団体が条例を作って新規参入者を追い出そうとしている話。あれを読んで「選挙に行かないとだめだ!」と思った人もいるだろう。それは正しい考えだし、そう考えた人は善き人だ。

でも実際には、地方議会の選挙になんて行っても「選ぶべき人」は立候補していない。そんなアホみたいな仕事を引き受けてくれるまともな人がたくさんはいないからだ。


それなら、一歩立ち戻って考えるべきだろう。


「そもそもそんな条例を作っている地方議員なんてものが、ほんとに必要なのか?俺の税金で養う必要がある人達なのか?」と。


そして、そういうことを言い出す首長を選ぶ選挙や、彼らが議会との決着をつけるための選挙にこそいくべきだ。(昔、田中長野県知事も同じような選挙をしていた記憶がある・・)



ちきりんは、河村市長を応援してる。


勝てなくても、すばらしい。
今の行動だけでもすばらしい。


「何が問題なのか」を明確にした価値は、第一歩として本当に大きい。
なぜならこの問題は「名古屋の問題」ではないからだ。
彼は、日本中の人に教えようとしている。「問題はどこにあるのか」を。


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