革命=支配層の逆転

「革命」とは何でしょう? どういう条件があれば、私たちはそれを「革命」と呼ぶのでしょう?

「産業革命」や「IT革命」という言葉はよく聞きますが、火を使えるようになったことや、電話の発明について、「火革命」、「電話革命」とは言いません。

また、フランス革命、ロシア革命とはいいますが、明治革命ではなく明治維新だし、中国に関しても、ロシアと同じように共産革命を実現したはずなのに中国革命とはあまり言いません。「辛亥革命」や「文化大革命」の方がよほどよく聞きます。


こういう例を見ながら、「何を革命と呼び、どういう場合は革命とは呼ばないのか」と考えてみると、「権力の交代が起こった場合」のみ革命と呼んでいるように思えました。

今までの支配者層が没落し、それまで抑圧されていた層が権力を握る。支配者と被支配者のふたつの層が逆転したら革命と呼ばれるのです。


たとえばフランス革命、ロシア革命では、支配者層である王侯貴族層が没落し、一般市民や労働者が権力を掌握します。社会の支配者層の交代が起った。だから革命です。

明治維新は、英語で“restoration”、復帰とか復古というニュアンスの言葉が使われているように、「天皇に権力が戻った」と解されていて、権力層が逆転したわけではなく、「天皇→将軍→天皇」に戻っただけです。大政奉還ってまさにそういうことですよね。だから革命ではなく維新。別に庶民に権力が移行したわけではありません。


中国の場合も、共産党国家の樹立の際、中国共産党が戦って勝った相手である中国国民党は権力者ではありませんでした。第二次世界大戦後の混乱の中で、共産党と国民党が争ったわけですが、それまで権力の座にあったのは彼らのいずれでもなく日本であり欧米列強でした。なので国民党に勝ったことを「中国革命」と呼ぶのは馴染まないのでしょう。

その前の辛亥革命では、“清朝”という王朝・帝政が崩壊して共和国に移行したわけですから、まさに革命です。また文化大革命も、権力の座にいて社会を率いていたエリート、知識層を完全に排除して、貧農や社会の底辺の労働者層に権力を奪還しようという運動なので「革命」なわけです。


産業革命も、もし起こったことが技術革新だけであったなら「革命」とは呼ばれていなかったでしょう。あの時は、技術の大変革に伴って、社会の権力層も変化したのです。

端的に言えば、「不労所得で食べていた層=領主である王族・貴族」が没落し、「工場を作り、事業を興して食べていく層=企業家、資本家」が現れて、彼らから権力を奪いました。


「チャタレイ夫人の恋人」という有名な小説がありますが、あの小説の時代背景はまさに産業革命が起こりつつある時期です。

小説の中で貴族達の会話には、「最近、企業家どもの羽振りがよくて・・」とか、「なんと名門の○○家が破産したらしい」などという話題がでてきます。チャタレイ夫人が馬車の中から見る風景も、「最近は工場や労働者が増えてきて町の様子もすっかり変わってしまった」と描写されています。

この小説の中心テーマは、女性の、性を含む人間性の解放なんですが、その背景として“食わねど高楊枝的”な貴族文化と、“見栄や外聞にとらわれず、人間としての感情を取り戻していく女性”が対比されており、産業革命の勃興と共に様々な意味で崩壊していく貴族社会が描かれています。

結果として産業革命は、貴族層を社会の支配層から引きずり下ろし、爵位を持たない平民層の企業家達が権力をもつ時代の幕開けを演出しました。だから「革命」なのです。


実はちきりんは「IT革命」について、つい最近まで、なぜこれを「革命」と呼ぶのかがわかっていませんでした。火や電話と同様に画期的な技術、ツールであることは確かでしょう。でも、便利になっただけでは革命とは呼ばれないはずです。「火革命」という言葉がないのは、火が権力の移行(逆転)を起こしていないからです。

たとえば、ネットの普及によって旅行代理店や本屋など流通・仲介業の多くが廃れようとしています。でも、そんなのは「権力の移行」とは言い難いですよね。だって、そもそも今まで流通・仲介業者が権力者であったわけではありません。

ネットで起業が容易くなったので、資本家から起業家に権力が移行するのか?とも考えたけど、これもいまひとつです。

なぜなら起業家が今まで「抑圧されている層」であったか?というと、決してそんなことはないからです。日本は昔から松下幸之助氏や本田宗一郎氏などのすばらしい起業家が生まれている国であり、「IT革命前は起業家は抑圧されていて成功できなかったが、IT革命により権力をつかむことができた」わけではないです。

IT革命というからには、「今まで権力をもっていた層が崩壊し、反対に、抑圧されていた層が権力を握るはず」なのですが、「何から何に権力が移るのか」という点が上手く言葉にできずもやもやしていました。


でも最近それがようやく明確になってきました。ITもやはり「IT革命」と呼ばれる条件を備えています。それは確かに「権力の移行」を起こそうとしています。今まで権力を持っていた層が崩れて、今まで抑圧されていた層に権力を移すことになるでしょう。これはまさに「IT革命」と呼ぶべきなのです。


具体的に「何」から「何」に権力が移行するのか、という点については、それぞれの人が自分の言葉で表現してみてください。

興味深いのは、今は、自分はどちら側にいるのかさえ、わかりにくい時代だということです。チャタレイ夫人の時代なら、自分が貴族なのか、そうでないのかは明確でした。しかし今はこの革命で没落する人と、新たな支配層につく人は見た目では区別さえつきません。


当時の貴族達は、庶民が暴力をもって貴族制を打倒する革命については怖れていましたが、まさか新しい技術や産業の勃興が、権力を貴族層から奪っていくとは思っていなかったでしょう。

しかし現在は、権力側にある人の中にも「IT技術によって権力の移行(剥奪)が起るかもしれない」と恐れる人は少なくありません。だからこそ彼らは抵抗しています。私たちは今まだこの革命の渦中におり、IT革命はまだ完遂していないのです。

フランス革命、ロシア革命のような政治的で暴力的な革命の他に、産業革命やIT革命のような「技術が起こす権力層の移行」という革命が起りうるのは、とても興味深いことです。私もこの革命の先行きをとても楽しみにしています。


そんじゃーね