「人間がやるエコ」の時代 What or How ?

エネルギー消費について、環境問題について、いわゆる“エコ”について、今年が変節点であることは、多くの人が指摘&感じているし、実際にそーなんだろう。問題は、これがHowとWhatのどっちのステージなのか?ってことです。


70年代のオイルショックを経て日本は“省エネ”モードに入った。“高エネ時代”の1970年代から“省エネ時代”の1980年代に移行した。でも、それは消費者には全然関係なかった。

なぜなら省エネというのは、「電気やガスを利用する機器を作るメーカが、同じ効果を少ないエネルギー量で達成できる機器を開発すること」だったから。

“一ヶ月の電気代が10年前の商品の半分です”みたいな冷蔵庫やクーラー。リッターあたり走行距離が何割増しになった自動車、一定の温度になると自動的に消えるファンヒーター。どれもこれも「機械が勝手にやってくれるエコ」だった。

つまり消費者は全く行動を変える必要がなかった。消費者は相変わらず冷房をガンガンかけて、でかい冷蔵庫を備えて、車で遊びに行こう!ってな感じだった。「エコってのは機械がやるもんで、人間様がやるもんじゃあなかった」わけ。

★★★

ところが、今年からは多分違うのよね。エコってのは機械がやるもんじゃなく、人間がやるもんになる。「消費者の行動が変わる」エコになるのだ。それが2008年以前と以降の違いになる。ただ、人間の行動の変わり方が、「What」なのか「How」なのかが、まだ見極められない。

たとえば、「タクシーや自家用車をやめて、バスや電車や地下鉄を使いましょう」と。これはHowなんです。「どうやって移動するか」という方法論が変わるわけですよね。「移動する」ということ自体が変わるわけではない。


いや、なんでそんなややこしいこと考えているかというと。ちきりんが今年の前半6ヶ月に受け取った株式からの配当が30万円弱。その4分の1はトヨタ自動車からの配当なんです。

で、昔「トヨタ自動車の株をかって年金代わりにしよう!」という本がでていたのを思い出したのだ。センス悪くないタイトルだったとは思う。(読んでないので中身はしりませんが。)

たしかに半年で7万円以上もらえるのだから、今の6倍のトヨタ株を保有していれば配当だけで毎月7万円もらえるってことで、これって基礎年金より多いじゃん、という考えは悪くない。しかも、「政府とトヨタ自動車とどっちが財政的に健全か」というと圧倒的に後者だし、もっといえば「どっちが信じられるか」「どっちが将来性あるか?」だって、後者だと思う人も少なくないだろう。

だったら「年金払うより、お金貯めてトヨタ株買おう」と思う人がいてもおかしくないし、センスとしては悪くないと思うのよね。

ただ、じゃあ実際数十年の単位で見た時に、本当にトヨタ自動車という会社に将来性があるのか?という話をすると、当然に「そもそも石油で動く自家用車に未来があるのか?」という今回の石油高騰なりエコ社会への転換なり、そういうことと絡めて疑問符を持つ人がいるのも当然だと思う。

ちょっとそれるけど「若者の自動車離れ」みたいな話がよく言われるが、それとトヨタ自動車の業績なんてなんの関係もないです。日本の若者の数なんてどうせたいした数じゃない。全員が車を買うのをやめても、となりの国の「ひとつの省」の若者が車買えるようになったらその方が人数多いですから、みたいな規模なんでね。


戻りましょう。

★★★

この「エコの時代に自動車産業、もしくは、トヨタ自動車に、将来性はあるのか?」問題は、今後のエコが「How」の時代なのか「What」に突入するか?で大きく異なる。

もしそれが「How」変化であるなら、すなわち「移動の方法が変わる」のであれば、トヨタ自動車は非常に可能性のある会社だ。だって、プリウスを含め、ガソリン以外の動力でも動く「なんらかの新しい移動手段の開発競争」になるわけでしょ。

ガソリン車の時代が続くなら、トヨタもホンダも韓国や中国のメーカーにそのうち勝てなくなるはずだった。家電がそうなりつつあるように、技術が成熟してしまった商品って技術力以外が勝負になっちゃう。でも、「一定のエコ基準を満たさないと売らせない」と先進国が決めるだけで、これらの国の企業は「世界で一番」にはなれなくなる。

これ、すごいラッキーなことですよ、日本の自動車会社にとっては。


基本的に、「欧米の会社」→「日本の会社」→「韓国の会社」→「中国の会社」というように主導権が移ってきたのに、途中で「あっ、このスペックの商品はうちではもう販売禁止です」って言われちゃうんだよ。

もちろん中国とインドだけで売れればいいのだ、という考え方もあるだろう。それだけでも先進国全部合わせたよりでかい市場なわけだからね。

なんだけど、もし、欧米も日本もガソリン車以外の車ばっかになっちゃって全く空気が汚れてないのに、インドと中国は経済発展とともにすごい量の車が売れて走っててそれが全部ガソリン車で国中“すす”だらけで、って状況は多分放置できなくなる、と思う。彼らの政府も。

そんなことになったら優秀なインド人はもうシリコンバレーから戻ってこないし、今は世界規模で人が動くから「ひでーなうちの国」ってのもわかっちゃう。

それに、いい会社ってのはいつだって「先進国で一番売れる会社」を目指すもんだし。


というわけで、「How」側に動けば、「再び技術開発の時代がくる」。「技術的には成熟してしまった既存商品の大量生産の時代」ではなくて。

★★★

一方「What」が変わる、すなわち「移動自体が少なくなる」ということが起るかどうか、というのは別問題だ。

たとえば、「みんな小学校から大学まで家の近くで通え」とかね。「大学だからって、わざわざ新幹線乗って東京にでてこなくていいさ」とか。

通勤だって「世田谷に住んでる人は世田谷で働いてください」みたいな、したがって通勤というもの自体が消滅するような、そういう「What」が変わるとね、運輸手段自体が不要とまではいわないが需要が少なくなるでしょう。

食物だって「とれた畑から100キロ以上動かすのは禁止。輸入食品は港から100キロ以上遠いところに運んで販売するのは禁止。」とかになったら「近くでとれたものを食べる」世界になる。これは「What」が変わるってことなんです。相変わらず“あきたこまち”を九州まで運ぶんだけど、その運び方を変えます(=Howを変えます)という話ではないわけ。

こうなるとさすがに運輸機器製造会社の未来はかなり厳しい。


みんな生まれた街で小中高、大学にも歩いて、もしくは自転車で通い、ごくごく近いエリアにある会社に勤める。近隣でとれた食物を食べ(近くの港に輸入されたものを含む)、遊びにいくのもディズニーランドとか遠いところにはいかない。近くの遊園地に行く。

多分、結婚相手も隣町のあの娘、なんだよね。結婚式も都心のホテルじゃなくて近くの市の施設でいいし、自然と親戚の住むエリアも近くなるから冠婚葬祭でさえ長距離の移動が不要になる。
企業だって「支店で働く人は全員そのエリアの人を雇う。」みたいになったりね。

てな生活になると、輸送自体が減るよね。これ、日本だと奇異な感じがするかもしれませんが、今でも南仏とか欧州の田舎なんかだとそーゆー感じなわけで、ありえないわけではない。「一生をこのエリアで過ごす」みたいな人って今でもたくさんいるだすよ、先進国でさえ。

こういう方向、つまり「What」が変わる方向にいくと、輸送、移動機器は需要自体が減る、ということになる。そうすると、トヨタにも川崎重工にも未来はない。


しかし、「How」の変化なら、日本の輸送機器メーカーは基本的にとても有利だ。たとえば田舎なんて皆が車を持っている。そうしないと生活できないからね。だから「軽自動車」とか売れまくるわけです。この方向だと、将来「中国の東方汽車から40万円軽自動車を輸入!」みたいな時代が来たかもしれない。

しかし、「How」が変わり、田舎でも15分おきにミニバンが走るようになったとしましょう。しかも電話で呼べば家の前までくるし、降りる場所も病院でも友人宅でもスーパーマーケットでも、好きなところまで行ってくれます、と。ある程度多くの人が一斉に自動車を手放せば、相当の需要ができるサービスだし、軽自動車を家族3人が3台持つよりは年間コストは安く利用できるんじゃない?という気がするわけ。

実際、高齢化も進むわけだし、そういうシステムに「街全体で移行しましょう」ってのは非現実的ってなほどでもない。という気がする。


するとね、そういうミニバンみたいな「新たなタイプの自動車」のニーズが大量発生するわけです。軽自動車は売れなくなるけど、「GPS装備で“呼び出しボタン”を押したお年寄りの家をすぐにナビに表示して、一番近いバスが駆けつけられるようにシステムが組まれた“電気で動くコミュニティバス”」は売れまくる、みたいな感じになる。うまくいけば、日本だけでなく欧米の田舎でもそういうのが必要になる。しかもそれは、中国の自動車メーカーでは入ってこれない市場として出現する。


ってなことが起っても全然不思議でない。



誰が得しそうか?

悪くないでしょ。

★★★

もちろん、サミットの身勝手な提案にインドと中国が即刻「しらん」と言い切ったように、多くの国ではまだまだガソリン車は相当程度売れ続ける。まずはこの市場を制することができるかどうか、だ。

しかし、石油の高騰と、「人間がエコする時代」への潮目の変化は、結構大事なファクターだとも思う。



そしてその変わり目の方向が“Howならトヨタ株買い増し”、“Whatなら買い増しはしない”。どっちかなあ・・・



ああ


未来を見る目



ほしいよね。



んじゃ