ここまで数回にわたり、急拡大するクラウド・ソーシング市場について書いてきました。
・ 戦力外労働力が市場参入する
・ 一国の雇用・労働法制を超えたグローバル労働市場が出現する
・ 研究開発や商品開発においてさえ、クラウド・ソーシングが鍵になる
こういった話を聞くと、「セキュリティはどうなんだ?」とか、「国はなんらか規制を考えるべきでは?」と思う人もいるでしょう。でもその一方、“国家として”積極的にクラウド・ソーシングを活用しようとする国もあります。
それはもちろん・・・アメリカ様
実は 2010年3月、オバマ大統領は「オープン・イノベーションを促進するため、クラウド・ソーシングを積極的に活用するよう」、政府各省に通知をだしているんです。
以前からアメリカでは、NASA (The National Aeronautics and Space Administration) など公的部門が、積極的にそれを活用してきました。
たとえば 2000年には、火星探索で得られた画像データを8万点にも細分化し、その分類作業をクラウド上でのボランティアワーカーに依頼。この時は、プロの惑星地質学者のみでやっていたら 2年以上かかったと言われる量の画像分類を、世界中から協力を申し出た数千人のアマチュア天文家らが、なんと一ヶ月で終わらせたのです。
これで
すげっ!
っと思ったNASAは、その後もクラウドワーカーを積極登用、今や火星関係の情報サイトはこんな感じになってて・・ →「君も火星人になろう!」サイト・・・ほとんど宇宙ゲームみたいですよね。
彼らは先日紹介したINNOCENTIVE上にも、パートナーとしての特別ページを開いてクラウドワーカーを募集しています。
さらに Defence Advanced Research Projects Agency などという機関まで、軍事目的車両や飛行機、医療機器の設計にクラウド・ソーシングを活用してるらしい。
実際に掲示された、Fast, Adaptable Next-Generation armored vehicle (FANG) という、多目的軍事車両の設計&試作につけられた予算は 5000万ドル(約50億円)で、これは従来の軍需予算の10分の1ほど・・・
ソースはこの本↓
クラウドソーシングの衝撃 雇用流動化時代の働き方・雇い方革命 (NextPublishing)
- 作者: 比嘉邦彦,井川甲作
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以前、3Dプリンターで武器の部品を作れるという話も聞きましたが、
クラウド・ソーシングを利用して、予算規模が小さな国や団体でも「軍事利用できる車両の設計と施策を、世界中の技術者に低価格&短期間で依頼できる」ことになったら・・・・いろんな国がそういうのを使い始めたら・・・と考えるとちょっと怖くない??
★★★
今後のクラウド・ソーシングの普及・拡大に伴い、セキュリティから知的財産関連の権利問題、労働法制の骨抜き化まで、ものすごくいろんな問題がでてくるでしょう。
今でもアメリカは、(テロ集団だけでなく、中国や北朝鮮やロシアなどにたいしても)情報管理やセキュリティに関して万全の注意を払っているはず。
それでも大統領が、政府の各部門に「クラウド・ソーシングを積極活用すべし」と通知したことは、これからの世界において、それがどれほど大きな価値(=インパクト)をもたらすと彼らが考えたかを、如実に示しています。
もちろんセキュリティなどの問題が少ない作業に関しては、より積極的にクラウド・ソーシングを利用して行政コストを大幅に下げようといった動きも出てくるでしょう。なんたってどこの政府も、深刻な財政赤字に悩んでいるわけですから。。
結局のところ、すべての個人、すべての企業、そしてすべての国家に、ふたつの選択肢が用意されているのです。
「様々なリスクがあるから、クラウド・ソーシングはできるだけ使わない」という選択肢と、
「たとえリスクがあっても、積極的に使っていく」という選択肢
日本という国がアメリカのように、「政府部門でもクラウド・ソーシングを積極的に使うべし」と決め、首相が各大臣(各省庁)に、そういう指示を出すのは何年後になるのでしょう?
それともそういう日は、この国には永久にやって来ないと思います?
※最初のエントリに書いたように、ここでの“クラウド”は、雲 (cloud) ではなく“群衆”(crowd) です。