それなりに売れるいい本を作るには、次の 4要素が必要です。
1.コンテンツ
2.文章力
3.企画・編集力
4.販売力
コンテンツは本に書く内容そのもので、それを言語化するスキルが文章力。
本全体のメッセージを決め、それが読者に伝わりやすくなるよう構成、タイトル、デザインなど、「書籍」という形を作り上げていくのが企画・編集力。
最後の販売力は、書店での販売力と、本人のブランドや訴求力の二つに分かれます。
よく間違えられているのですが、「これを全部もっていないと、本は出せない・売れない」わけではありません。
下表のように、私(ちきりん)は「そこそこ面白いネタ」と「かなり上手い文章力」と「本人による“それなり”の訴求力」をもっていますが、
有名企業の経営者やトップスター、一流アスリートであれば、コンテンツの破壊力が抜群、かつ、本人の知名度も「日本中が知ってるレベル」なので、文章力や企画編集力などを自分でもつ必要は全くないんです。
↓
(色が濃いほどレベルが高いことを意味します)
上表の三番目は、下記の著者みたいに「息子 3人を全員、東大の医学部にいれた」みたいな人のことで、こういう場合、本人の文章力、知名度、販売力なんてまったく問われません。
他にも(加害者であれ被害者であれ)大事件の当事者となった人や、深刻な障害を持ちながらなんらかの分野で大成功した、みたいな人も同じです。
「灘→東大理III」の3兄弟を育てた母の秀才の育て方posted with amazlet at 15.06.01佐藤 亮子
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このように、本を作って売るには 4つの要素が必要なのに、そのうちのひとつ、もしくはふたつしか持たない人だって出版を実現し、ベストセラーを出しているわけです。
てか、寧ろそういう人の本の方がよく売れてます。
なぜかって?
足りない部分を補うプロのサービスが確立しているからです。
↓
つまり、
<強力なコンテンツ + プロの仕事> の方が、
<ひとりが 4要素すべてを、ちょっとずつ持ってる>
なんかより、よほどいいんです。
だから本を出したいからといって、「一生懸命ブログに自分の経験を書き続ける」のが最もいい方法とは言えません。
そんなことするより、なんらかコンテンツとしてインパクトのある経験をしておいたほうが、本がベストセラーになる可能性はよほど高くなる。
ただし、いわゆる作家さん(フィクション=物語を書く人。小説家)は、最低でもコンテンツと文章力は自分で担当する必要があります。
フィクション(小説)はビジネス書や実用書とは異なり“作品”であり“芸術”なので、文章化部分をアウトソースしてそれを開示しなかったら、いわゆる“替え玉問題”になっちゃいますからね。
芸術家は、「創造」に関わる部分は自分でやらないとダメです。てか、認めてもらえない。
★★★
で、ここからが電子書籍時代のセルフ出版(自己出版)の話なのですが、
「誰でも本を出せる時代になった!」とかいって、
・自分の経験をコンテンツとして、
・自分で文章を書き、
・自分でコンセプトやメッセージを決めて、ストラクチャーし、
・自分の SNS で売る
みたいなことをする必要はまったくありません。
そんなことしても、できあがった本は全く売れなかったりします。
なぜなら、それだと往々にして・・・4つの要素が、どれも中途半端になっちゃうからです。
↓
別の言い方をすれば、「誰でも自分で本を出せる時代」ってのを、「すべて自分でやらなくちゃいけない時代」だと思い込まなくていい、ってことです。
たとえば、「自分は毎日ブログを書いてて、ブログ読者やツイッターのフォロアーもそれなりにいる。文章も書ける。でも、まだ学生の自分の経験なんてタカが知れている」と思うなら、
「自分の考え」なんかを本にするのは止めて、「なんかスゲーおもしろい人とか、スゲー強烈な経験をしてる人」=強力なコンテンツを持ってる人を探しだし、その人を取材して本にしたほうが遙かにいいです。
さらに、ごく普通の優等生として生きてきてユニークな経験も無いし、文章力もごく普通。
だけどフォロアーは多いし、おもしろそうなモノに気が付く能力は高いというなら、二段目にあるような企画型のセルフ出版を試みて、「他者のコンテンツを、外部ライターに文章化してもらう」って方法を試すべき。
さらには「企画自体も公募しちゃえ!」ってのが、三段目。ネットワークと影響力だけは持ってる、というなら、これでもいいでしょう。
ライターにしろ編集者にしろ、今や特定のスキルを持ってる人は、クラウドソーシングサイトを含め、ネットで簡単に探せる時代なんだから。
必要なのは、「すべてを自分ひとりで揃える必要は無い」、「自分が持ってる中途半端なモノを 4つ集めるより、他者のでいいから“スゲー”モノを探してきて 4つ揃える」ほうが、最終的な生産物の質は高くなるかも、と考える“発想の転換”です。
先日受けたデジタル出版機構の “ I Love ebook宣言” というキャンペーンのインタビューでも、そういう話をしています。
→ ブログではなく、電子書籍で出版するメリット by ちきりん
世の中には、「めっちゃスゴイ」コンテンツでありながら(本人が文章化する能力も意思もないため)言語化されてないって経験がいくらでも存在します。
文章を書くのが好きな人は、安い原稿料で細切れの記事を書いて生活するより、そういう“インパクトのあるコンテンツを持ってる人”を積極的に探し、取材して電子書籍を出せばいいんだよね。
もし私が今 20才だったら(=今ほどの経験を持っていなければ)、自分のコトなんて書かずそっちを狙うと思います。
っていうのが、私の“マーケット感覚 ” です。
私事で言えば、つい最近、電子書籍印税の総額が(ようやく)1000万円を超えました。
過去数年の合計額なんで、まだウハウハって感じではないけれど、電子書籍元年から 3年でこれくらいなら、未来は決して暗くありません。
「自分で本を出す」と言うのは、そこそこ生きていける規模の市場になっていくだろうと思います
ただし、「てきとーなモノを、てきとーな文章で、てきとーに本の形にして、てきとーに売って」ても、成功はできません。
全部自分でやって中途半端なものを作るよりは、卓越したものを見つけてきて組み合わせる方が上手くいく。
企業も個人も同じなのですが、「何でも自分でやる」ではなく、「自分は何に集中すべきなのか」、しっかり考えることが必要な時代なのです。