ブラボーな“シャガール展”

東京芸術大学の美術館で開催中の シャガール展を観てきました。

今年はいい展覧会が多いですね。いくたびに「これが今年最高かも!」と思います。

今年辺り開催のものは、多分リーマンショック前の企画なんだよね。だから“予算が潤沢です感”に溢れてます。


観ている途中から、「才能ってのは、努力や根性や技法や修練とは全く異なる次元にあるんだ。才能なき者はどんなに頑張ってもその領域に入ることはできない。努力した人にはまた別の称号や賞賛が贈られる。でも、それは才能ではないってことだなー」って痛感しました。

そこでは、芸術とはこういうものなのだと示されてるんです。

色彩、構図、線の運び。すべてが天才的。


少年の頃の彼は画学校に入りたかった。そこに自分の人生があると思ったからです。

でもやさしい母親は彼に言いました。

「ママはアナタに絵の才能があると信じているわ。でも、もしかすると、事務員という職業があなたには合っているかもしれないとも思うのよ」と。


こんな天才にも、母親というのは、平凡で幸せな人生を望むものなのね。



作品ももちろんすばらしいのだけど、展示手法の巧さも印象的でした。

シャガールの人生や絵の系譜をたっぷり堪能でき、新たな学びも多かった。パリのポンピドー美術館から借りてきての展示ですが、現地で観た時とはまた違った角度から観賞できたです。


加えて、約1時間のシャガールの人生を追ったドキュメンタリー映画が上映されています。必見。観ていて涙がでたよ。


「既存の表現方法への敵意を常に持ち続けた」という言葉。

こんな大御所になって“既存の方法論への”しかも“敵意”を持てる、ってのはすごすぎる。

普通は“既存の方法をレバレッジしていかに楽するか”を考えるんですよ。凡人という名の普通の人はね。


彼の作品をくさした批評家にたいして「オレは頭の悪い奴は相手にしない」と言い放ったシャガール。

わかるよ。アホには説明してもわからない。すばらしきかな芸術家の本音。


映像では 1964年に彼が手がけたパリ・オペラ座(旧)の天井絵も紹介されてた。あの天井絵は、ちきりんも見た瞬間に息を呑んだ。圧倒される。オペラ座はシャガールの館のようです。


もうひとつこの展覧会で印象に残ったのは、「歴史を生きる芸術家達」ということ。

帝政ロシア(現在のベラルーシ)にあったユダヤ人居住村で1887年に生まれた彼は、差別される側の民としてロシア共産革命に期待し、そして失望した。パリに留学(移住)してヒトラーのパリ侵攻を経験しています。

アメリカに亡命もし、そこで最愛の妻を亡くす。

なんとヒトラーは、シャガールの作品を始めいくつかの絵を焼却処分してるんだって。


当時マティスは「亡命中の芸術家展」という皮肉な展覧会を主催しました。ピカソもそうだけど長寿の芸術家は皆、歴史の中を生きてます。

最後は南仏で新たな家族と穏やかに暮らしながら、愛に包まれた画家として、波乱に満ちた人生の集大成と言える多くの作品を描き続けました。


ずっと後でシカゴの美術館に記念作品を作成したシャガールは、そのこけら落としの式典で、“French by adaption, and a citizen of the universe”と紹介されました。

帝政ロシア支配下の貧しいユダヤ人居住地に生を受けた少年がここまできたんだ。と思うと胸が詰まる思いがしました。


具体的な絵のリスト(ちきりんの覚え書き)はこちらで → シャガール展に行ってきた


そんじゃーね。


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