理由はデータと総理大臣の認識

ここ数年、内戦の続くシリアから大量の難民が欧州に押し寄せたり、
難民満載の船が沈没して大量の人が亡くなったり、
リオ・オリンピックには初めての「 難民選手団 」が出場したり


いろいろと話題になることも多い難民問題ですが、
日本での関心は必ずしも高くありません。

そこで当ブログでは 認定 NPO 法人 難民支援協会 (JAR) を取材して学んだことを、これから何回かに分けてご紹介します。



(四谷にある JARオフィス。多くのスタッフがぎっしり!)


今日はまず、世界の難民を巡る状況と日本の立場から。

難民については国連難民高等弁務官事務所、UNHCR, United Nations High Commissioner for Refugees があれこれ数字を発表していますが、

世界では今、6500万人もの人が「避難を余儀なくされている状況」に置かれています。

これが「難民としてどこかの国から正式に認定されているわけじゃないけど、事実上、難民になってる人」の数なんですが・・・すごい数ですよね。


難民発生国としては人口(約 2300万人)の半分、1000万人もが難民化しているシリアと、長年の紛争が続くアフガニスタンといった中東の難民が多いんですが、

ソマリアやスーダンなど政情不安が続くアフリカの国、そしてアジアでは、つい最近まで軍事政権下にあったミャンマーなどからも難民が生まれています。


この 6500万人の難民、いったいどこにいるのか。

ニュースでは陸地を延々歩いてドイツやイギリスを目指す姿や、船でギリシャを目指す難民についてよく報道されてますが、

当然ながらそんな遠い外国までたどり着ける人は少数派で、難民の多くは自分の国の中で戦闘を避けて避難していたり、隣国の難民キャンプで自国の内戦が収まるのを待っています。


そりゃそーですよね。
日本だって東京で内戦が起こったら、まずはみんな関西や東北など、日本の中で他のエリアに避難するだろうし、

もしも陸続きの国があるなら、国境をちょっと越えたあたりで内戦終結を待ちたいはず。


というわけでシリアに近いトルコ、レバノン、ヨルダンなどには 100万人以上の難民が流れ込んでおり、それらの国の負担は半端じゃないレベルになっています。
→ シリア難民に関するヨルダン国王インタビュー(BBC)


そんな中、日本は世界から「難民に冷たい国」もしくは「無関心な国」と思われてるわけですが、
なんでそういう印象を持たれているのか、というのが、今日のブログタイトルです。

理由はふたつ。

1.あまりに難民の受け入れ数が少ない

2014年に難民として認定されたのはたったの 11名。認定率(=認定数÷処理件数(審査結果の出た件数))は 0.2%。

少なすぎると国際批判を浴びて(日本としてはかなり頑張った)昨年 2015年でさえ 27名の認定で同 0.6%。

これは、認定率が 5割を超える米国やカナダ、3割を超えるイギリスやドイツ、1割を超えるフランス、イタリア、オーストラリア、さらには、5%を超える韓国に比べても、あまりに低い。(各国の認定率はすべて 2014年)

認定人数も“万人”単位の他国と比べるとケタが 3つも少ない。

これが「日本って難民に冷たいよね」と思われる一番の理由! 
と言ってもいいんですが、実はそれより深刻な問題はこっち(↓)なんじゃないかとも思えます。

2.総理大臣でさえ、難民と移民と外国人労働者の違いがわかってない

2015年の 9月、安倍首相は国連総会に出席し、ニューヨークで記者会見を開きました。その際、海外のジャーナリストから

「日本は他の国と同じように難民を受け入れる可能性があるか?」と問われ、

「難民問題は世界全体で取り組んでいかないといけない大事な課題」
「難民を生みだす土壌の改善について、日本は貢献したい」
という(まったく質問の答えになってない)逃げ腰なコメントに加え、

「人口問題としては、日本は移民を受け入れるより前に、女性の活躍であり高齢者の活躍であり出生率を上げていくなど、まだまだ打つ手がある」と回答したんです。


これはつまり
・日本の人道意識や人権問題への取り組みについて質問された首相が、
・国内の「労働力不足問題」について回答したってことで、、、


当然のことながら海外メディアからは批判が続出。特に英国の大手新聞ガーディアン紙の記事は辛辣なものでした。

Japan says it must look after its own before allowing in Syrian refugees

↑ちょっとクリックしてみてね。この写真にこの論調ってのはすごいインパクトですよ。これを見たイギリス始め欧米諸国の人たちは、「日本ってこんな国だったのね・・・」と驚いたはず。


こちらはロイターから全世界に配信された記事ですが、同じくひじょーに厳しい見出し。
Abe says Japan must solve its own problems before accepting any Syria refugees


なんたって、
・国連の常任理事国入りを目指してる(らしい)国の首相が、
・昨年の秋という、難民問題が世界中で騒がれているピークのタイミングで、
・国連の会議に出席し、その記者会見で、
・ここまでトンチンカンな答弁ができるっていうのは、ほんとにスゴイことです。


安倍首相って前にわざわざイスラエルを訪問して「テロと戦う!」とブチ上げ、「あっそう?」って言われて日本人の人質がいきなり殺されたりしたという前科まであるのに、

いくらなんでも安倍首相の外交担当ブレーンの人、アホすぎない?


去年の秋に国連に出席して記者会見をしたら、難民問題について聞かれるってことくらい想定問答集に入ってないの?

事前に、「難民問題について聞かれたら、労働力不足の解消の話ではなく人道問題・人権問題ですからね!」教えておいてあげないと。

これでは、日本の人権意識レベルは中国となにひとつ変わらないと思われる。てか、確実に思われたでしょう。


★★★


このように、「どんな理屈があるにしろ、あまりに少ない難民の受入数」と、「先進国の首相とは思えないお粗末な人権意識」によって、
「日本ってあまりに身勝手な国じゃね?」という国際的な悪評がたってしまったというわけ。

まさかみなさん、「日本は世界からすばらしい“おもてなし”の国と思われてる」なんて、信じてないですよね? 

そんなふうに思ってるのは日本人だけですよ。てか、金を払ってくれる人だけを歓迎するなんて日本語的にも“おもてなし”とは言わないでしょ。


それにしても日本って、なんでこんなに難民の認定数が少ないんだろうね?
というわけで、次回はその背景を詳しく見ていきたいと思います。



そんじゃーね!


★このエントリはシリーズ連載です★

第一回 問題はデータと首相の認識
第二回 びっくり! これが日本の難民認定基準
第三回 難民条約とインドシナ難民
第四回 トルコとミャンマーの違いとは?
第五回 難民ってどーやって日本に来るの?
第六回 偽装難民についてはどう考えればいい?
第七回 外国人労働者と移民と難民
最終回 拡散と寄付とイベントを

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