ちきりんさん、是非このブログの出版を!

詐欺まがいの事件の中には、「なんでこんなのに騙されるの?」というものがあります。

「100万円を預ければ年30%の利子が付きます」とか、「30万円の教材を買って勉強すれば、毎月100万円の収入が確実に得られます」というような話は、自分の親が言ってきても信じられないだろうと思うのですが、実際には騙される人も少なくありません。

一方で「なかなか巧い」のは、本人が騙されたと思わないもの、騙されたのかどうか確認できないようなものです。


たとえば、「なんらかのクリエィティブな分野でデビューできます!」という言葉は、多くの人を惹きつけます。思わず「だったら少々高くても投資してみようか!?」と思わせる力をもっているのです。

歌の上手な人に「あなたならきっとデビューできます!すぐにレッスンを始めましょう。まずはボイストレーニングのレッスン料として30万円を・・」ともちかければ、(自分の声や歌に自信がある人ほど)「おっ!」と思うのではないでしょうか。

音楽活動、作曲活動をしている人に「この曲なら巧くやればアルバムに入れられます。ついてはプロにアレンジを頼んだほうがいいので、その費用として20万円を・・・」という話がくれば、誰だって一瞬、いろんな妄想が(?)頭に浮かびますよね。

その後に「いいアレンジが仕上がりました!是非有名スタジオで録音しましょう。ついてはスタジオ代が・・・」と言う話になった時点で「あれっ?」と思う人もいるでしょうが、反対に「いよいよだ!」と興奮してしまう人もいそうです。

こういうケースでは、最終的に期待した結果がでなくても、「騙された」と思う人もいれば、「プロでも厳しい世界ですから・・」といわれて納得してしまう人もいるでしょう。

払った金額が受け取った便益に見合う金額だったのかどうか、経費が法外な金額ではなかったか、ということさえ確認しない人も多そうです。

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本に関しても、新聞や公募雑誌に「自分史コンテスト原稿募集」とか「出版するための原稿を探しています!」という広告がよくでています。

こういったものの中には、応募してきた人に「最終候補には残ったのですが、出版できるのは最優秀賞だけなんです。でもこの原稿をこのまま埋もれさせてしまうのは忍びない・・・」とか、「すばらしい原稿ですね!でもこういう分野は読者が少なくて、商業出版には向かなくて・・。」という話になり、最終的には自費出版や協力出版、共同出版という形で本にしましょう!と勧められるものがあります。

これ、仕組みをちゃんと理解して契約するならいいのですが、「本を出したい!」という人の気持ちが強すぎて細かいことを確認しないまま話が進み、トラブルになる人もいます。


契約パターンは様々ですが、「本を作るコストは著者が全額を払うのに、本が自分のものにならない」場合や、「製作コストが妥当であるかどうかの吟味が難しい」という点がよく問題になる点です。

本を作る費用というのは、紙代、印刷費用、製本代金などのほか、編集、校正、デザイン料などが含まれますが、同じような仕上がりや部数でも100万円未満というところから300万円という業者まであり、値段はあまりにばらばらです。

一般の人にとっては校正代金や製本代の相場なんてよくわからないし、「有名なデザイナーさんに頼むので、表紙デザイン料が50万円」と請求されても判断基準さえわかりません。たとえ自費出版であっても、その価格の妥当性は相当きちんと調べてから契約すべきものだと思います。


加えて、本の製作費用を著者が全額出したなら、できあがった書籍は全部「著者のモノ」となるのが自然です。(実際、自費出版ではそうなります。)本が自分のものであれば、友達や親戚には“ただ”で配ることができるし、もしも自己努力で販売できれば少しでも経費が回収できます。

ところが協力出版や共同出版という形になると、書籍はあくまで「公に出版される」ため、本は作者のものではなく「出版社のモノ」になります。この場合本が売れても代金は(書籍価格の一割弱に過ぎない印税を除き)著者には入らないし、家族や友人に配る分も本人が出版社から購入する必要があります。

そもそも著者印税が1割弱である理由は、残りの9割の中から出版社側が本を製作、販売促進するという前提があるからです。大半のコストを著者が払っているのに、本の販売代金が本人に入らないなんて変ですよね?

しかも、どんな形であれ本になれば著者は自分で販売努力を重ねます。製作費用の負担もしないのに売れた本の代金が手に入るのですから、企業側にとってはずいぶんありがたいことでしょう。


本来は、他の高額商品の購入の際と同じように、複数の業者から製作費用の見積もりを取った上で自費出版すればいいと思うのですが、自分の本が“全国の本屋に並びます!”と言われたり、“ベストセラーになれば夢の印税生活”といった言葉に心惑される気持ちもわかります。

特にここ数年の間に多額の退職金を手にして定年退職した団塊世代の人たちにとっては、「自分の半生を振り返る本を出したい」「自分が学んできたことを形に残したい」という人も多く、こういった話に乗ってしまう人も少なくないのでしょう。

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音楽や舞台で夢のデビューを果たしたい若い人から、長い下積み生活をなんとか脱出したい万年組、さらには退職金を使って人生を総括したい団塊世代まで、どの世代の人にも「騙されていてもいいから夢をみたい!」という気持ちがあり、いろんな分野にその気持ちを利用したビジネスがでてきます。

特に最近はMixiのグループなどで、「自分が何に関心があるか」ということを公にしている人がたくさんいます。商売を仕掛ける側にとってはこんなに便利なことはありません。

あるグループには「作曲に関心がある人」、別のグループには「俳優希望の人」「小説家になりたい人」が集まっているのですから、魚がいるとわかっている釣堀に針をたれるようなものです。

夢にお金をかけること自体は悪いことではないですが、数十万円、100万円といった出費は「趣味のコスト」としては非常に高額です。もちろん「職業訓練費用」と考えてもそれなりの出費でしょう。

どんな名目にしろ「これだけのお金がかかります」といわれた時点で、自分が得られるものが本当にそのコストに見合ったものなのか、その費用総額はいったい自分の生活費の何か月分に相当するのか、よくよく考え、慎重に吟味すべきかと思います。


まっ、ちきりんなんかも「ちきりんさん、是非このブログの出版を!」とか言われたら、ホイホイ200万円くらい払ってしまうのかもしれませんけど。

ではでは〜