先日、こういうツイートをしました。
マーケット感覚の本にも書きましたが、ネット書店は「決まった本を買う」には役立つけど、「新しい本と出会う」ためにはまったくもってuseless. 前者が「時間の節約」という価値しか提供できないのに対し、リアル書店は「世界を拡げてくれる」わけで、その価値の差は比べようもない。 https://t.co/Y5SmTxMrYO
— ちきりん (@InsideCHIKIRIN) 2019年4月13日
多くの方の共感を得たのかたくさんの「いいね」がついていますが、「最近はネット書店でも新しい本に出会えるよ!」みたいに思う人もいそうなので、
「いやいやそれは全然ちがうでしょ」ってことを書いておきたいと思います。
★★★
ひとつめの違いは「ディスプレイの大きさ」です。
下記ツイートをいただき、「この表現はすばらしい!」と思いました。そうそう。最初の違いはディスプレイの大きさです。
ディスプレイの大きさはリアルを超えられないですからね。広い視野で情報に触れることができるのはまだまだリアル書店ですね。
— 須田直也 / sudanaoya (@sudanaoya) 2019年4月13日
レコメンド機能と仮想空間をリアルタイムで組み合わせることが出来るパーソナライズド書店なんてものが出来たらワクワクしますけど、まぁ当面は難しいのでしょうね。 https://t.co/Zr6feU5ETN
書店に入ってすぐ、数十秒でいいからざっと周りを見回してみてください。いったいどれくらいの数の本が目に入るか。
もし1分もそこに立ち、目に入る本の表紙やカバー、POPなどの大きめの字を見ていけば、それだけで相当数の情報が入ってくるはず。
一方、ネット、特にスマホでネット書店を利用する人は、同じ数十秒で、もしくは1分で、何冊の「買おうとしている本以外の本」の情報を目に入れられるのでしょう?
この情報量の差が圧倒的すぎ、リアル書店において「新しい本と出会う生産性」は、ネット書店のそれにくらべ桁違いに大きくなります。
これが最初の(もっともシンプルな)違いです。
★★★
2番目の違いは、「物理的に歩くことの価値」です。
書店に入った地点から、お目当ての本の場所まで移動する間、私たちは自分の足で歩かねばなりません。
ごく小さな書店でも数メートルは歩くことになり、その間ずっと、周りの棚に積まれている本が視野に入り続けます。
歩く距離は、書店が大きくなればなるほど長くなります。都会の巨大書店なら10メートル以上歩くことだってあるでしょう。
しかも通常それらの棚には「自分にはまったく関係のない本」ばかりが並んでいます。
そこで目にした光景からこそ、私は世の中の様々なリアルを学んでいます。
3月になればどどんと拡大される家計簿売り場、年末になると巨大になる年賀状を作るためのノウハウ本・・・
「ひゃー、まだこんなに紙の家計簿が売れてるんだ!」とか、
「年賀状ってまだまだここまで強いコンテンツなんだなー」などと気づけるのは、書店を歩いているおかげです。
「資格本の量ってすごいんだな」とか「闘病記っていうカテゴリーだけでこんだけの本が出てるんだ!」など。リアル書店では、今の自分にはなんら関係のない様々な社会の側面を見られます。
そしてそういう経験こそが、私のマーケット感覚を育んでいるんです。
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3つめは、「この本を読んでいる人が読んでない本を見つけることにこそ価値がある」って点。
ネット書店は「この本をチェックした人は、こういう本もチェックしてます」とか言って勧めてくるけど、このメッセージは見るたび笑っちゃいます。
だって、そんなお勧めばっかり読んでたら「同じような本ばかり読んでる人のひとり」にしかなれないじゃん。
マーケット感覚の中でもっとも大事なメッセージは、「他人と同じになるのは損」ってことです。
他に同じような人がたくさんいると、人間は「代替可能物」になってしまう。「いつでも変わりがいる」と思われたら大事には扱ってもらえないし、給与や報酬も上がらない。
大事なのは「あいつは他とはまったく違う」とか、「ちきりんみたいなブロガーは他にいない」と思われることなんです。
だから、「この本を読んでる人はこれも読んでます」とか言われても、それを読んで視野が広がるとも、自分の価値が上がるともまったく思えない。
他の人も「みんな」読んでるなら、むしろ私は別のを読むべきだよねと思います。
あんなお勧め機能をもって「ネット書店だって新しい情報に触れられる」って思えるとしたら、あまりにおめでたすぎ。
★★★
今、書店はいくつかのタイプに分かれつつあります。
1.巨大な旗艦店
2.小さいが特色ある書店
3.小さく、特色のない書店
1は、都市部ではターミナルごとにひとつは存在します、地方では県庁所在地や主要都市にひとつずつくらいかな。
上記で書いたように、ネット書店にはない大きな価値のある書店です。
2番目の書店は、そのほとんどが都市部にあります。本よりイベントが売りの書店、特定の分野に集中した書店などで、店主に強いこだわりのある書店です。
本を売ることではなく、濃いコミュニティの拠点となることや、特定のメッセージを発信することに価値をおいている業態です。
3番目の書店は地方と都市部の住宅地に多く、今、どんどん潰れています。
週刊誌と超のつく売れ筋本とノウハウ本、それにロングセラーの文庫本くらいしか置いておらず、
なんの特色もないけど、コストが安い(家賃が安く、バイトも使わず家族だけで経営してる)ので続いてるだけ、みたいな本屋ですね。
今はまだたくさんありますが、着実に消滅への道を歩んでいます。
書店といえば3の書店しか思い浮かばない人、1の書店にほとんど行かない人は、「ネット書店でも、てか、ネット書店のほうが新しい本に出会える」とか思うのかもしれません。
実際「ネット書店以下の価値しか提供できない書店」があるから「書店がどんどん減っている」んです。
ですが、この言葉はちょっと情緒的すぎると思います。
だって「書店が減っている」のではなく、「市場が求める価値を提供できないものが減っていってる」だけだから。
それは書店に限った話じゃないし、そもそも「問題」ではなく「進化」でしょ。
書店だけでなく他の店も、てか、ビジネスだけでなく人間でさえ、「市場が求める価値を提供できない」と、淘汰されてしまいかねません。
それは厳しい世界です。
ただし、メッセージを間違えないで欲しい。
「市場が求める価値を提供できるかどうか」は、生まれつき決まるわけでも、親が裕福かどうかで決まるわけでも、一流大学に行けたかどうかで決まるわけでもありません。
それは「マーケット感覚を持っているか」どうかで決まるんです。
経済的に問題のない家に育ち、教育熱心な親に育てられて一流大学に入り、一流企業に就職したのに、「あれれ?」な状態に陥ってしまってる人はたくさんいます。
彼らに足りないのがまさに「マーケット感覚」です。
そして、私がマーケット感覚を身に付けるために、もっとも役だったものこそがリアル書店でした。
市場における価値をあげたければ、「他の人はこの本も読んでいます」と言われることのない本を見つけ出すことが大事なのだと、気づけるかどうか。それこそが、大事な分かれ道なのです。
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