新型コロナの感染で海外からの観光客がストップして数ヶ月。
昨年 3188万人も来ていた観光客は、2月には半減、4月からは「ほぼゼロ」となっています。
・訪日外国人動向2020 - 観光統計 - JTB総合研究所
今日はこの「インバウンド観光業」が(通常の観光業に比べても遙かに)大変な状況になっている、その要因について書いてみたいと思います。
1.大きな投資をしたばかりだった
インバウンド観光業者の中には、「昨年、大きな投資をしたばかりだった」というところがものすごく多いんです。
なぜなら、インバウンド観光が盛り上がってきたのは、ここ数年のことだから。
海外からの観光客が 1000万人を超えたのは 2013年、2000万人を超えたのが 2016年、3000万人を超えたのは 2018年と、ごく最近です。
「これは行ける!」と確信した企業が大きな投資を決断し、不動産を探し、契約し、人を雇い、具体的な内装工事を終えてオープンにこぎ着けたのは 2019年(昨年)だった、というところがたくさんあります。
観光バス会社はバスを大量に発注
タクシー会社もタクシー車を大量に発注
いずれも多くのドライバーを雇い
ホテルは新館をオープンしたり、フロアを拡張したり、内装を一新し、
お土産モノとして大人気のチョコレートメーカーは、増産に向けて工場用地を取得し、工場を建て、
いざ操業!
という年が 2019年。
その翌年に、新型コロナに襲われたのです。
投資の大半は、銀行融資を得て行われます。利子を払い、借金を返済しながら、利益を確保していく。
そういう予定だったのに、突然、売上がゼロになってしまった。
だからといって、利子の支払いも借金返済も止まりません。
インバウンド観光業界が今とても厳しいのは、この「大きな投資をした直後に新型コロナに襲われた」というのが最大の要因だと思います。
2.日本人向けとは異なるニーズの市場だった
インバウンド観光業界が提供してきた価値の多くは「非日本人に特化した」ものなんです。
だからいくら go to キャンペーンで日本人が旅行を再開しても、売上にはつながりません。
たとえば、古い和室アパートを利用した民泊。
「いちどは畳の部屋に泊まってみたい」「伝統的な日本の部屋をみてみたい」という外国人旅行客にとっては、泊まる価値のある宿泊所でしょう。
んが、
今どき日本人で「出張の際、ビジネスホテルの代わりに、住宅地にある昔のアパートみたいな和室の部屋に泊まりたい」みたいな人はいません。
こういう民泊施設は「完全に」日本を知らない人のための施設なのです。
お土産用のチョコレートだって同じです。
昨年までは、大量のチョコレート菓子を買い物カゴにてんこ盛りにしてレジに向かうインバウンドの客がどこの空港でも観られました。
んが、
日本には今、旅行であれ出張であれ、「帰宅時に、チョコレート菓子を10箱買う」みたいな人はいません。
増産に次ぐ増産で新規に建設されたチョコ菓子の工場は、日本人向け市場では稼働が維持できないのです。
東京スカイツリーなどの観光地も、日本人であそこに何回も行く人はいないでしょう。
毎年あたらしい人がやってくるインバウンド観光だから、毎年、多くの人が入場料を払ってくれるのです。
その下の店舗で売られている数々の和風のお土産も同じ。
あんな「なんちゃって浴衣」や「なんちゃって和風」な雑貨を買いたい日本人は多くありません。
浅草には外国人に浴衣を貸し出すお店もありますが、日本人で浅草まで行ってから浴衣を借りようという人はいないでしょ。ユニクロで買って、家から着ていけばいいんだから。
このように、インバウンド観光業界の中には「海外の客には人気だが、日本人には魅力的とはいえない商品やサービス」を提供しているところも多い。
だから、go to キャンペーンでは救えないのです。
3.インバウンド観光が集中したエリアは、家賃が高騰していた
東京でいえば浅草です。
毎年 3000万人やってくる海外からの観光客の多くが、浅草にやってきます。
日本人にとっては「一生に一度いくかどうか」という観光地でも、インバウンド観光にとっては「大半の人がいく定番観光地」というのが存在するわけです。
日本全体でいえば、北海道の小樽や富良野。大阪ミナミの商店街。大型クルーズ船が定期的にやってきていた沖縄もそうでしょう。
こういうインバウンド集中型の観光エリアが、ここ数年、日本にはたくさん生まれていました。
そしてそういうエリアでは、不動産の価格や家賃が他エリアより遙かに高い比率で高騰していました。
だから収入が止まると、コストの負担がひじょーーーーに大きい。
5年前の浅草の家賃なら持ちこたえられた店でも、今の浅草の家賃を払い続けるのは不可能である、という状態になっているんです。
しかも家賃が高騰したため、そういったエリアでは日本人向けの普通の店ではもはや商売が成り立たなくなっていました。
このため先ほども書いたように「外国人に受けるように設計、企画されたお店」が「観光客しか買わない値段で」ものを売っていたのです。
でもこのままでは、飲食店も、雑貨店も、ホテルも、観光施設も、ぜんぶ「高騰した時期に契約した家賃に耐えられなくなる」でしょう。
政府は家賃補助も打ち出していますが、インバウンド観光の戻りが来年の末というようなことになれば、そういったエリアでは多くの店がシャッターを下ろさざるをえず、大家である不動産投資家にまで影響が及ぶことになるでしょう。
4.インバウンド観光の復活は相当に先になる
これも、国内観光との違いです。
3月(の学校閉鎖あたり)から市場が冷え込んでも、日本人の国内旅行に関しては、3割であれ 6割であれ、そこそこ客が動いています。
しかし、インバウンドの観光客数は、4月が 2900人、 5月は 1700人という有様。
これが、昨年 5月の数字である 270万人に戻るのは、いったいいつになるのでしょう?
まずは、海外渡航の制限が外れないとどうしようもありません。
しかも、「双方の国の制限」が両方、解除される必要があります。
日本以上にインバウンド観光で生きてきたイタリアやスペインは、既に海外からの観光客を受け入れると発表しています。
んが、
日本も中国も、自国民がそれらの国に観光目的で渡航することを禁止しています。
→外務省 海外安全ホームページ
受け入れ側だけでなく、送り出し側の国も許可をしないと、インバウンド観光は元に戻らないのです。
さらに渡航制限が解除されても、事前や事後のPCR検査が必要であったり、自主隔離期間を課されるといった不便さも残ります。
国によっては、海外旅行ができるだけの経済的な余裕のある人も減ってしまっているでしょう。
その上で、多くの人が「あの国に行っても安心」「あの国から来てもらっても安心」と思い始めないと、インバウンド観光が元に戻ることはありません。
しかも、インバウンド観光の中心は「団体旅行」だったので、「密」を作りがちな大型バスで観光施設や銀座のデパートに乗り付ける、といったスタイルです。
こういった旅が「三密を回避する」のは、ものすごく大変だし、新たなコストも必要になるでしょう。いままでのような料金では利益がでるようにはなりません。
国内の旅行解除は(いろんな議論はあるとはいえ)すでに始まっているし、一年もたてばある程度は復活するでしょう。
でもインバウンド観光が元に戻るには(下手すると) 2年から 3年が必要です。
今は政府からの無利子無担保融資などで生きつないでいるとしても、現実問題として数年も(業態変換せず)持ちこたえられる企業があるとは思えません。
以上、インバウンド観光業は「通常の観光業に比べても遙かに厳しい状態にある」ということと、その要因をまとめておきました。
日本の新しい産業として期待されていたインバウンド観光業、いったいどうなってしまうのでしょう。
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