最近、関東圏、特に東京のマンション価格が大変なことになってます。
最新号の東洋経済を読んでたら、不動産経済研究所調べとして
「2018年 1月から 6月の東京 23区の新築マンション平均価格が 7059万円」と書いてあってビビりました。
成約価格ではなく売り出し価格だとは思いますが、「平均で」7000万円超??
週刊東洋経済 2018年9/22号 [雑誌] (買って良い街 悪い街)posted with amazlet at 18.09.20
東洋経済新報社 (2018-09-18)
「 23区? 港区の平均じゃなくて??」と疑い調べてみたら、港区の新築マンションなんて億ションだらけ。
しかも 1億じゃなく 3億、 4億の部屋も珍しくなかったので、港区だけなら 7000万どころか「平均で」億に近いのかもしれません。
それにしても・・・「平均」 7000万円では「共働きで妻も夫も大企業正社員」でさえキツいんじゃないかな。
当然、「だったら中古を」という人もでてくるでしょうが、
中古でさえこの値段。 築 43年。世田谷区の下高井戸から徒歩 6分 69平米で 5180万・・・
築 43年のマンションって、20年ローンで買ってもローン終わった時に築 63年ですよ。そんなもの 5000万円で買うなんて、すごい勇気。
便利な場所だと築 63年物件でも賃貸需要はあるのかもですが、それにしても高い。
正直この価格で売れるとは思えないけど、仕入れ値も高そうなので大幅な値下げも難しそう。
★★★
実は東京ではここ数年、マンションの価格がどんどん上がってます。
下記は国土交通省が発表してる不動産価格指数(関東)なんだけど、
これを見ると、土地や戸建て住宅の価格はそこまでじゃないのに、マンションの価格だけが 2013年くらいから突然上がり始めてるんですよね。
(注:グラフの起点は 2008年の始めなので最初にちょっと下がってるのがリーマンショックです。そのときの下がり方と比べると、今のマンションの異常な高騰ぶりがよくわかるはず)
実際、最近は「戸建てのほうがマンションより割安」という声もあるほどで、一昔前の「戸建てには手がでないからマンションを買う」なんて感じではまったくありません。
中古マンションも、さきほどの物件が特殊というわけではなく、このデータによると、東京 23区、70平米換算の中古マンションの価格が 5500万円に近い。
こちらも 2013年から急騰。2016年以降は横ばいとはいえ、中古マンションの平均価格が 5500万円だなんて、東京以外の人には信じがたいでしょう。
それにしても、なぜマンションはここまで高騰してるの?
昔の専業主婦世帯とは異なり、共働きでは「庭付き一戸建て」よりマンションのほうが好まれるとか、高齢者が一戸建てを持てあまし、戸建てを売ってマンションに買い換えてるといった実需的な理由もあるんでしょうが、
やっぱ投資需要なしにこういうコトにはならないでしょ。
マンションは戸建てや更地(住宅地)より遙かに不動産投資に向いてます。
買った翌月から貸し出せるし、手軽なワンルームから億ションまで選択肢も豊富だし、管理にも手がかからない。
そしてなんといっても耐用年数が長いので、戸建よりはるかに銀行融資が受けやすい。
マンションへの不動産投資というと「中国人が東京のマンションを買いあさってる」みたいな話をする人も多いのですが、上記のグラフをみるかぎり、マンション価格は 2013年から急に上昇し始めてます。
これが「中国人投資家が買ってるからだ」というなら、2013年頃に中国人投資家を惹きつけるなんらかの理由があったはずなんですが、
「2013年になにがあったのか?」を調べていくと・・・
やっぱ一番怪しいのは「日銀黒田総裁の異次元緩和 @ 2013年 4月」なんじゃないかと。
この異次元緩和(いわゆる黒田バズーカ!)により、日銀は大量の資金を市場に供給、
その後 2016年のゼロ金利政策では、民間銀行にも「とにかく金を(抱えておかずに)貸し出せ!」と強いプレッシャーを掛けました。
それがスルガ銀行みたいな暴走銀行を生んでるわけです。
不動産価格の先行き予測では「需要と供給」のバランスを語る人も多いのですが、実は不動産価格が大きく動く時の理由は、需給ではありません。
もう一度、1990年代になぜバブルがはじけ、不動産価格が一転、下落を始めたのか、思い出してみましょう。
あのときバブルがはじけたのは「家を欲しい人が減ったから」ではありません。もちろん「家の供給が大幅に増えた」からでもない。
自宅用でも投資用でも「不動産を買いたい!」人はたくさんいました。それなのに、突然、不動産価格が暴落を始めたんです。
なぜかって?
政府が銀行の不動産融資を抑制する総量規制をかけたからです。
きっかけは、1990年 3月に当時の大蔵省銀行局が金融機関に出した「土地関連融資の抑制について」という行政指導で、不動産価格の高騰を抑える目的で出されました。
この国会審議さえ不要なたったひとつの行政指導が、日本を「失われた 20年」に突き落としたのです。
不動産市場を大転換させるのは、受給バランスではなく銀行の融資姿勢です。
不動産は実需であれ投資であれレバレッジをかけて=多額の借金をして、購入されます。だから不動産を買う人が増えるかどうかは、「銀行が買い手にお金を貸すかどうか」がすべてなんです。
銀行が多額の融資を決めれば高く買ってもらえるし、貸出額が低くなれば安くしか売れない。
そして銀行が不動産に貸さなくなると、市場から買い手が消えます。
最近はクラウドファンディングやエンジェル投資家など、ビジネス一般の資金調達にはいろんな手段が現れました。
でも今のところ「不動産を買う」ための資金をサクッと貸してくれるのは銀行だけです。
そしてその銀行は、当局(金融庁や日銀)の監督下に置かれています。
政府や日銀の政策や行政指導や監督方針が変われば、銀行は突然にお金を止めます。それを証明したのが、1990年のバブル崩壊でした。
★★★
バブルの始まりにはその逆が起こります。
2013年に始まった異次元緩和やその後のマイナス金利政策で、銀行は必死に貸出先を探しました。でも企業はまったく借りてくれない。
その資金が不動産融資に向かった。
これが、タワマン、アパート、シェアハウス投資家などへの過剰な融資や、頭金ゼロかつ変動金利での住宅ローン、さらに、住宅ローン借り換えを促す熾烈な競争へとつながっています。
スルガ銀行だけじゃありません。
金融機関の多くが「頭金も貯められてない人に、こんな多額の住宅ローンを貸して大丈夫なのか?」「こんな物件にこんな額の融資をして大丈夫か?」と疑問に感じつつ、目先の利益のために貸出を続けています。
日銀のゼロ金利政策のせいで、将来のことなど考えていられないほど足下の収益が厳しいからです。
(実はもう一つ、無茶な貸し出しをしてた相手がいます。それは生活費に困ってる人向けの消費者ローンです。でもこちらはすでに、当局からストップがかかってしまいました)
★★★
不動産をキャッシュで買う人などほとんどいません。
投資にしろ自宅用にしろ、多額の資金が低金利で借りられるから、こんな割高、かつ、収入に比べて明らかに分不相応な高値の物件でも買えているんです。
でも銀行が金利を上げたり、審査をほんの少し厳しくするだけで、借りられる額は大きく下がります。そうなったら買い手は一気に減り、市場は萎んでしまう。
バブル崩壊時に起こったのはそういう現象でした。決して不動産自体の需給バランスが崩れて値下がりしたわけじゃないんです。
今回もマンション価格の先行きは、人口減少とかオリンピックによって決まるわけではありません。
それはひとえに、安倍首相と黒田総裁がいつ金融緩和からのエグジットを始めるのか、に依存しています。
常識的に考えて、安倍首相が来年の消費税増税、その後の憲法改正の動議の前に(超低金利政策からの)エグジットを考え始めるとは思えません。
そんなことして景況感が崩れたら、増税も憲法改正もできません。
黒田総裁なんてすでに「エグジットは俺の仕事じゃねーよ。次に総裁になる奴、よろしく!」と開き直ってるようにさえ見えます。
だから当面、東京でのマンション価格は上がり続け、住む家を買う(実需の)人は、将来の生活設計を危うくするほど過大なローンを組み続けざるをえないでしょう。
でもその一方で、そんなことが何十年と続くとは思えません。
このままだと、また当時と同じことが起こります。すなわちどこかの段階で、実需で不動産を買う人がいなくなるんです。
いくら銀行が貸してくれると言っても、実需(自分の家用)だとさすがに買えない値段がやってくる。すると、不動産を買うのは値上がり狙いの投機家だけになる。
彼らはどんなに高値でも、「さらに高くなるはず」という理由で買い続けるため、この時点で不動産価格には理屈上の上限がなくなります。
銀行がお金を貸し続ける限り、実需がないのに価格が上がっていく。これが 30年前に起こった不動産バブルの本質でした。
それがしばらく続くと「投機家と銀行が相互にお金を回しながら不動産価格を果てしなく高騰化させ、マジメに働いてる国民が誰も家を買えない状態」を目にした当局が、
「こんな状態は異常だ。どうみても国民のためにはならない。我々が是正せねば!」と考えます。そしていきなり銀行の融資にストップが。。。
ほんとにこのまま都心マンションの価格が上がり続けたら、10年後か 20年後かしりませんけど、高値掴みをした投機家と、変動金利でめいっぱいの住宅ローンを借りている無知な人は、一気に人生が暗転します。
あたりまえですが、賃貸マンションの家賃はこんなペースで上がったりしてません。分譲価格とは異なり、家賃がこんな上がり方をしたら社会問題になります。
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加えて「売れないけど仕入れ値が高すぎて値下げできない」リノベ物件や、分譲新築マンションの売れ残り部屋が賃貸市場に流入し、ファミリー向けやおしゃれな賃貸も増えています。
だったら無理して購入するより、賃貸に住み続けてればいいんです。
でもバブルの頃も、多くの(真面目な)人がめっちゃ無理して家を買ってました。
「また上がってる! 無理をしてでも今買わないと、一生、買えなくなる!」と焦りまくり、
「ぜったいに買ったほうがいい理由」をいくつも並べ立て、自分で自分を洗脳しながら。
私は就職した直後にバブルとその崩壊に遭遇し、「ほんとに貴重な経験だった。もう二度とこんな経験はできないだろう」と思ってました。
でも・・・ もしかしたらもう一度、あれを経験できるのかもと思い始めた今日この頃です。
くわばらくわばら。