近年よく使われる“二大政党制”という言葉。これが成立するためには、二大政党の議員数がバランスすること以外に、もうひとつの条件が必要です。
それは「基本思想の対立」です。それぞれの政党が依って立つ根本的な考え方に明確な対立点がないと、効果的な二大政党制は成立しないのです。
たとえば民主党がこれからやる!と主張することの大半は、小泉さんが既に掲げていることばかりです。
主張が同じであれば政権党が圧倒的に有利であり、国民は政権交代の必要性を感じません。今の民主党と今の自民党にはその差がなく、これでは二大政党にはなりえないのです。
ヘゲモニーの対立で一番わかりやすいのが 55年体制です。当時の自民党と社会党には明確な“対立思想”がありました。資本主義経済か社会主義経済か、米国寄りかアジア寄りか、という対立です。
イギリスの保守党と労働党も同じです。イギリスにはまだ色濃く社会階層が残っています。ノーブルな層の利益か、労働者階級の利益か。その対立思想に基づいて二つの政党があるのです。
アメリカの共和党、民主党の違いも明確です。
裕福で保守的な白人支配層か、経済的に必ずしも豊かではないマイノリティか。それぞれが支援する産業も、伝統的な重厚長大産業と、サービス産業やIT、バイオなどの新産業に分かれています。
したがって、「日本でも二大政党制が成り立ち得るか?」と考えるためには、「何と何の対立構造が、日本において成り立ち得るか?」と考える必要があるのです。
いくつか、対立構造になりそうな点を挙げて考えてみましょう。
(1)生まれつきの貴賤・・・欧州的な貴族階層は日本には存在しません。日本の元皇族は数が少なすぎるし権力、経済力も弱すぎて、「皇族vs.平民」という対立は成立しえないでしょう。
(2)学歴の上下・・・大学進学率が非常に高く、学歴と経済的なポジションの相関も、英仏やアメリカに比べて極めてゆるいのがこれまでの日本の特徴でした。
超一流大学を出ても博士号をもっていても“一兵卒”からキャリアを積めといわれる日本のシステムはきわめて民主的で、学歴上での“エリート”という区分さえ明確ではありません。
ただし、この点については(以前に書いたような)ゴールドカラー的な人が増え、一方でずっと非正規社員という人も増えてくると、今後は対立構造を形成する可能性もあるでしょう。
(3)経済思想の対立・・・社会主義、共産主義は世界的に敗北が確定しており、今さら“右か左か”という思想対立で政党がふたつ並び立つのは不可能でしょう。共産党も社民党も議席は相当少なくなっています。
(4)経済状態の上下・・・“一億総中流”と言われた高度成長期の日本では成り立ち得ない対立軸でしたが、経済格差が問題視されることも多くなった今後は、この基準で対立するふたつの政党が並存することはあり得るでしょう。
いわゆる“配分論者”と“経済のパイ拡大論者”の対立です。
(5)国際政治グループの選択・・・これもあり得ますよね。
今までは、なんだかんだ言っても「アメリカ追随」以外に現実的に日本が選べる道はありませんでした。東西対立の時代には、アメリカ側に付かないことはそのまま共産主義陣営に入ることを意味していたからです。
でも今は違います。アメリカ以外でも、アジアも欧州も選択肢として検討できるでしょう。
(6)産業の別・・・アメリカだと、金融とメディアのNY,ハイテクとバイオのカリフォルニア、自動車のデトロイト、石油のテキサス、エンターテイメント産業のLAというように、地域によって“キラー産業”が異なりどれも世界的な競争力をもっています。
すると、為替が安い方がいいか高い方がいいか、保護主義がいいか自由貿易主義がいいかなどの“産業の対立”がありえて、それぞれを支援する政党が現れます。
しかし日本では輸出型の組み立て産業(電気・機械、自動車)と、化学など産業材プロセス業のみが抜きん出た国際競争力をもっていて、それらに対抗できるほどの産業は今のところ出てきていません。
なので、産業を二分して対立する二つの政党、もまだ成立しそうにありません。
(7)人種の違い・・・この点についても日本ではマイノリティの規模が(二大政党を構成するには)小さすぎるでしょう。
(8)都市と田舎の違い・・・今までは「田舎の利益を代表する自民党と、都市の利益を代表する革新政党」という対立があり得ました。でも、最近はこれも対立軸としては弱くなっています。
交通と情報と教育が行き届き、田舎と都会の人の考えはずいぶん交じりあうようになりました。
孫正義社長や堀江貴文氏も九州で教育を受けて育っているように都会の人の多くは地方出身者で、彼らは田舎の状況も理解した上で自分の意見を決めています。
また、ずっと地方に住んでいる人でも「こんなところに高速道路は不要」「ダムも要らない」と考える人もたくさんいます。
★★★
となると、「日本における対立構造」としてあり得る要素は、以下の3つと考えられます。
(2)学歴の上下
(4)経済状態の上下
(5)国際政治グループの選択
この3つの要素を組み合わせると、以下の二大政党がありうると気がつきます。
A党支持者=欧米で学位をとるなどゴールドカラー的な教育を受けて、リスクをとる人生を選択する。もしくは教育を早々に切り上げ、自ら起業している。
30代で年収1000万円を超える人も多いが、年収が高いというより「年収期待値」が高い人達。米国的な資本主義経済圏の一員としての日本を支持し、国際社会のリーダーとして尊敬される日本を志向する。フリーターやニートは「支援すべき社会層」と捉える。
B党支持者=日本で教育を受け“日本でのみ通用する”仕事についている。終身雇用や年功序列を好み、定年後は厚い公的福祉に守られたいと考えている。
国際社会における米国の独断的な言動に嫌悪感を持ち、アジアと連帯したいと考える。経済大国である必要はないから、平和で平等な日本でありたいと考えている。フリーターやニートは「社会の構成要素」である。
A党は自民党と民主党の中堅以下、若手政治家の主張に近く、B党は公明党と共産党と社民党と民主党(の元市民活動家グループ)をあわせたような政党です。
こういう組み合わせになれば、数合わせだけではなく、主義主張としても差異が明確な“対立軸のある二大政党制”となるのです。
ところが現状の政党はそうなっていません。現在は、
・A党的な自民党とB党的な公明党がくっついている。
・民主党は、党内にA党的な人とB党的な人が混じってる。
というふたつのねじれがあります。
この二つのねじれが解消しないと、対立構造がはっきりせず、したがって二大政党制は日本では形成されません。しかもこのねじれ現象は、実は意図的に作られています。
自民党と公明党がくっついてるのは、今の日本ではA党とB党の対立がまだ“そこまで”明確じゃないことを、彼らが理解しているからです。
そこで主張が違うのをわかった上で敢えてくっつくことで、自民党がA党支持者の、公明党がB党支持者の票を得ようという作戦です。
だから最強なんですよね、“小泉自民党+公明党”
というわけで、日本に二大政党制が実現するとしたら、その組み合わせは、
1)自由&民主党
2)社会民主共産公明党
のはずなんだよね。
また明日!