デフレの意味するところ

NTTコミニケーションズで顧客情報 1万 3000人分が入ったパソコンが盗まれたとの報道。

先日はNTTデータの社員が、全社員の情報が入ったUSBメモリを無くしたと報じられたばかりです。

これらの会社は日本の基幹情報システムを支えている会社です。数多くの自治体の情報システムを作り、維持メンテしています。

そういうところから、こんなにもお粗末に情報がもれるのです。

「あの会社はしっかりしている」というような言い方がどれくらい妄想に近いものか、わかりますよね。


バブル崩壊後、不況になり、この国の消費者は安いものばかり買うようになりました。

メーカーもサービス会社も競争に勝つために、どんどん価格を下げました。

日本は今や、他の先進国、もしくは中国の沿岸都市部などと比べても物価の安い国になりつつあります。


そんな中、ちきりんが絶対買わないものがあります。安いミンチ製品です。500円のハンバーグ弁当とか定食は食べません。

なぜなら今のような「低価格のニッポン」という状態に、直感的な不信感があるからです。

この国は、土地も狭く(地代が高く)、人件費も高く、光熱費も物流費も高いんです。なのに、なんでこんな安いものが存在するのでしょう?


理由として個別の材料費が不当に安く抑えられている可能性があります。

低品質のものを混ぜ込むことで安くしたり、鉄骨の量を減らして高層マンションを建設する、みたいな話です。

練り物、混ぜもの系の食品は、何が入っているのか消費者には全くわからないので、安いハムやミンチ商品を買わないのは、自分なりの防衛策です。


また、社員がやるべき仕事を全部「アウトソーシング」というカタカナ手法で外注し、下請けにだして人件費を安くし、値段をさげている会社もたくさんありそうです。

社会保険にも入れず、守秘義務やリスクマネジメントについての説明もトレーニングも受けていない外注の契約社員が、自分のパソコンに大量の顧客データを入れて作業する。

そういうやり方でコストを抑えたら、情報流出が起こらない方が不思議です。


時々すごい格安の海外旅行をみます。

12万円でヨーロッパ1週間・・どうやったら、そういう価格になるんでしょう? これを売ってる旅行会社だって商売でやってるはずなのに。

どこに“からくり”があるのか、考えてから買った方がいいです。


ひとつは「おみやげ屋さん巡り」です。

おみやげ屋は、ツアー客が買った分のキックバックを旅行代理店に渡しています。観光地を巡る時間を削ってでも土産物屋に寄らざるを得ません。(買わなくても一人の客を連れて行くといくらのキックバックがもらえる、という場合もあります。)

もうひとつは、「飛行機で移動すべきところを、長距離バスで移動する」方法です。

ひとりずつチケットが必要になる飛行機代や列車代より、何人乗せても一台いくらのバスのチャーター料金の方が安いからです。


でもバスで移動すると、移動時間が長くなるので、殺人的な運行スケジュールを現地の運転手に強いることになります。

日本人観光客の乗ったバスが路肩につっこんで事故にあったというニュースが一時期続きましたが、ああいうのって、「普通はそんな長距離をバスでは移動しないでしょ?」みたいなルートを走ってます。


★★★


「モノが安くなってよかったわ〜」とか言ってる場合じゃありません。

モノは、なんとなく安くなったりはしません。血のにじむような努力と(and / or )、手抜きによって安くなるのです。

もちろん、貧困にあえぐため高いモノが買えない人もいるけれど、「正直言えばそんなにお金に困ってるわけではない。だけど、少しでも安いものを買いたい」と、安さを求める人もたくさんいます。


でも思うのです。日本は“世界で一番物価の安い国”なんかになる必要はありません。

こんなデフレが長期に続くのは、明らかに行き過ぎでしょう。


実際には、そういう消費者の「一円でも安く」が、
・基本的な衛生管理もできていない飲食店、
・農薬漬けの輸入野菜、
・居眠り運転のトラックが山ほど走っている高速道路、さらには、
・「今日初めてやってきた契約社員に、顧客情報を丸まま渡して仕事させる」ような会社
を作り出しているんじゃないでしょうか。


私としては、「すごく困っているわけではないなら、あんまり安いものばかり買わない方がいい」と思っています。

自分でも、いいものには相応の対価を払いたいと思います。そうしないと、まともなものを供給してくれる会社がなくなってしまいます。


少なくとも、「安いことには理由がある」とわかって買うべきです。

ビジネスの経験のある人なら、なにかの商品をみた時、「これを 120円で売るには、どうすればいいのか」、ある程度は想像できるはずです。

なんらかの明確な理由なしにモノが安くなるのは、想像力の強い人には、ちょっとしたホラーではないでしょうか。



ではまた明日


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