このエントリは連載ものです。
第一回 問題はデータと首相の認識
第二回 びっくり! これが日本の難民認定基準
第三回 難民条約とインドシナ難民
第四回 トルコとミャンマーの違いとは?
第五回 難民ってどーやって日本に来るの?
第六回 偽装難民についてはどう考えればいい?
初回エントリに、日本では首相でさえ、外国人労働者と移民と難民の区別がついてないと書きました。
そこで今日は、この3つの違いをまとめておきます。
<外国人労働者>
前回のエントリで触れた技能実習生はこれに当たります。
フィリピンなどから介護士を受け入れようという話もこれです。
その他、いろんな就労ビザを取得してやってくる人もいます。
外国人労働者とは「働いてお金を得るために来日する人」です。
だから家族は本国に残してひとりでやってくるし、仕事が終われば or お金が貯まれば帰国します。
稼いだお金も日本では最低限しか使わず、貯金するか母国に送金します。
彼らが狭いアパートに大勢で同居するのは(狭くても平気だから、ではなく)「稼いだお金を日本なんかで使いたくないから」「できるだけたくさん、国に持って帰りたいから」我慢しているだけです。
どうせ数年間のことだから、不便を我慢してでもお金をためようとしてるんです。
したがって、日本市場における消費者として彼らに期待することはできません。
また彼らは、仕事に必要なコト以外、日本について学ぼうとはしません。
言葉にしろ慣習にしろ、数年しか滞在しない国のことを深く学んでも意味がありません。なので日本にいる間も仲間内だけで集まり、日本に溶け込もうとするよりは、本国コミュニティとネットでつながりながら暮らします。
彼らは自分達を“よそ者”だと感じているし、日本人も彼らをそう扱っています。(お互いの期待値が同じです)
外国人労働者とそれを受け入れる国は、国際市場でマッチングされます。
これまで日本は「安全にたくさん稼げる市場」として人気がありました。しかし今はその競争力を失っています。
フィリピンでもっとも優秀な介護士や看護師はカナダやオーストラリアなどを目指します。日本に来るのは、そういう国には行けなかった人たちです。
技能実習制度の評判が極めて良くないため、最近は中国からでさえ人を集めるのに苦労しています。働きに行ける国で、もっと楽に稼げる国は他にもあるからです。
港区で働く一部のエグゼクティブ外国人を除き、外国人労働者を欲しがるのは、農業、建設業、介護施設、地方、零細企業など人手の足りない分野や地域です。
なので基本は好景気に増え、不景気になると減るのですが、今後は日本の労働人口が急速に減少するため、景気に拘わらず増え続けます。
そうでないと、地方の農業や介護業界、零細企業の多くは(人手が確保できず)潰れてしまうから。
<移民>
現在の日本は移民を受け入れていません。唯一の例外は(純粋な移民とは言いにくいけど)、日系ブラジル人です。
移民は「働くため」ではなく「住むため」「暮らすため」にやってくるので、外国人労働者とはまったく異なります。
まずは働き手のみでなく、家族も一緒にやってきます。もしくは、日本で結婚して家庭を持ちます。多くの場合、子だくさんです。
「お金のため」ではなく「暮らすため」にやってくるのだから当然です。
稼いだお金は日本で貯金し、日本で使います。日本で家を買う人もいるし、地方なら車も買います。
もちろん子供の教育も日本で受けさせます。「子供にはこの新しい国で成功して欲しい」と考えるため、多くの移民は子供の教育に熱心です。
つまり彼らは労働力であると同時に、日本市場における消費者であり、生活者でもあるのです。
また、長く日本に住むので、日本の言葉や慣習も覚えようとします。
時には地域コミュニティにも参加し、その担い手ともなります。
移民は外国人労働者とは異なり、日本社会の構成員となる人たちなのです。
しかし日本には、外国人労働者と移民の違いを理解できていない人がたくさんいます。
そのため移民を「社会の構成員」として見ず、外国人労働者と同じヨソ者だと見做して社会に受け入ず、お互いの期待値にズレが生じて摩擦が起こります。
もともと移民はその国が好きです。嫌いな国に移民する人はいません。これも「お金のために嫌いな国でもやってくる外国人労働者」とは違います。
とはいえ、いくら好きでやってきた国でも、その国の人から単なる外国人労働者のように扱われ、社会の一員として受け入れてもらえなかったら、あとは続きません。
好かれている国でなければ、移民は増えないのです。
シリコンバレーが移民だらけなのは(単にお金が稼げるからではなく)、彼らが社会の重要な構成員として受け入れられているからです。
ちなみに、外国人労働者を入れると決めるのは企業など雇用主ですが、移民を入れるかどうかは有権者の判断です。
現時点では、日本の有権者は移民をいれたくない人が多数です。一方、日本のほとんどの業界は外国人労働者を必要としています。
このため日本では、移民は増えず、外国人労働者ばかりが増えています。
今後も(移民を入れないという国民の判断に基づき)日本における外国人労働者は急増することでしょう。
個人的には、稼ぎに来るだけの外国人労働者をなし崩しに増やしてしまうより、定住して国や文化にコミットしてくれる移民を入れたほうがよほどトクだと思いますが、私のような考えは少数派です。
てか、移民と外国人労働者の違いを理解してる人自体が少数派なのかもしれません。
中には「日本にもシリコンバレーのように、世界をリードする企業が次々と生まれるエリアを作りたい!」とかいいつつ、移民に反対する人もいて笑えます。
移民を入れずに自国民だけで勝負するというのは、「一億人の人口で、世界 70億人から才能を集める国と勝負する」という意味であり、まったくもって不可能です。
日本は外国人を入れず、日本人だけで仲良く衰退していこうと決めました。
都市部の高齢化と地方の衰退や崩壊のほうが、外国から移民を入れるよりはるかにマシである、と考え、そういう道を選んだのです。
<難民>
難民は、外国人労働者とも移民とも違います。
彼らは海で溺れている人であり、戦火に追われている人です。食べるに困っており、命の安全が保障されていない状況から逃げ出してきた人です。
彼らを助けるのは先進国にとっての義務であり、助けて当然と思う気持ちが「人道意識」と呼ばれます。
たまに「日本にも貧しい人がいるんだから、外国人を助ける余裕は無い」という人がいて驚きます。
日本よりよほど貧困層の多いアメリカが「我が国には数千万人もの貧困層がいる。なので難民なんて受け入れる余裕はない」と言ったらびっくりしませんか?
日本は今、先進国の中で唯一、そういうことを言ってるように見えてます。
なお、これまでずっと先進国内だけを比較してきましたが、実は韓国は既に、日本より多くの難民を受け入れています。
2014年が 94人(日本は 11人)、2015年が 105人(日本は 27人)と 4倍から 8倍。認定率も日本より高く、人口比でみると(韓国の人口は日本の半分以下なので)更にその差は拡がります。
日本と韓国は、以前はよく一緒に「難民支援に消極的!」と怒られていました。
でも 2013年に役所に難民課を作り難民法を成立させた韓国は、 UNHCR から「東アジア全体の難民保護によい影響を及ぼす画期的な立法」と褒められました。
韓流でアジアのエンタメ先進国となった韓国は、今度はアジアの人権先進国を目指しているのでしょう。
そのうち UNHCR は、「日本も韓国を見習ってね!」と言い出すかもしれません。
アジアは欧米から「経済成長はしているが、人権意識や文化度の低いエリア」だと思われてきました。もし今後、日本・中国・韓国が世界から
・中国 = 少数民族や共産党独裁に反対する民主化活動家を迫害する人権侵害国
・日本 = 難民に極めて冷淡で、金さえ払えばいいと思ってる身勝手な経済大国
・韓国 = 最近は難民支援にも熱心。人権意識の高い国になりつつある
と認識され始めたら?
韓国が世界で「日本は慰安婦に謝罪をしていない」「強制労働の補償もする気が無い」と再び主張し始めたとき、世界はどちらの言い分に説得力を感じるでしょう?
実は日本には、「人権侵害では?」「人道的に問題では?」と指摘されているコトがいくつもあります。
・外国人技能実習制度
・児童ポルノ漫画や同種のゲーム
・人身売買的な取引による性的搾取( JKビジネスや AV 出演の強要など)
(2016年人身取引報告書、2015年国別人権報告書 いずれもアメリカ大使館のサイト)
ほかにも、「日本人はクジラを殺し、イルカを追い立てて虐めるヒドい民族」というイメージも・・・
世界から日本人がどんな民族だと思われるか、日本という国がどんな国だと思われるか。そういったイメージは、様々な事象から総合的に形作られます。
脳天気に お・も・て・な・し! とか言って自画自賛してる場合じゃありません。
(JAR 製作 難民の人たちのリアルストーリー)
まとめときます。
外国人労働者は有権者が反対しても増えます。受け入れないと零細企業や農業や地方が成り立たないからです。(今後の日本の人口の減り方)
移民は(有権者が)受け入れたくないと言ってる限り、入ってきません。移民の受け入れに関しては、国としての選択肢があるんです。
でも、難民支援は「やるべきか、やらないべきか」考えて選んでいい問題ではありません。
そこんとこ、誰か安倍首相に教えておいてあげてください。
<いよいよ次回で最終回>