A I のある生活 <イメージ編>

夏に予定している「第三回 Social book reading with CHIKIRIN 」(日程はまだ決めてません)のための、A I シリーズエントリです。

第一回: A I (人工知能) <冬の時代を超えて>
第二回: A I 開発 <新しい主役の登場>

三回目の今日は、具体的な活用事例を見ることで、「A I の存在する未来の生活」について想像を膨らませてみましょう。


今、指向されている(夢見られている)A I の時代とは、

コンピュータは今後、急速に進化し、やがて人間に匹敵する、あるいはそれを凌ぐような知的能力を持つようになる。いずれ人間はコンピュータに『ああしろ、こうしろ』と命令するだけで、あとはコンピュータがまるで召使かロボットのように人間の面倒をみてくれる

世界です。(括弧内は人工知能を研究するジョン・マッカーシー氏の言葉として掲載されている部分の引用)


たとえば、自動車に乗り込み「○○に行きたい」と言えば、自動的に運転が始まり、目的地まで車がかってに走行するといった、車の自動運転はその典型例です。

走行中に「おなかが空いたから次のファミレスに寄って」と言えば、車は最寄りのファミレスの駐車場に滑り込みます。

でもその際、向こう10キロにファミレスが無ければ、「ファミレスは無いのですが、コンビニは2キロ先にあります。どうしますか?」とカーナビが聞き返してくる。そんな感じです。


スマホでは iPhone に Siri という音声操作機能が付いています。ユーザーがやりたいことを音声で指示すれば、 Siri はそれを聞き取り、必要なサイトやアプリにユーザーを誘導します。

「渋谷で 3000円以下で雰囲気のいいイタリアンレストランを探して」と言えば、“ぐるなび”などで検索した結果ページを表示してくれ、

「30万円以下で買える格安な I T 株を見繕って」といえば、売買代金30万円以下、PERが低い I T 関連企業株式のリストを yahoo finance で検索して(結果を)教えてくれる。


こう書くと「あれっ?」って思う人もいますよね。「それってグーグルがやろうとしてることじゃん?」って感じでしょ。その通りです。この 2社は完全に同じ分野での主導権争いを繰り広げてます。

だからアップルは、(まともな地図も開発できてない段階から)グーグルマップを iPhoneの地図アプリから外してユーザーに大ブーイングを受けたり、使用する検索エンジンをグーグルからマイクロソフトの Bing に変更しようとしてるわけです。


もちろんフェースブックも同じことを考えています。「経理担当者がやめちゃったんだけど、誰かいい人いないかな?」と呟けば、フェースブックが「経理の経験があり、最近、会社を辞めたそうにしてる人」のリストを出してくれ、

「今日取引先で会った、○○さんって女性がちょっと素敵だなって思ったんだけど」と呟けば、「その人は前に一度、結婚してたみたいですが、今はフリーみたいです。ちなみに今までに付き合っていた男性のタイプからいうと、あなたは彼女のタイプとはちょっと距離があるみたいですけど」と、彼女が今までアップした写真の中から、男性とのツーショット写真の一覧を提示してくれるでしょう。

それに先日は、男女が付き合い始める前と付き合い始めてからでは、フェースブックへの投稿傾向が変化すると、統計的に分析されていました。そういうのを利用すれば、「彼氏はいるみたいですけど、あんまり巧くいってないみたいですね」まで教えてくれるのかもしれません。A I 恐るべし・・・です。


グーグルは上に挙げたような自動運転車やロボット開発も進めているようですが、本丸の検索部分では、「セマンティック検索」=人間の意図を理解する検索エンジンを進化させています。

今でも「スティーブ」って(検索窓に)入れて検索するだけで、右側にスティーブジョブズの写真から生年月日、死亡日時まで、基本的な情報を全部、リストアップしてくれます。

キーワードに関する「サイト検索」の結果はページの左側下に表示されますが、右側には「あなたが知りたいことはコレですよね?」と、グーグル様( A I )が判断した情報が提示されているわけです。


ちなみに、「フランス 人口」と検索すれば、下記がトップに表示されます。


これはもはや「ウェブサイトの検索結果」ではありません。グーグルは、私が知りたいことへの回答を、そのまま返してきています。

しかも(上記画像には映っていないので自分でやってみてください)グラフに載っているドイツ、イタリアの人口に加え、右側にはイギリス、スペイン、アメリカの人口も提示されており、

「へー、フランスの人口は 6570万人なのかー。でもそれって、他の西欧諸国の人口と比べてどうなの?」という、「きっと次に検索したくなるだろう質問への答」もグーグルは先回りして提示しているのです。


★★★


私もいつも苦労するのが、旅行のアレンジ。あれって今はまだ、ものすごく頭を使う必要があります。

「 3泊4日だから、まずは訪れたい観光スポットを決めて、それに便利な回り方を決めて、ホテルを予約して、交通機関を予約して・・・」と、様々な作業を同時並行的に進めなくてはならない。手際が悪いとやたらと時間がかかります。


でもグーグルが目指しているのは、あたしが検索窓に「北海道 一週間の旅行」と放り込めば、
・お勧め観光スポット
・お勧めホテル
・交通機関の選択肢
・予算概算
などを全部まとめて返してくれ、あたしはそれぞれの横についている「予約する」というボタンを押せばいいだけ、みたいな状況です。


上記に示した「フランス 人口」の検索結果と同じように、「北海道 一週間の旅行」と検索すれば、その下にあたし用の旅程票が提示される、ってことですね。


北海道の旅行というだけでは範囲が広すぎると思うかもしれませんが、グーグル様はこれまでのあたしの検索履歴、広告クリック履歴、さらには、あたしのメールの内容(含む 楽天で何を買ってるか)までご存じですから、

・ちきりんはスキーはしない
・温泉は大好き
・お刺身を含め、海の幸が大好き
・予約するホテルの予算は、だいたいこれくらい
・歴史遺産や美術館を好む
・札幌には何度も行ってるが、それ以外の街はあまり訪れたことがない
などを全部、把握してます。

だから、提案されるプランはそれらの「あたしの好み」を完全に反映したものになっているはずです。


★★★


また、G-mail を一定期間使った人には、届いたメールをグーグルの A I が重要性や緊急性で自動的に分別し、メールボックスを開けた際には、優先度の高いメールから表示される、くらいのことはスグにでも実現しそうです。

この優先度は、ユーザーがこれまでどのメールに素早く返事してきたか、といった傾向から判断されているわけだから、同じメールでも人によって異なる優先度が適用されることになります。

もっと進めば、届いたメールは最初から「私がきっと書くであろう返事」のドラフトとともに示されるようになるかもしれません。

これも、「こういったメールには、ちきりんはいつもこういう返事をしている」というデータから判断するわけですから、同じメールが届いても、人によって異なる返事案を生成してくれるはず。


うーん、これは便利では!?


そういえば最近はグーグルグラス(コンピュータ付の眼鏡)が発売されました。倉庫でのピッキング作業など、業務用目的では既に大活躍してるらしいですが、今後は普通にあれをして街を歩くと、

・ふと目にとまったレストランの上に、その日のランチのメニューが(視界の中に)表示され、
・部屋探しをしてるなら、希望エリアの駅に降り立ってぐるりと周りのビルを見回すだけで、それぞれのマンションの空き部屋情報と家賃などが(同じく視界の中に)表示され、
・「あれ、この人どっかで見たことある?」と思ったすれ違いざまのおばさんの顔を凝視すると、そこに、ちきりんのイラストが表示されたりするんじゃないでしょうか・・・


★★★


物理的なロボットに A I が組み込まれれば、寝たきりの人が表情や言葉で指示するだけで、それらをセンサーや音声認識技術で読み取り、
・食べ物を持って来たり、
・オムツを替えたり、
・痰の吸引をしてくれたり、
・救急車を呼んだり、
するようになるかもしれません。

毎日の服薬指示を言葉でするくらいは朝飯前でしょう。(毎日きちんと薬を飲むというのは、高齢者にとってそれだけで非常にチャレンジングな作業なのです)


介護用ロボットの場合、「少し離れた場所にいる人間とまったく同じ動きをしてくれる」だけでも、ものすごく役にたちます。なぜなら介護は力仕事で、多くの人が腰痛などに悩まされているからです。

人間はすこし離れた場所で「エア介護」をし、その動きを(人間が着ている介護服についているセンサーから送られたデータで)読み取ったロボットが、ベッド脇でまったく同じ動きをし、被介護者の体を動かしたり、着替えを手伝ったりしてくれたら・・・介護に体力が要らなくなります。

そうすれば老老介護もラクになるし、体力のない小柄な女性が、巨体の男性の介護をするのも可能になります。

A I 搭載のロボットの場合、それらの「エア介護」を繰り返すことで次第に「自分が何をすべきか」を学んでくれるかもしれません。そうすれば完全な「自動介護ロボット」の出来上がりです。


★★★


ロボットを「一人一台」所有する時代になり、そのロボットの搭載する A I が持ち主の思考や行動から自動的に学び、その思考判断レベルを上げていくならば、ある時点で「あたしの代理ロボット」みたいなものができあがる可能性があります。

レセプションに呼ばれた時、そのロボットを代理で出席されれば、彼女はまるで「あたしのように」振る舞い、話し、名刺交換をして、写真を撮って帰ってくるのです。

もちろん「話す・聞く」のところだけ、遠隔場所にいるあたし(本人)が行ってもいいでしょう。

ロボットの目を通して送られてくる「現場の様子」を見ながら話をし、別の用事があるときは「自動運転ボタン」を押せば、その間は、ロボットが自分で判断して、その場に適切な言動をしてくれる。。。

リアルなアバターが登場するということですが、お金持ちで多忙な人なら、ひとりで何台ものロボットを駆使し、今以上にハードに働くことも可能でしょう。


家庭内でのロボット利用も、お掃除ロボット「ルンバ」の大ヒットを見る限り、これからもどんどん進化するはず。

とある共働き・子育て中の女性は、「あたしが指示しなくても率先して家事をやってくれるのはルンバだけ」と言ってましたが、彼女がこのロボットと比べているのは明らかに(ごく身近に存在するとある)人間です。


ルンバを作っているアイロボット社は、地雷除去ロボットや原子力発電所内で作業をするロボットなども作っています。

今、日本は建設作業員が不足していて、どこでも工事がなかなか進まないのですが、海外からの労働者輸入に加え、工事現場ロボットなどもこれからは増えてくるでしょう。


ネット通販の普及により、小口の宅配サービスも需要が増えていますが、あの配送所や仕分けセンターでも、今はあまりに多くの人が働いています。

昔は多数の人が働いていた工場でも、機械化が進み、今はほとんど人がいないという工場もあります。配送センターも今後はもっと自動化するだろうし、都心のマンションへの配送なら、一階のエントランスまでは人が運べば、その後、「何階の何号室にこの荷物を配送する」といった部分は全部、ロボットが担当する、なんてことも可能そうです。


こうして、人間がやるにはきつくて大変、もしくは、危険、といった分野でロボットの普及が進むとしたら、どこかの時点で「戦争をするロボット」が開発されることは自然な流れです。

しかもそのロボットは A I を搭載しています。自分の判断で勝手にミサイルや散弾銃を発砲したり、地雷を埋めたり、装甲車を運転してビルに突撃したりするロボット。

勝手に市街地の上空を飛び回り、センサーが捉えた軍事施設(だと A I が)判断したものに爆弾を落とすロボット、などです。

なお、自律性をもたない戦争ロボットはすでに使われています。無人航空機プレデターは、遠隔地から米軍の兵士が操縦しているわけで、戦闘機が撃ち落されても米兵は一人も死にません。


ロボット同士が戦争をするなら「人間同士が殺しあうよりマシでは?」って気もしますが、「相手軍はロボット、自軍は人間」って戦争は勘弁してほしいですよね。

あと、戦争で「降伏するタイミング」も(アタマに血が上ってしまっている軍部の人間)じゃなくて、A I 戦争戦略ロボットに判断させたらいいんじゃないでしょうか。先の大戦で考えれば、そうしておけば、確実に広島に原爆が落ちた直後に降伏できてそうです。

さらに巧く行けば、開戦の際に「やめときなさい。絶対勝てません」って判断されてて、無謀な戦争に突っ込まずに済んだかも。

どうせ戦争にロボットを使うなら、その辺まで踏み込んでほしいものです。


★★★


他にも、Todai Robot Projectでは、センター試験、二次試験を突破し、東大に合格する人工知能の開発が進められているし、ロボットに小説を書かせたり、曲を創らせようという試みも行われています。

将来は、「 A I に創らせた曲を、自分が作曲したと偽っていた作曲家」が糾弾されたりするんでしょうか・・・


また今後は当然、「コンピュータが合格点をとれるような試験で人間をスクリーニングしてていーのか、東大?」といった議論がでてくるし、小説や作曲など、人間が自らやりたいと積極的に考えることまで機械にやらせる意味は何なのか、問われ始めることでしょう。

もちろんこれからの「Chikirinの日記」のライバルは、「自動時事エッセイ作成ソフト」だろうとも思います。(冗談でもなんでもなく)


以上、とりとめもなく書いてきましたが、事例をアレコレよむことで「 A I のある生活とは?」というイメージが少し膨らんだでしょうか? 


そんな未来に向けて、私たち人間はどう生きていけばいいのか?
この夏にツイッター上で意見交換をしたいと思います。課題図書は下記。議論のベースを揃えるためにもぜひ読んでおいてください。


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そんじゃーね!