最近、世界で今一番おもしろいのはパキスタンだと思う。めちゃんこおもしろい。
ちきりんはムシャラフさん、けっこう好きです。スーツ来て丸の内にいたら、普通のサラリーマンみたいじゃない?
彼の「現実主義的なところ」が好きなんだよね。原理原則や理想ではなくて、現実に即してものを考える。そういうリーダーだと思います。
だからこそ、これから彼がどうでるのか、とても興味深い。
ご存じのとおり、ムシャラフ政権は「軍事独裁政権」です。ビルマ(ミャンマー)と同じですね。ミャンマーと違うのは、親米政権であるということです。だから誰もそれを「軍事独裁政権」とは呼びません。
ちなみに、サウジアラビアは王家独裁・米軍傀儡政権だし、イスラエルは軍事国家ですが、いずれも親米国なので、そうは呼ばれません。軍事国家、独裁国家と呼ばれるのはミャンマーや北朝鮮など、反米の国だけです。
ちなみにムシャラフおじさんは、スーツと軍服を使い分けてメディアに露出します。「武力による政権の後ろ盾がある」と示す必要がある時は迷彩模様の軍服を着てるし、西側諸国に協力する親米国家であることをアピールしたい時はスーツでカメラの前に現れます。
このあたりの見え見えなワザが、ちきりんが「現実主義的リーダー」としてのムシャラフおじさんが好きなところです。
軍事政権ではありますが、国全体は全く掌握できていません。この「自国全土が掌握できていない」ということが、ムシャラフさんのまたラッキーなところです。
だって、全国掌握できてたら、パキスタン国内に潜伏しているビンラディンを捜してきてアメリカに差し出さなくてはなりません。そんなことしたら、すぐにムシャラフさんは過激派テロに暗殺されてしまいます。困ったことです。
そもそも親米国家とはいえ、そんなの「かっこだけ」です。ムシャラフさんももちろん心の中では親米でもなんでもないでしょう。親米な振りをしているだけです。
だから、まじでビンラディンの首なんて差し出すことはできません。そのためには、「意思はあるんだけど、差し出せない」という言い訳が必要です。
で、彼は言います。「全国を掌握できてないんですよ、私の政権は。いやあ、お恥ずかしい。」「だからビンラディンも見つけられなくて・・・申し訳ないっすね」ってな感じで、アメリカに言い訳してます。
パキスタンの全土を掌握する気なんて、彼には全くないです。そんなことしたら大変すぎ。
★★★
パキスタンはインドと仲が悪いです。犬猿の仲です。そもそもインドから独立した国ですから、インドに勝つこと(=インドから実質的・政治的独立を勝ち取ること)がパキスタンの存在目的である、と言ってもいいくらいです。
インドは非同盟中立という外交方針のある国です。ちなみに、現代において「非同盟」とは、「親米ではない」という意味です。
中国はインドと仲が悪いです。これは、どちらも「オレ様が一番」だと思っているからです。
ロシアは比較的インドと仲がいいです。アメリカの同盟国にならないインドに感謝しているし、中国を嫌いという共通点もあるからね。そうなると、ロシアとパキスタンは仲良くはありません。 ここでもパキスタン=親米傾向、というインセンティブがかかります。
パキスタンは山岳地帯に過激なイスラム教徒達を庇護する多くの部族長を抱えてるわけですが、このあたりは「軍事準備エリア」です。
ローカルテロ部隊を支援するソビエトKGBもこのあたりで暗躍しています。この「山深き軍事準備エリア」を中央の政権が「実効支配できてない」ということが、非常に重要です。 パキスタンが国際社会において、「政治的に生き残るために」
★★★
パキスタンは、ずうっと核が欲しかった。とにかく核が必要。なぜか。天敵のインドが核を持っているからです。こっちも核を持たないと話になりません。
しかし、大国インドならともかく、パキスタンのような国が核を持とうとしたら何が起こるか。自明です。アメリカが怒ります。イラク、北朝鮮、イラン。アメリカはこれらの国が核を持とうとすると、ものすごい感情的に反応します。
アメリカは「小国で親米じゃない国が核を持つことは許さん!」という主義だからね。
でも、インドへの対抗上、パキスタンはなんとしても核が欲しかった。で、カーン博士という天才さんに、北朝鮮と取引させ、なんとか裏で核を持とうとした。
しかし、それも米国に暴かれて挫折しかけ・・・あああ、どうしよう、やばい!!と思っていたところに、天からプレゼントが落ちてきた。
911と、その首謀者であるビンラディンのパキスタン潜伏です。
お〜!!!ありがたい。千載一遇のチャンスとはこのことだ!!!
とムシャラフおじさんは思いました。
「ビンラディンはパキスタン国内に隠れてるんだと思うんだよね。もちろん私が責任をもってテロを摘発するから安心してくださいね。
うちはほら、知ってるでしょ?、うちは親米国家だから。あっそうそう、親米国家なんだから、ついでにこの前作った核兵器も見逃してね」とブッシュさんに提案した。
で、成功
ブッシュ政権はこの案に合意し、パキスタンが核を持つことを“責めない”ことにした。
これは画期的でした。すごいよね。よくこんなこと許すよねって感じ。
でも、ぜんぜんビンラディンは見つからない。ようやくブッシュ氏も気がついた。「騙されただよ。ムシャラフのヤローに」
ムシャラフおじさんも、困惑した表情を作って答える。「あの山岳地帯は全く実効支配できてなくて・・・」「でも大丈夫。我が国軍は、断固たる態度で!」
「ついては、インドと向かい合ってるカシミール地方に、ミサイル配備するのも一応見逃してください」と。「インドの首相に“今回だけは黙って見逃してやれ”って一本電話入れといてくださいね」と。
★★★
アメリカが「ムシャラフに完全にだまされたぜ」と気がついたのが1年くらい前だと思う。
で、アメリカは作戦を変えました。ビンラディンは捕まえられなくても「イスラム過激派の神学校」は潰せるはずだろ?と。
それもできないなんて、ムシャラフ、おまえ一体どーゆーことよ?と。
「むむっ、あほなアメリカもさすがに気がついたか。まずいな。仕方ない、神学校をひとつだけ潰すか」ということで、昨年の10月にシンボリックな神学校をひとつ空爆、その後、地上でも国軍を送って大破させた。
これはムシャラフおじさんにとっても大きな賭けだった。親米の振りをするのは問題ない。しかし、本気で親米したりしたら、本気でテロをとりしまったりしたら、イスラム過激派が自分を放っておかない。いつ暗殺されてもおかしくない。
だ・か・ら・
今日の会見は軍服でやってた。
★★★
そして1年。ムシャラフさんは「神学校まで潰したんだから、もう大丈夫だろ」「アメリカも、イラクやアフガンに忙しいし、そもそもブッシュもあと一年だし」と思っていた。
しかし、ムシャラフおじさんは読み間違えていた。
「神学校ひとつでアメリカは満足だろう」と思ってた。けど実は全部で1万5千個もある神学校。ひとつくらい潰して意味あるのか?という目でアメリカは見てた。
そして、米国内で「ムシャラフ許せん」派が声を大きくしつつあった。
「あいつは親米の振りして、核兵器を保有したかっただけだ」
「ビンラディンを捕まえる気なんて全然ないぞ」
「神学校だって、うちがひつこくひつこく言ってようやくひとつ潰しただけだ。他の神学校も潰せよ、馬鹿モン!!」
「カシミールとかどーでもいいんだよ、ばっきゃろー」
「だいたい軍事独裁政権のくせにデカい顔をしてられるのは誰のおかげだと思ってんだ」
「だいたい核保有の国なのに責められないのは、誰のおかげだと思ってんだ?」
「しかも、これ以上やったらイスラム革命の可能性だって? 天下のアメリカ様を脅迫するつもりか??」
というわけで、できあがったのが「ムシャラフ追い出し作戦」 developed by CIA。
★★★
ステップ1: 反政府勢力としてブット女子を帰国させよ
ステップ2: 反政府勢力としてシャリフ元首相を帰国させよ
ステップ3: ブット女子とシャリフ氏に、「そもそも意見の違う二人であるが、ここは協力して動く」ことを条件に資金援助と警護を供給せよ
ステップ4: xxxxxxxx (伏せ字)
どーする、どーする、ムシャラフ氏!
現実路線リーダーの命運や如何に!!!!
終わり
じゃね。