若者達の分水嶺

今年一年、“格差”というテーマで議論されたことは、次の二つに収束します。

ひとつが「地方をどうするか」問題であり、もうひとつが「捨てられた若者達をどうするか」問題です。

後者の若者切り捨て問題に関して、ちきりんが今年明確に意識したのが、「既得権益のえげつなさ」です。

問題は若者の問題ではなく、若者を切り捨てている方の「中高年の問題」とでも呼びたくなるほど、既得権益者のエゴと我が儘さはヒドイ。

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全体のパイが拡大していた高度成長時代と異なり、90年以降、日本経済が深刻に痛んだ時代、大人達は躊躇無く自分たちの既得権益を守り、それ以外の人たちを冷淡に切り捨てました。

企業は中高年の雇用と給与を守るために正社員採用をストップし、足りない労働力を非正規雇用で補完。そのために派遣法を改正させたんです。

当時正社員の座にあった中高年の人達は、自分の立場を守るため、必死の形相で、若者を切り捨てたんだと思う。

新卒の採用を絞りに絞っても、まだコスト削減が必要だった企業が(新卒採用の凍結に加え)中高年の首を切ると、“40代以降のリストラ”は、あたかも人道に反する罪であるかのように報道されました。

しかしその裏で、その倍の失業率に達していた若年者失業率は当初、全く注目されず、

それどころか、こちらは「甘えた若者達」「ニート問題」などという言葉で、責任は社会ではなく若者にあるという一大キャンペーンが展開されたんです。

40代が職を失うのは「社会の裏切り」であり、20代が職を得られないのは「甘えているからだ」という二枚舌的な理屈が社会の常識となってたわけ。

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最近の格差に関するニュースでは、生活保護が受給できない貧困層をとりあげ、行政を糾弾する論調が多いですよね。でも、それらのニュースにさえ、上記の構造が透けて見える。

というのも、高齢の貧困者はただただ哀れでかわいそうで社会が助けるべき対象として映し出され、視聴者は「かわいそうだから、ちゃんと福祉を適用すべきだ」と思わせられるようにカメラが回ります。

一方、若者の貧困者としてテレビに映し出されるのは、
「訓練を受けていない“何もできない”若者」、
「裏切られ続けて“気力を無くしてしまった”若者」であり、

企業の中枢にいる中高年達の目に映るその姿は「かわいそうではあるが、こんなのを正社員では雇えないよな」と思わせる、まさに彼らの描く“だめな若者”の姿です。

つまり、高齢者に関しては「かわいそう」なのに、若者に関しては「これでは仕事がなくても当然かも」という印象を残すんですよね、テレビ番組って。

★★★

今年は、搾取され、いたぶられ続けた若者達が初めて声を上げた年だったと思います。

これって画期的だったよね。とはいえ解決はまだだから、来年が「解決の最初の一年」になるかどうか。

ただし、残念ながらちきりんは、この問題に対して効果的な解決方法が提唱されてるのを、まだ見たことが無いです。

例えば景気が良くなって雇用を増やそうとする企業に対し、「新卒採用を増やす前に、今も非正規雇用のまま取り残されてる“10年前の新卒世代”を正社員として雇え」という主張も聞くんだけど、そんなお題目みたいなこと言っても誰も動かない。

「こんな給与じゃ食べられない」とか「こんな年収じゃあ結婚もできない」と」言われても、企業が「若者が結婚するのに必要な金額を払おう!」と思ったりするなんてのも、あり得ない。

でしょう?


最近やたらと化けの皮がはがれているキヤノンは、偽装請負で工場労働者のコストを抑えてるけど、これを糾弾する若年労働者達の声が一定以上盛り上がれば、企業側は工場を海外に移しちゃう。

彼らが、「若者が怒っているから正社員にしよう、高い給与を払おう」なんて思うわけがない。

けーたい派遣にも若者達は労働組合的な動きをして対抗し、結果としてフルキャストもグッドウィルも崩壊しつつある。

だからといって、けーたい派遣の仕事さえ失った若者達を、どこかの企業がいきなり正社員で雇ってくれるわけじゃない。

このあたり、巧妙に若者を追い込んでいった過去10年の中高年の巧みさに比べ、若者は圧倒的に未熟で策を持たない。

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彼らの発するメッセージは 50年前と全く同じ。「搾取するな」「労働者に人間らしい生活と権利を!」

そういってデモるのって 50年前の方法論なんだよね。現代において、この方法で本当に何かが変わるのかな?



「悪いのは俺たちじゃなくて、おまえらだ!」と若者が叫び始めたのが、今年だった。それは重要な一歩だよね。

だけど、「だから、こうしてくれ。こうすべきだ」という具体的で実効性のある“解”は、今はまだ全く提示されていない。

若者には「戦略」が必要だと思う。

この社会をどう変えていくのか、その絵を書くのが“中高年”であれば、それはまたしても“結局、中高年層に有利”なものになっていく。

その力に、若者達は対抗できるのかな? つまり、自分たちで絵を描くことができるのかな?


そういうことが問われる一年になると、思います。だから来年あたり、“若者達の分水嶺”だと思うんだ。


まあ頑張ってください。


じゃね。