災害復興についての議論まとめ

昨年の 12月から月に 1回、地域再生のプロ、木下斉さんと「直前告知&アーカイブも24時間のみ」のゲリラ対談を配信しています。

一回目の先月は「コロナ対策」について話し合い、今月は「災害復興」について議論しました。(動画はすでに削除済み)

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個人的にとても勉強になったので、内容についてまとめておきます。

対談を聴かれてない方にはわかりにくいかもしれませんが、自分用のメモなのでご容赦ください。


1.阪神淡路大震災の復興について

a) 日本全国の自治体が「地震直後のToDo」を学んだ
例)
・発災後すぐに幹線道路を緊急車両専用に指定し、一般車両の通行を規制する。(そうしないと渋滞で消防車が現場にたどり着けない)

・発災直後に停電復旧を急ぎすぎると、壊れた建物から漏電し、大規模な火災原因となってしまう。ガスだけでなく電気の復旧にも、二次災害の警戒が必要

・その他、ボランティアに行く人のルール、被災地へ避難物資を送る際のニーズの確認など「発災直後のToDo」に関してさまざまな学びが得られた。


b) 行政がもともと再開発計画をもっていた地域でさえ、復興方針について「地元の人の意見」が分れ、復興に想定外の時間がかかった

・大規模火災で消失したのは、古い商店街が軒を連ねる木造エリアで、行政はもともと再開発計画をたてていた。このため発災直後、エリア全体に開発規制をかけ、個々人での復興はできなくなった。

・しかし、古い商店街で長年、店をやっていた人たちの中には、大規模な再開発型の復興に反対する人もいるし、新しく移り住んできた人たちとの確執ができるなど、地元住民の間に分断と対立が起こった。

・住民内の意見調整に時間がかかり、行政の進める復興には想定以上の時間がかかった。


c) 行政より早く動ける民間セクター主導の開発により、人の動きが変わってしまった

・遅々として進まない行政の復興計画を横目に、民間企業が近隣に商業施設や住宅を作り、行政の復興計画を待てない人たちが、それらの街で新しい暮らしを始めてしまった。

・このため行政がもともと描いていた復興プランはニーズを失い、完成時には「巨大なガラガラの商業施設」となってしまった。


2.東北・東日本大震災の復興について

a) 復興すれば「以前から続いていた人口減少が止まる」という非現実な前提をもって、復興計画が立てられた

・復興に数年以上かかるような大災害が起こった場合、通常、地域に全員が戻ってくることはない。このため、「人口減少は災害前より早く進む」という前提で復興計画をたてないといけない。

・しかし多くの被災自治体では「復興すれば全員が戻ってくる」ことを前提に復興計画をたてた。中には「復興資金で立派な設備を揃えれば、災害前より人口が増える」と主張した自治体さえ存在する。

・土地のかさ上げや堤防やダムの建設には数年以上かかる。そんな期間を仮設住宅で待ってでも「ふるさと」に戻ってくるのは高齢者だけで、「今この時点での数年」が極めて貴重な子育て世代は、何年も仮設住宅で待つことなどできない。

・あらゆる自治体は「災害の後は、災害前の人口には戻らない」という前提で復興計画を立てるべきである。が、それが理解されていない。もしくは「気持ち的に、できない」 このため復興資金で造られた施設の多くがゴースト施設となる。


b) 「未来を造る復興」ではなく「元に戻す復興」しか行えない仕組みになっている

・もともと人口減少が急速に進んでおり、震災がなければ「令和の大合併」により地域統合が行われるはずだったエリアでも、復興はすべて「災害が起こったときの自治体ごとに復興する」ことになる。

・国からの復興支援金も、被災した公共施設を建て直すだけならすぐに出るが、近隣市町村の公共施設を統合し、時代にあわせた新しい機能を持たせた施設を作ろう、みたいな話になると、検討に時間がかかりすぎて進まない。

・このため「とりあえず、震災前にあったものを作り直す」こととなり、「次の30年間、この地域に必要なもの」ではなく、「過去30年、この地域にあったもの」が作り直されるだけとなる。


c) 建造物には毎年の維持費がかかり、数十年後には更新費用(建替費用)もかかることを被災地は理解していない

・復興時は国から多額の資金が提供されるため、地域ニーズに合わない巨大な建造物が造られる。

・しかし建物は造って終わりではなく、毎年維持費がかかり、10年に一度は修繕が、20年に一度は大規模修繕が、40年後には建てかえが必要で、そのコストは国ではなく自治体の負担となる。

・これが地域住民の負担となり、地方の財政破綻を早めてしまう。

・なお、維持費や修繕費を考えずに建物を買うのは個人も同じ。

一戸建てを買えば、15年ごとに壁や屋根の修理、ユニットバスや給湯器の取り替えが必要になる。数百万円以上になるそれらの修繕費用を、住宅ローンを払いながら15年ごとに貯めなければならない、と理解せずに家を買う人がいる。

マンションでも 20年ごとに水回りのリフォームに数百万円かかる。この資金を(住宅ローンを払いつつ)貯められない人が不動産を買うと将来の家計が破綻する。


<木下&ちきりんの提言>

1.復興計画は平時に立てておく

どんな地域でも地震、洪水、津波、大火災などに襲われる可能性がある。行政は平時から住民を巻き込んで「もし街をゼロから作り直すタイミングがきたら、どんな街を造るべきか」を検討しておく必要がある。

多くの住民が家族を亡くすような大災害が起こってからでは、迅速かつ冷静な計画立案は不可能。住民間の意見の対立も調整できず、復興に時間がかかりすぎる。


2.復興時でも、国の補助率は 100%にはしない。維持費もきちんと計算する

・地元負担が 2割求められれば「タダなら建ててしまおう!」というムダを防げる。

・これから維持費を払っていく 50代以下の世代に復興計画を造らせる。
平常時は 70歳以上の長老が集まって政治をしていてもいいが、復興計画まで彼らに任せると「何があっても、ふるさとを取り戻す!」的なノスタルジー復興=過去に戻る方向での復興が行われてしまう。

大規模な復興が必要になった時点で、長老は引退し、50代以下の世代にリーダーシップを譲るべき。そうすれば、自分たちが払っていくことになる維持費にも目が向くようになる。


3.平時から「災害時の広域連携」について議論しておく
・市町村が合併したら失業する町長や町議会議員が統合を決める立場にいるため、市町村統合はなかなか進まない。

・けれど「災害時には近隣自治体で連合をつくり、協力して復興計画をたてる」という話なら、抵抗も少ないはず。

せめてそういう話し合いを平時からしておけば、「各自治体がそれぞれ元に戻すだけの復興」に陥るのではなく、「復興を機に新しい広域行政の形を模索できる可能性」が高まる。


3.山あいの集落が完全水没するような災害からの復興

a) 多くの高齢者が家を再建できない

山あいの集落に住んでいる高齢者は、普段はほとんど現金が要らない生活をしている。
家は親の代からの古い家でローンも家賃も払っていない。地域でコメや野菜をやりとりしあい、食費もかからない。家電もめちゃくちゃ長く使うし、すでに高齢のため教育費なども要らない。

高齢なので医療費負担も 1割のみ。てか毎日、農作業をしてるから、元気で病気にもならない!

こうした「現金支出が極めて少なく、少額の年金でもやっていける」地方の高齢者は、貯金も(必要ないから)持っていない。このため災害で家や家財を失うと、家を再建することなど不可能で(そもそもそんな年齢からローンなど組めないから)、何年たっても仮設住宅から出られない。


<木下&ちきりんの提言>

1.山間部の高齢者が災害で家を失った場合、家は行政が用意し賃貸で住んでもらうべき

=高齢者に自分で家を再建させたりしない。そんなことしても、彼らが亡くなった後、それらの家はけっきょく空き家になってしまう。

そもそも一戸建ては災害に弱い。頑丈で災害に強い集合住宅に住民を誘導するべき。


2.行政の重要なデータはすべてクラウド保存すべき

市役所を含め地域全体が津波や洪水で被災するような場合、紙で管理されていたり、市役所のパソコンのハードディスクに保存されていたデータはすべて失われてしまう。

このため復興支援にも多大な時間がかかる。住民の基本的なデータは、別地域のデータセンターやクラウドにバックアップしておくことが必須。

★★★

最後に、

そもそも「日常生活に車が不可欠」などというのは「困ったエリア」だという認識が必要。

都市間移動に車を使うのはわかるが、日常の生活に車が不可欠だと生活にコストがかかりすぎる。

多くの地方では、大人ひとりに一台の車が必要で、軽自動車でも年間数十万円がかかる。3人の大人がいる世帯では、年間100万円以上の車維持費が生活費に上乗せされ、家計を圧迫している。

自動車維持費は、給与の低い若いとき、子育てにお金のかかる中高年のとき、さらには定年後も含め一生、払い続ける必要があり、これが地方を貧しくしている元凶とさえ言える。

冬が来るたび「命を危険にさらしながら」雪下ろしをする必要があるエリアも同じ。

災害が起こったあとの復興では、「高コストでハイリスクな居住地に住む人を減らしていく」ことも重要。


以上です。
木下さんとの議論はとてもおもしろいので、これからも毎月一回、続けていきたいと思います。

基本、「24時間前に告知」「アーカイブも 24時間のみの保存」なので、ご関心のある方はツイッターでの告知をお見逃しなく!



 そんじゃーね

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