国民総背番号制

数年前に「国民総背番号制」の導入が検討されましたが、反対が多く実現しませんでした。

その後、住民基本台帳ネットワークシステム(以下、住基ネット)が作られました。しかしこれについては、自分の番号を知らない人も多いのではないでしょうか。

住基ネットが普及しない理由は、この番号を知らなくても特に生活上困ることがないからです。

米国の社会保障番号のように、国民の ID として、銀行口座を開く、学校に入学する、資格試験を受ける、就職する、納税する、部屋を借りる、車や不動産を買う、年金を受け取る、医療保険を利用する、など、様々な機会に必要となれば、一気に普及するはずです。

住基ネットの構築にあたっては、相当な税金が使われており、「作ってみたけど、みんなあんまり使いませんでしたね、あはは」ではすみません。

この巨大なシステムの構築費って何十億、いや何百億円なんでしょう?「そのために使われた税金は国民一人当たりいくら?」「毎年どれだけの維持費がかかっているの?」などについて、このシステムの存在意義(メリット)とあわせ、是非とも情報開示してほしいものです。


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ところでこういった「国民ひとりひとりに固有の番号をつけ、社会システム全体でその番号を利用する」という制度に、真っ先に反対するのはいつも共産党や社民党で、反対の理由は「国家による国民管理につながる」というものです。

「赤旗を購入している人のリスト」や「護憲の会に出席した人のリスト」が番号で管理され、「権力に弾圧される」可能性を恐れているのかもしれませんが、それってちょっと時代錯誤ですよね。


そもそも権力がその気になれば、携帯電話を持ち歩いているだけで誰がどこにいるか把握されるし、電子マネーやクレジットカードの利用データをまとめれば、どこで何を買ったか、何を食べたかまで把握できます。重要な犯罪の容疑者については、警察は実際にそれらのデータを集めているはずです。

ですが、だからといって私達は携帯電話を捨てたりはしないし、そんな理由で電子マネーやクレジットカードを使わないと決める人はいません。

「国家がその気になれば、個人の情報を把握できる!」という危険性を過大に取りざたし、新たな技術や仕組みを生活に取り入れることを拒否するのは、進歩を拒否する愚行以外の何ものでもありません。


また、私に言わせれば、国民総背番号制の導入で本当に困るのは、権力者側の人たちと、悪いことをしている人達です。

この制度は脱税防止に強力な効果を発揮します。裏金作りやマネーロンダリングに壊滅的な影響を与えられます。また、オレオレ詐欺に使われる仮名口座の売買をする人の取り締まりも容易になります。

離婚・結婚や、養子縁組を繰り返して名字を変えることにより、消費者金融からお金を借りまくる人もいますが、名前で管理するからこんな裏道が生まれるのです。生まれてから死ぬまでずっと使う固有番号を使えば、そんなことはできなくなります。

死んだ人の口座をそのまま残しておいてマネーロンダリングに使ったり、資産家が赤ちゃんの名前で預金口座を開き数千万円の預金をして相続税逃れに利用したり、といったことも、情報を一元管理すれば相当程度、防止できるでしょう。


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日本には一元的な管理番号がない代わりに、多種多様な公的 ID が存在しています。

免許証には性別が載っていないけれど写真は載っている、保険証には性別が載っているけど写真がない、というように、記載事項さえ統一されておらず、それぞれのデータを別々の役所が管理しています。

多くの官庁がそれぞれに(税金から)予算を獲得して、自分達だけのシステムを構築、維持しているのです。


クレジットカードが多すぎると感じている人も多いですが、公的 ID だってパスポートに免許証に保険証に基礎年金番号、さらに印鑑登録証と住基ネット・・・こちらも多すぎるとは思いませんか? 国民一元番号を持つことの行政上、財政上の合理化効果は相当に大きいと思われます。


加えてちきりんが国民総背番号制の実現を早々に目指すべきと思う理由は、それが電子投票制度のための環境整備として不可欠だと思うからです。

もしも選挙の投票率が 80 %になったら世の中は大きく変わります。そして、自宅のPCや携帯からクリックするだけで投票ができるようになったら、投票率は大幅に上がるでしょう。

というより、私はこれ以外の方法で投票率を上げることが可能だとは思っていません。これしかない、と思っているんです。


そして電子投票制度を導入するには、一人が何度も投票していないこと、本当に本人が投票していることの確保が必要であり、その前提が「国民全員がひとりずつ固有の番号を持つ」という制度なのです。

「それじゃあ、誰がどこに投票したかもわかってしまうのでは?」と心配する人もいるのかな? そういう人の頭の中には、国家の巨大コンピューターが個々の国民の行動記録をすべて収拾し、分析し、個々人を監視しているというような「国家管理社会」の恐ろしい未来図があるのでしょう。

でも私に言わせればそんなの妄想です。

現在までずっと行われている国勢調査だって、質問表を個別に自宅まで届けにきて、家族情報をすべて記載した回答用紙を近所のおじさんやおばさんが回収に来ています。

それらのデータは最終的には電子化され、どこかのデータベースに保存されているのです。悪用しようと思えば今だって可能です。

けれども、そうやって集めたデータが、国づくりの基本データとして活かされているのです。情報管理のリスクだけを過大に考えるのではなく、そのメリットの大きさについてしっかりと考える必要があるのではないでしょうか?


ではまた明日


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